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ジャニーズ事務所の被害補償受付窓口を見て本当に驚いた

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
(写真:ロイター/アフロ)

ジャニーズ事務所が性被害者のための「補償受付窓口」のサイトを設置し、補償のために動き出しました。それじたいはもちろん評価すべきことですが、しかし私はこの「窓口」を見て正直驚きました。

故ジャニー喜多川による性加害問題に関する被害補償の受付窓口のお知らせ | ジャニーズ事務所 | Johnny & Associates

氏名や住所などの連絡先を入力する欄があり、当然のことながら個人情報については厳重に守りますとの記述があります。問題はその中に被害内容について申告する欄があることです。

被害の内容等 ※ 必須

※被害の内容、時期、場所、期間・回数等。 なお、被害内容については、次の番号により特定いただくことでも構いません(1.口腔性交  2. 肛門性交  3.性器への接触  4.キス  5.その他のわいせつ行為)。

上記「窓口」の入力欄
上記「窓口」の入力欄

この欄を見て、私は本当に驚きました。

なぜなら、それはまるで、たとえば食品メーカーが腐った食品を販売してしまい、「体調不良を起こした消費者に賠償しますので、連絡してください」というようなこととまったく同じニュアンスを感じたからです。

そもそも性暴力・性加害は、身体的被害だけではなく、深刻な精神的被害を生みます。専門家によると、性被害者には、被害後しばらくは短期的な急性ストレス障害(ASD)として、「現実感消失」や「解離性健忘」という心因性の症状が現れ、心的外傷を受けた際の性加害に関わる重要な場面が想起できなくなるという状態に陥ります。そして、このような症状は、急性的なストレス障害の時期を過ぎたあとも、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状として人生の長きにわたって続くことが指摘されています。

つまり、被害者は被害に遭ったことを忘れたいという気持ちが強く働く一方で、その記憶を思い出したくないのに何かのきっかけで頻繁にそのことを思い出してしまう状況になることが多いのです。そのきっかけは、性被害に関連したニュース、加害者を連想させるような事実や出来事など、被害者によってさまざまなきっかけがあります。

性被害者の救済にあたっては、何よりもこのような点を踏まえたうえで、被害者の意思、人権を尊重し、一緒に考えて支援を行うという姿勢がもっとも重要なのではないかと思います。

事務所としては、被害者にいきなり被害申告を求めて、それを条件に金銭賠償を行なうのではなく、まずは被害者が事務所とつながりやすい状況を作り、精神科医やカウンセラーなどの専門家が個別に被害者とコンタクトを取り、被害申告がしやすい状況を作ったうえで、金銭賠償に移っていくといったことが必要ではないでしょうか。

内閣府が作成した「性暴カ・性犯罪被害者のためのワンストップ支援センクー開設・運用の手引」にも、上のような点に配慮して、「被害者の気持ちに寄り添うとともに、専門的知識を持って応じることが必要で」あって、「被害者一人一人の状態・状況・ニーズを丁寧に把握」し、「被害者がカウンセリングを希望する場合や支援者の勧めに同意した場合には、臨床心理士、カウンセラーなどに被害者を確実につなぐ」といったようなことが書かれています。(太字は筆者)

もちろん金銭的な賠償が重要であることはいうまでもないことで、ジャニーズ事務所は今後金銭賠償とは別に精神面でのサポートを行なう用意はあるのだと思いますが、それ以前に、事務所が設置した被害補償受付窓口には、性被害者にどのように向き合うのかという基本的な姿勢に問題はないのかということを考えざるをえません。(了)

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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