Yahoo!ニュース

滋賀GOブラックスの元気印・奥村真大は独立リーグから兄・奥村展征(ヤクルト)超えを目指す

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
兄・展征選手の先輩、川端慎吾選手にもらったバットを愛用(撮影:筆者)

■滋賀GOブラックスに入団した新人・奥村真大選手

 どこにいるのか、すぐにわかる。声が聞こえるほうを見れば、そこにいるのだ。

 滋賀GOブラックス日本海オセアンリーグ)の奥村真大選手は練習中、試合中にかかわらず常に元気よく大きな声を発している。自身に気合いを入れ、仲間を鼓舞する声だ。

 シーズン途中に入団し、3日間の練習を経て5月28日、公式戦に初出場したばかりだ。しかし、すでに長年在籍しているかのように馴染んでいる。

 自分から先輩たちに話しかけ、ときにはいじってヤジを飛ばす。まったく物怖じしないのだ。もちろん礼儀はしっかりした上でだが、その溶け込み方には驚かされる。

ユニフォームがまだ間に合わず、松山傑氏(コーチ→現球団代表)のものを拝借(写真提供:石川ミリオンスターズ)
ユニフォームがまだ間に合わず、松山傑氏(コーチ→現球団代表)のものを拝借(写真提供:石川ミリオンスターズ)

 視野広く、周りをよく見ている。キャッチャーがスローイングの練習をしていると、「僕、バッターやりまぁ~す!」と飛んでいく。そして「左のほうが投げにくいですよね」と左打席の位置に立つ。より実戦に近い練習になるようにとの配慮だ。

 早くも先輩たちからかわいがられているのは、こうして自分にできることは率先してやろうとする姿勢にあるのだろう。

バッター役で進んで参加(撮影:筆者)
バッター役で進んで参加(撮影:筆者)

■友人・長谷川勝紀選手からの誘い

 滋賀県湖南市出身で、龍谷大平安高校時代は1年夏、2年春に甲子園に出場し、右のスラッガーとして注目を集めた。7歳上の兄・奥村展征選手(読売ジャイアンツ東京ヤクルトスワローズ)と同じように高校からNPB入りを目指し、プロ志望届を出したものの指名は叶わなかった。

 東洋大学に進学し、2年生になるはずの奥村選手がなぜ今、滋賀GOブラックスに入団したのか。

 「大学に入って、試合に出られないという状況もあって、大学で野球を全うする気持ちがちょっとグラついてた」。

 これまで順調だった野球人生に、初めて迷いが生じたという。

(写真提供:石川ミリオンスターズ)
(写真提供:石川ミリオンスターズ)

 悩める日が続いているときだ。高校時代から親交の深かった長谷川勝紀選手から「滋賀で一緒にやらないか」と声をかけられた。

 近江高校出身の長谷川選手とは、「高校時代に練習試合もしてたし、甲子園(出場)のときに京都と滋賀って泊まる場所(宿舎)が一緒なんですよ。同い年だし、けっこうしゃべるようになって」と次第に仲よくなり、卒業しても交流は続いていた。リスペクトできる友人でもある。

 「アイツへの信頼度が高い。しっかりやるタイプでキャプテンシーがある。滋賀でもキャプテンをやってると聞いたんで、ついていっていいんじゃないかという思いがあった」。

 そこで即、決断した。地元の滋賀で、信頼する友と一緒にプレーしようと。

 「中途半端な気持ちで大学生活を過ごしていても、ほかの方にも迷惑がかかるという思いもあった。一からちゃんとやれる場所でやりたいと思って入団させてもらったのは、自分にとっていい決断だったかなと思う」。

 温かく迎え入れてくれた球団にも感謝しているとうなずく。

グラウンド整備もキビキビと(撮影:筆者)
グラウンド整備もキビキビと(撮影:筆者)

■有名な野球一家

 奥村家といえば有名な野球一家だ。文部科学副大臣も務めた元国会議員の祖父・展三氏は甲賀高校(現水口高校)野球部監督としてセンバツ出場へ導いた。

 父・伸一氏は甲西高校2年と3年の夏に甲子園出場し、近畿大学プリンスホテルでプレーを続けたあと、母校・甲西高校の監督を務めた。

 兄も日大山形高校3年時、甲子園でベスト4入りした。三代にわたって甲子園の土を踏み、さらに父と兄は「甲子園父子本塁打」も記録している。

 これまで家族に野球のことで相談することはなかったが、今回ばかりは「ほんとに自分の中で無理だなって思ったんで」と心の中の澱を打ち明けた。「野球に対しての気持ちが揺らいでいる。もう辞めたい」と。

