大行列の「鉄道博2019」 仕掛け人は鉄屑を10万円で売る男
この3連休に大阪市内で開催されている「鉄道博2019」。
本日も開場時刻前にはこのような長い行列ができる大人気イベントになっています。
昨今、鉄道人気はかなり高くなってきていまして、新幹線からローカル線まで、「鉄道」と名前を付けると人が集まるという神話が業界ではささやかれています。そうなると、「とりあえず鉄道をテーマにすれば集客できる。」といった安易な企画も所々で目立つようになって来ていて、筆者などは「どうなのかなあ。」と考えるようなイベントも見受けられるようになりました。
そんな情勢の中で、毎年新春の恒例行事となっているテレビ大阪主催の「鉄道博2019」が今年も開催されて、確実に集客し、売り上げを伸ばしていると聞きましたので、取材してきました。
入場料800円也を払って会場に入ると、いきなり目の前に人混みが。
小さな子供はお父さんに肩車されて見つめているその人混みの先には、鉄道ファンの間では知らない人がいないほど有名なホリプロの南田マネージャーさんがトークショーを展開しています。
このショーが終わると、南田さんは各ローカル線のブースをまわって商品をご購入いただいた方とサイン会。
大人気の南田さんからサインをもらえるとあってブースの前は長蛇の列です。
各ローカル線のブースはたくさんのお客様で大賑わいです。
きっと売り上げも大きいと思います。
全国のいろいろなところのローカル線にお声をおかけいただいて出店の機会をいただけることは、田舎のローカル線にとってはとてもありがたいことですし、お客様も地元で全国のローカル線グッズが購入できるとあって、それが人気の秘訣のようです。
鉄道会社としてはなかなか職員を派遣して販売することは経費的には難しいものがありますが、どこの鉄道会社も応援団の皆様方が主力で活躍していただいているシステムになっているようで、それぞれのサポーターが接客を担当しているところがほとんどです。
お客様も販売員もどちらも応援者なのがこのイベントの特徴です。
また、最近では各ローカル線ごとにアイドルキャラも登場していて、ステージでは若桜鉄道アイドルの隼さくらさんのトークショーが行われファンに囲まれていました。
さて、このような鉄道イベントというのは、小さな子供から大人までが対象になりますが、コツというかマニア心と言いますか、そういうお客様のハートをぐっと鷲掴みにするような企画ができる人材がいないと、大企業の担当者やイベント会社の企画者レベルではここまでの年齢層を集客することはできないと筆者は考えるのですが、では、いったい誰がこのように盛り上がる鉄道イベントを企画しているのか。本日はその中心人物を直撃してみました。
このイベントの鉄道会社部門を企画担当する鉄道物品販売会社サンショップ大阪の吉田昭宏社長さん。
手に持っているのはかつて国鉄時代に福知山線で使用されていたサボと呼ばれる行先表示板です。
この行先表示板、実は1枚10万円です。
昭和の時代にはこのような行先表示板が列車に使用されていましたが、同じ行先表示板でも吉田さんが手にするものはフックで引っかけるタイプの旧式のもので、さらに、福知山線の列車では数少ない生瀬折り返しの列車に使用されていた昭和40年代初期のもの。蒸気機関車が引いていた時代の客車に取り付けられていたものですから、今では1枚10万円の値打ちがあるとのことです。
興味のない人から見たら鉄屑同然の鉄板が、吉田さんの目利きにかかると1枚10万円のストーリーが出来上がる仕掛けです。
その吉田さんに毎年毎年これだけ大盛況になる秘訣を聞いてみました。
「私は、小さな子供から筋金入りの鉄ちゃんの大人まで、みんなが楽しめる仕組みを作ることを心掛けています。そうしないとこの趣味は途絶えてしまう危険性があります。お金を持っている大人たちばかり相手ではなく、お小遣いを握りしめた小さな子供たちが、一生懸命選んで買うとこができる商品もたくさん揃えていますし、憧れのアイドルに会いに来る皆さんも大切なお客様です。だから、こういう10万円のものもあれば、100円玉で買える商品もたくさん作っています。」
吉田さんは笑顔でそうおっしゃられました。
吉田さんは続けます。
「私は子供のころ切手を集めるのが趣味でした。近所の古銭商のお店に小遣いを握りしめて出かけて行って、せいぜい100円か200円の切手を買うのが楽しみだったんですが、いつか、有名な見返り美人のような切手を買える日が来ると思っていました。そして、ある時、お年玉でもらった千円札を数枚握りしめて同じお店に行き、前から欲しかった切手を指さして、おじさんに見せてほしいと言ったんです。そうしたらお店のおじさんが、『子供には触らせないから帰れ』というようなことを言ったんですね。悔しかったですよ。でも、その時、私は心に決めたんです。自分が大人になって商売をやるときには、絶対に小さな子供たちに夢を持ってもえる商売をしようと。」
会場中央に設置された鉄道模型コーナーでは、目の前を走る模型の電車を食い入るように見つめるちびっ子たちがたくさんいます。
この子供たちがやがて大きくなって、大人の鉄道趣味の世界を育てていってくれるのです。
「鉄道イベントは儲かるから」と言った安易なプロモーターではなく、吉田さんのようなきちんとしたビジネス理念を持った方が企画に参加するイベントだからこそ、きっとこれだけ盛り上がるのだろうと筆者は確信しました。
この「鉄道博2019」は明日14日までの開催です。皆様どうぞお出かけください。
詳細はWebサイトにてご確認ください。
※印以外の写真はすべて筆者撮影
※印は吉田社長さん撮影です。