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はじめての「ひとり温泉」なら、絶対この宿! 女性ひとり客に明かす”絶対外さない”「宿選びのコツ」

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)
群馬県伊香保温泉「洋風旅館ぴのん」(撮影・筆者)

はじめての「ひとり温泉」――リスク回避としての宿選び

ひとり温泉ではなんでも自分で対応をしなければならない。

女性のひとり温泉が市民権を得たとしても、危険がつきまとうことは否めない。

こんなにも日常的にひとり温泉をしている私でも、要所要所は気を付ける。

フレンドリーさを全面に出さない。表情も、その時々の状況次第で使い分けている。周囲の空気には敏感になり過ぎるほどくらいが、ちょうどいい。

リスクヘッジという点で、ひとり温泉において最も大切なのは信頼できる宿探しだ。旅先で頼ることができ、確実な最新の土地の情報を持つ人は宿の皆さんだ。いまはWebで簡単に情報を得られるが、やはりそこで暮らす土地の人の勘なども含め、人から聞いた情報を私は最も信頼する。

ひとり温泉をこれから始める方には、小さめの宿を選ぶことを薦めたい。100室ある大型旅館よりも50室以下がよい。20室程度の宿を選ぶと、家族で営む場合が多く、ご主人と女将、他のスタッフはご近所のおばちゃんたちだったりするから、土地の情報をよく持っており、顔が見える分、困ったことを相談しやすく、知恵を貸してくれる。

とにかく、なにかと安心なのだ。

さらに、女性のひとり温泉の応援団のような宿がある。

群馬県伊香保温泉「洋風旅館ぴのん」だ。

 フレンチ洋食を浴衣とお箸で楽しむことをコンセプトにした「洋風旅館ぴのん」が出来たのは1997年。14室からのスタートだった。

 1997年(平成9年)と言えば、旅館がこぞって大型化して団体客で儲けた時代。そんな時期に女性をも意識したひとり客を想定した宿づくりとは実に斬新である。

現オーナーであり、女将の松本由起さんが、自分が泊まりたいと思える宿作りをしたと教えてくれた。

「留学先のイギリスでは、大勢の旅でもみなさんひとり一部屋でした。ひとりで2泊してエステ三昧なんていうキャリアウーマンもいました。そうしたイギリスで見た経験を活かして、うちのターゲットにしたのです。また、私がフランスへひとり旅をした時に、客室に男性が入って来て怖い思いをした経験もあります。ですから、お布団敷きなどではなく、部屋に誰も入ってこない仕組みにしたかったのです。それにひとりでいつでも気ままに寝っころがれるには、ベッドが良いですしね」

 旅館料理と言えば和食しか考えられなかった時代に、フレンチを意識した洋食を提供したことにもわけがある。

 由起さんの曾祖父母が「日比谷 松本楼」で修業し、後に伊香保温泉の石段で「西洋御料理 松本楼」を創業した。「ぴのん」も浴衣で洋食というコンセプトになったのも、そのルーツによる。

当初は、「ひとり旅を応援するため、全室ベッド化」「食べ切り料理」「英国にこだわりBGMもビートルズ」「地元の作家に壁画や絵を依頼し、アンティーク調に」を心がけた。

現在は手頃な価格帯で、食事はフレンチ風懐石。ひとり客、カップル、小人数大歓迎。シングルルームがあるのも気兼ねしなくていいし、嬉しい。

長年の経験から受け入れも、実に手慣れている。

「おひとりのお客様は広いお部屋に泊るのは、少し引け目があるようです。ですから『ぴのん』や姉妹宿の『松本楼』はシングルルームが6つづつあるので喜ばれます。おひとりでもお食事も愉しんで頂けますように、席の配置を考え、お話し相手になるようお声がけもします。いま取り組んでいる「ハーフ会食」も、当初はフードロスを考えての策でしたが、女性のひとり旅ですと、食事を分け合えないので、食べないと罪悪感が残ってしまう方に好評です。旅のサポートもさせて頂いております」

ひとり温泉で、引け目を感じさせない心遣いをするあたり、さすがである。

さらに、宿の静けさを保つために2022年から小学生未満の子供客は断るようにした。4つの貸切風呂は24時間開いており、いつでも入れる。

 ひとり温泉にはパラダイス!

「コロナ蔓延中はシングルルームから埋まりました。お客様に『ひとり部屋を作ってくださってありがとうございます。旅館にはなかなか泊まれないので、本当にありがたいです』と言って頂けます。日本もやっと30年前のイギリスみたいになってきたと思いました」と由起さんは微笑んだ。

※この記事は2024年9月6日に発売された『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)から抜粋し転載しています。

「ぴのん」外観(撮影・筆者)
「ぴのん」外観(撮影・筆者)

「ぴのん」客室(撮影・筆者)
「ぴのん」客室(撮影・筆者)

「ぴのん」貸切風呂(撮影・筆者)
「ぴのん」貸切風呂(撮影・筆者)

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界33か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便(毎月第4水曜)に出演中。国や地方自治体の観光政策会議に多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』(潮出版社)温泉にまつわる「食」エッセイ『温泉ごはん 旅はおいしい!』の続刊『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)が2024年9月に発売

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