 「自分がしっかりやれば前も見えてくる」と応援し続けてくれた父も、今回の決断を喜んでくれた。

なんのポーズかな?(撮影:筆者)
なんのポーズかな?(撮影:筆者)

■アグレッシブなプレースタイル

 入団し、背番号1をもらった。ここまで3試合において「3番・サード」でフルイニングに出場し、13打数2安打という成績だ。

 「やっぱり投手のレベルが高い。元NPBの方もおられて、やっぱり球の質も違う。そういう方の球を見られるっていうのは、大学と違ったところだと思う」。

 高いレベルで野球ができることが、刺激になっている。

(写真提供:石川ミリオンスターズ)
(写真提供:石川ミリオンスターズ)

 打席では“雰囲気”を感じさせる選手だ。実際の身長183cmより大きく見える。ただ、約3ヶ月、投手の投げる生きた球を見ていない。ゲームにも出ていない。そういった“試合勘”はまだ戻っていないようだ。

 「自分の中でももっと振りたいという気持ちはあるけど、結果を気にしてしまうことが多い。監督さんにもやっぱり『思いきって振るだけ』って言われた。そこは独立リーグだし、個人のレベルアップをしっかりしていかないといけない」。

(写真提供:石川ミリオンスターズ)
(写真提供:石川ミリオンスターズ)

 打つだけではない。守備や走塁でもアグレッシブな姿を見せている。一塁走者で外野フライが飛んだとき、二走と同時に自身もタッチアップで走り、二塁を陥れた試合もあった。

 「やっぱり中学、高校とそういうのを教わってきている。そうやってしっかり叩き込まれているので、そこは体が反応する」。

 状況判断もしっかりできているのだ。

 ちなみに足の速さはどうだろうか。「今はだいぶ遅くなったけど、もっと動いて普通に戻れば平均よりも…」と言ったあと、「お兄ちゃんよりは速いと思います(笑)」と付け加えた。

 まだまだ「体がヘタッて重い」と言い、今後追い込んでキレを出していくつもりだ。

(写真提供:石川ミリオンスターズ)
(写真提供:石川ミリオンスターズ)

■兄のつながりに感謝

 リーグ内には、他チームに兄と所縁のある選手も所属している。

 「秋吉東京ヤクルトスワローズ北海道日本ハムファイターズ福井ネクサスエレファンツ)さんだったり、山川晃司東京ヤクルトスワローズ富山GRNサンダーバーズ)だったり。お兄ちゃんのつながりで声をかけてもらっている。とくに山川さんはお兄ちゃんとも仲よくて、以前にもしゃべったことあるんで」。

 そういった選手の存在が、奥村選手にとってこのリーグをより身近なものにしてくれている。

初めて書くサインは自分で考えたもの(撮影:筆者)
初めて書くサインは自分で考えたもの(撮影:筆者)

■お兄ちゃんに勝つ

 ここから改めてNPBを目指す。

 「野球を始めてからやっぱり、お兄ちゃんに勝つことが第一の目標だと思ってきた。そこを越えるには、まずはちゃんとNPBに入らないといけない。そういう環境をいただいたこのチームに感謝をしつつ、やっぱりプレーで恩返ししないといけないなっていう思いがある。だから、そこはほんとに自分がしっかり頑張りたいと思っている」。

 ずっと目標としてきた兄の展征選手は、入団が決まって「よかったね」と喜んでくれた。同時にかけてくれた「野球って凄いだろ」という言葉が胸に響く。「野球の神様が僕にもう一度チャンスをくれたということだと受けとめました」と理解し、活躍する姿を早く兄に届けたいと願っている。

 兄の先輩である川端慎吾選手もバットをくれたり、兄を介して打撃動画を見てくれるなど、気にかけてくれている。

 新たな気持ちでリスタートを切った奥村真大は、兄の後を追い、やがては兄を超そうと挑戦を続ける。

打席に入るときに流れるビジョンの映像がカッコイイ(撮影:筆者)
打席に入るときに流れるビジョンの映像がカッコイイ(撮影:筆者)

【滋賀GOブラックス*関連記事】

常に「これが最後の試合だ」―クローザー・岡部拳門

【日本海オセアンリーグ*関連記事】

新生・日本海オセアンリーグ旋風を巻き起こす

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

土井麻由実の最近の記事