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特典中止で話題に 「ヤマダ積立預金」そもそもの目的とは?

山口健太ITジャーナリスト
「ヤマダNEOBANK」の取引画面(筆者撮影)

12月2日、ヤマダデンキの「ヤマダ積立預金」に想定を上回る申し込みがあったことを理由に特典の提供を中止し、話題になりました。

家電量販店で知られるヤマダデンキですが、なぜ預金を集めようとしたのでしょうか。運営会社に聞いてみました。

申し込み殺到でなぜ中止?

今回の騒動で最も興味深いのは、本来であれば申し込みが殺到するのは喜ばしい事態のはずなのに、なぜ中止するに至ったのか、という点でしょう。

中止された特典とは、「ヤマダNEOBANK」において1年〜3年の積立預金をすると、満期時に積立金総額に対して「5%」のポイントを還元するというもの。さらに期間限定で「10%」還元のキャンペーンも実施予定だったようです。

満期時に積立金総額の5%のポイントを還元する予定だった(ヤマダNEOBANKのWebサイトより)
満期時に積立金総額の5%のポイントを還元する予定だった(ヤマダNEOBANKのWebサイトより)

Webサイトに掲載後にSNS上で話題が広まり、12月1日時点では「アクセス集中により一時的に申込を制限」する事態に。そして翌2日には中止を発表するに至っています。

積立預金の申し込みをした人には1人につき3000ポイントが配られたものの、筆者を含め、この特典をきっかけに口座を開設しただけの人には何も配られていません。ルールの理解や口座開設にかけた手間の分だけ損した形といえます。

1口あたりの積立金額は月5万円までとなっていましたが、当初は複数口の申し込みについても全額が還元対象になるとの情報が出回っていたようです。ヤマダはお詫び文の中で「一部の方からの大量のお申込みがあった」と言及しています。

これが量的な問題なのであれば、1人1口に制限して提供するなどの対策はできたはずですが、ヤマダは批判を覚悟の上で、お詫びのポイントを配ってまで特典の提供を中止しています。どのような理由でこの判断に至ったのでしょうか。

そもそもの話として、家電量販店として知られるヤマダがなぜ預金を集めようとしたのでしょうか。ヤマダホールディングスの広報担当者は、「当社は『くらしまるごと』戦略を推進しており、家電事業や住宅事業等とともに、金融事業を強化しております」と説明。その一環として「ヤマダ積立預金」を位置付けています。

2021年7月に始まった「ヤマダNEOBANK」は、最近増えている「ネオバンク」や「BaaS」と呼ばれる仕組みを利用したものです。銀行の基本システムは住信SBIネット銀行が提供しつつ、ヤマダは独自のポイントプログラムなどを提供しています。

2024年11月28日には、住宅ローンや給与受取におけるポイント還元を強化。他に流出しにくい預金を集め、メインバンク利用を促している印象です。その中で登場した今回の特典は、「満期特典を設けることで、家電製品等の購入促進につなげることが狙い」(広報)としています。

将来の家電購入やリフォーム資金としての利用を想定していたという(ヤマダNEOBANKのWebサイトより)
将来の家電購入やリフォーム資金としての利用を想定していたという(ヤマダNEOBANKのWebサイトより)

住宅ローンの金額は右肩上がりに成長している(ヤマダホールディングス 中期経営計画資料より)
住宅ローンの金額は右肩上がりに成長している(ヤマダホールディングス 中期経営計画資料より)

このことから、今回の特典は顧客との長期的な関係性を作っていくきっかけとして企画したにもかかわらず、ヤマダが想定した以上にポイント目当ての客が殺到したことが、中止に至った主な理由と考えられます。

具体的な申し込み件数などの数字や、条件を見直して再度提供する可能性はあるのかといった点についても聞いてみたものの、「現時点では弊社ホームページにてご案内している内容の限りでございますので、回答を控えさせていただきます」(広報)とのことでした。

あわせて注目を浴びたのが、大量の申し込みをした人たちの存在です。国内のポイ活、投資家界隈では数百万円から数千万円の資金を即決で動かせる人が一定数いるとみられ、その一部がこうしたキャンペーンなどに流れ込んでいるとみられます。今回の事例を踏まえて、条件を厳しく設定するなどの対策が進みそうです。

「ネオバンク」競争激化の予兆か

最近、アプリを中心にクーポンやポイント、あるいは「Pay」機能を提供するデジタルマーケティングが進んでいる中で、ネオバンクのようなサービスを利用して「銀行」を始める事例が増えています。

ヤマダの場合、アプリで登録できる「ヤマダデジタル会員」に向けて、「ヤマダポイント」や「ヤマダPay」、ヤマダNEOBANKを提供しています。今回の特典は失敗でしたが、基本的な方向性は間違っておらず、トレンドに乗っている印象を受けます。

NEOBANKの商標を持つ住信SBIネット銀行は、提携先を5年で100社に拡大する目標を掲げています。今後はクレジットカードのように、さまざまなブランドの「銀行」が乱立することが予想されます。

その一方で、預金集めの競争は激化しており、SBI新生銀行auじぶん銀行PayPay銀行が優遇金利を発表しています。ポイントなどを含め、魅力のある特典で顧客を惹き付ける競争は始まったばかりといえるでしょう。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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