リトルなでしこが8大会連続の決勝Tへ!苦戦スタートも、難局乗り越え目指す頂点
【苦しんだ大会初戦】
ドミニカ共和国で開催中のFIFA U-17女子ワールドカップで、リトルなでしこ(U-17日本女子代表)が、グループステージを突破し、8大会連続のノックアウトステージ進出を果たした。
グループステージではポーランド(0-0)、ブラジル(2-1)、ザンビア(4-1)と対戦し、2勝1分で首位突破。実力と結果から見れば順当と言えるが、簡単な流れではなかった。特に、初戦はポーランドに対して後手に回るシーンも多く、厳しい立ち上がりとなった。
「厳しいヨーロッパリーグを勝ち抜いて3位で上がってきたので、難しいゲームになると予想していましたが、やはり力のあるチームでした」(白井貞義監督)
フィジカルが強く、組織的な守備でプレッシャーをかけてくる相手に対し、パスが思うようにつながらない。ペナルティエリア内に進入される回数も多く、ヒヤリとするピンチが続いた。
その逆境でもGK福田真央が好セーブを連発し、太田美月がライン上でクリアするシーンなど、最後の局面で体を張り、失点を許さなかった。後半は交代で入ったゲームメーカー・眞城美春が起点になってシュートシーンを増やし、流れを挽回したが、スコアレスドローで痛み分けとなった。
第2戦のブラジル戦も、相手の勢いに押されてスロースタートを強いられた。ブラジルのエースストライカー、JUJUの重戦車のようなドリブルからゴールを許す。だが、トップの佐藤ももサロワンウエキを起点に粘り強く攻撃の機会を探り、徐々に形勢を逆転。42分に福島望愛の突破から佐藤が決めたゴールはフットボール・ビデオ・サポート(VS)により取り消されたが、後半立ち上がりの49分に、鈴木温子のクロスに佐藤が得意のヘディングで合わせて振り出しに戻した。
そのダイナミックなゴールもさることながら、観客や視聴者は、喜びを全身で表現する佐藤のゴールパフォーマンスにも魅了されたはずだ。
「シュート練習の時から、試合ぐらいのプレーやゴールパフォーマンスをイメージしている」というエースは、このチームのムードメーカーでもある。
「(自分は)器用な選手ではないので、ミスをしてしまうこともあるのですが、ムードメーカーとして空気を作ったり、ハードワークする部分でチームの雰囲気を変えたり、最終的にゴールという形で恩返ししたいと思っています」(佐藤)
このゴールで勢いがつき、5分後には追加点。眞城のスルーパスを右で受けた古田麻子が、深い切り返しからスキルフルなシュートを決めて逆転に成功した。その後も主導権を渡すことなく、荒いプレーが目立つブラジルの猛攻に耐え抜き、勝ち点3を得た。ターニングポイントとなったのはハーフタイムだ。
「ベースは変えずに、最後の質の部分を強調し、相手のライン間が空くところに誰が入っていくか。そこへの配給や、前向きのサポートなど、具体的なところを整理しました」(白井監督)
ミーティングの内容をしっかりと反映した後半の流れとともに、印象的だったのは59分のシーンだった。
自陣中央で奪われ、青木夕菜と朝生珠実の間を抜け出したジョバンナの突破からゴールを決められたが、直後に白井監督がVSで映像確認をリクエスト(VSは両チームの監督が1試合に2回までリクエストすることができる)。ジョバンナが青木のユニフォームを引っ張っていたことが映像で認められてゴールの判定が覆り、ノーゴールに。チャレンジ成功した背景について、指揮官は「選手のファインプレー」と振り返っている。事前にレクチャーを受け、選手自身が判定に明らかな違和感を感じた場合にはしっかりと主張できるように、時間をかけて準備してきた成果だ。
そして、3試合目はザンビアに対し、流れの中から決めた眞城の2ゴールと佐藤のPK、コーナーからヘディングで太田のゴールと、多彩な形で得点を奪取。終盤に1点を返されたものの、危なげない試合運びで力の差を示した。
【3試合で示した強みと伸びしろ】
「前半の立ち上がりは相手がどういう感じで来るのかやってみないとわからず、特に初戦は対応に時間がかかって自分たちのサッカーができませんでしたが、2戦目以降は自分たちのペースに持ってくるのに時間がかからなかったので、そこが勝利に近づいた要因だと思います」
ここまでフル出場で最終ラインを支えているセンターバックの朝生は、チームの勢いについてそのように分析。最終ラインは朝生とともに鈴木、青木と、東京NB下部組織のメニーナのホットラインも生きている。
会場のサントドミンゴは30度を超え、湿度もかなり高いという。そのような過酷なコンディションでも運動量を落とさずに戦えるのは、大会前の暑熱対策を含めた細やかな準備の成果であり、世代を問わず日本の強みだ。加えて、ミスをした時の切り替えの早さはこのチームの武器だろう。
「うまくいかなくなっている時の方が、人は考えると思いますし、そういう時こそ自分が上手くなれる、強くなれるきっかけだと思っています」
そう話していた白井監督の指導の下、「チャレンジ」をひとつのチームカラーとする21人の選手たちは、試合ごとにコミュニケーション量を増やしている。
日本は、前回2022年大会では優勝候補との呼び声も高かったものの、ノックアウトステージ初戦でスペインに敗れ、ベスト8で大会を去った。それだけに、次のステージはひとつのポイントになる。そして、その先にはスペインやナイジェリア、アメリカ、朝鮮民主主義人民共和国など、この世代の強豪が待ち受ける。勝ち続ければ、決勝まで同じスタジアム(Felix Sanchez Stadium)で戦えるのは、アドバンテージになる。
頂点まであと3試合。
「イングランド戦は自分たちらしいサッカーで、相手を上回りたいという思いはありますが、ここから先は相手も同じような気持ちで日本に向かってくるので、自分たちの時間ではない時が必ずくる。そこに対してスタートの11人だけでなく、ベンチの選手を含めた21人、スタッフ全員が同じ方向を向いて、自分の役割をまっとうできるように準備していこうと選手に伝えています」(白井監督)
イングランド戦は、日本時間10月28日の朝8時から。FIFA +(無料)で配信される。
*写真はすべて筆者撮影