4月から新型コロナ「治療薬の使用控え」が懸念 自己負担増の抗ウイルス薬とワクチン
現在、新型コロナに関して、抗ウイルス薬の費用補助、入院医療費の負担軽減、ワクチン接種費用の無料化といった支援が行われていますが、4月1日以降これらが撤廃される見込みです。これが現実化すると、新型コロナの患者さんに対する医療提供が後退するリスクをはらみます。
新型コロナ治療薬は高額
インフルエンザは毎年1回流行しますが、新型コロナの流行は予想することが難しく、年1回で終わらない可能性があります。となると、ワクチンなどによる予防だけでなく、いかに治療薬を普及させるかが重要ですが、大きな障壁があります。
それは、抗ウイルス薬の薬価です。
インフルエンザの場合、1治療あたりの薬価はせいぜい数千円で済むのですが(表1)、新型コロナの場合、ケタが1つ違います。3割負担で、内服治療の場合1.5~3万円、点滴治療の場合10万円以上になります(表2)。
そのため、政府は2023年10月以降、新型コロナ治療薬に関しては、所得に応じて上限を3,000~9,000円になるよう支援していました。ただ、この期限は2024年3月までで、4月1日以降は通常の自己負担が発生する可能性がありました。
とりわけ現場で懸念されるのは、入院で酸素投与が必要な中等症以上の患者さんです。コロナ禍以降、入院医療機関が診療している新型コロナ患者には中等症の高齢者が多いのです。経口摂取ができない場合、点滴で抗ウイルス薬を投与する必要があります。同時に、ステロイドなどの抗炎症薬を使うこともあります。
点滴の抗ウイルス薬は、レムデシビル(ベクルリー)1剤のみです。これを使用することで、酸素投与を要する中等症の死亡リスクを20%減らすことが示されています(1)。一番高額なのがこのレムデシビルで、5日間の治療を受けると約37万円の薬価となります(3割負担で約11万円)(表2)。
高額療養費制度が適用されるとはいえ、入院して抗ウイルス薬を点滴するだけで限度額上限に達することが常態化すると、医療従事者としてもかなり投与しづらい印象を持ちます。
懸念される「治療薬の使用控え」
そのため、4月以降、抗ウイルス薬そのものが処方されにくい「治療薬の使用控え」が全国各地で起こるのではないかという懸念があります。
日本感染症学会、日本化学療法学会、日本呼吸器学会の3学会から合同で公費支援の継続について厚労省に要望書が提出されていました(2)。この理由は、上述したように高額な患者負担が発生することが理由です。
しかし現時点では、4月1日以降、新型コロナに関する公費支援を全面撤廃する方針を固めていると報道されています(図)。現場では、「自己負担額はこのくらいになります」ということを説明してから、抗ウイルス薬の投与を決定するようになるかもしれません。
現場では、「高額なのでインフルエンザの抗ウイルス薬のように投与するわけにはいかない」というジレンマが勃発するでしょう。
また、そのほか、新型コロナの入院医療費に対する最大月1万円の補助もなくなります。
ワクチンも有料に
さらに、4月1日から、一部の対象者以外には新型コロナワクチン接種にも自己負担が発生する見通しです。
公費負担の対象者は、①65歳以上、②60~64歳で、心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり身の回りの生活が極度に制限される人、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり日常生活がほとんど不可能な人、となっています(3)。これ以外の人は、有料になります。
詳細な費用はまだ決まっていませんが、インフルエンザワクチンと比べると少し高く、1回接種あたり約7,000円と試算されています。
まとめ
新型コロナは、インフルエンザとは異なり年に複数回の流行が予想されます。そのため、できるだけ医療体制へ負荷がかかることを防ぐ必要があります。
しかし、肝心の治療薬やワクチンに関して、4月から患者負担がむしろ増加する現状は、診療する側としては看過できません。
4月1日以降、薬価が改定され負担が軽くなる可能性がありますが、それ以外にも何らかの救済策が出されることを祈るばかりです。
(参考資料)
(1) Amstutz A, et al. Lancet Respir Med. 2023 May;11(5):453-464.
(2) 日本感染症学会. 新型コロナウイルス感染症治療薬の公費支援の継続および高齢者肺炎球菌ワクチン接種の経過措置の継続に関する要望書(URL:https://www.kansensho.or.jp/modules/news/index.php?content_id=593)
(3) 新型コロナワクチンQ&A. 令和6年(2024年)4月以降の新型コロナワクチンの接種は有料となるのですか(URL:https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0180.html)