お盆に気を付けたい子どものトラブル・・帰省先で増える誤飲やアレルギー症状の注意点
お盆の連休も始まりました。私も今朝、新幹線に乗ったのですが、早朝にもかかわらず駅は大変な混雑でした。
連休中、お子さんとご実家に帰省したり、親せきの家に遊びに行ったり、旅行されるご家族も多いと思います。ご自宅は保護者が気を付けているためリスクはかなり下がっていますが、普段は子どものいない祖父母宅や親せきの家、宿泊施設などは子どもにとって思わぬリスクが隠れています。
子どもの事故の多くは家の中で起きている
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)によると、2019年から2023年までの5年間に通知のあった製品事故情報のうち、0-6歳の乳幼児が被害に遭った事故は73件あり、そのうち54件(74%)が屋内で起きていると報告しています[1]。子どもの事故は屋外で起きがちと考えがちですが、実際には家の中の方が多いことを知っておくことは大切です。
ではどんな事故に気を付けるべきなのでしょうか。米国消費者製品安全委員会(CPSC)は、家の中に隠れた5つの危険として、特に誤飲、(お風呂などでの)溺水、窓からの転落、ブラインドカーテンの紐による窒息などを挙げています[2]。
今回はお盆など旅行中に多くみられる子どものトラブルについて、誤飲やアレルギー症状を中心に説明したいと思います。
お盆には帰省先での誤飲事故に注意
お盆になると子どもの誤飲が増えます。
こちらのイラストは日本小児科学会の誤飲対処法の資料です[3]。
このイラストから分かるように、家の中には多くの誤飲リスクがあることが分かります。
この中で、特にお盆に増えるのは家族の薬の誤飲です。日本中毒情報センターは、祖父母の家で薬を誤飲した相談が過去5年で1640件あり、月別では8月が183件ともっとも多く、お盆の時期に相談が増える傾向があるとしています。
NHKニュース お盆の帰省時 子どもが薬など誤飲しないよう注意を
薬を誤飲しやすい年齢は2歳前後です。磁石などの異物誤飲は1歳前後が多く、それより少し年齢が高めなのですが、その理由は、磁石などの誤飲が子どもの探索行動(口の中にモノを入れて学習する発達段階)からくるのに対し、薬の誤飲は「大人の真似をしたい」からくるためです。2歳前後になると「自分も大人と同じことをしたい」という欲求が出てきます。祖父母が薬を飲んでいる様子を見て「自分もやってみたい」と真似しようとするのです。
子どもはたった1錠の誤飲でも命に関わることも
最近は高齢社会の影響もあり、病気を抱える家族も増え、薬の誤飲リスクは高くなっています。頻度が多いのは風邪薬、解熱剤、睡眠薬などです。特に注意が必要な薬は糖尿病の薬(血糖降下薬)や血圧を下げる薬(降圧薬)、抗うつ薬などです。これらの薬は子どもが誤飲するとたとえ1錠であっても命に関わるリスクがあるため注意が必要です。
ボタン電池や高吸収性樹脂、ジェルボール洗剤の誤飲も
薬以外にも誤飲のリスクがある製品があります。例えばボタン電池です。特にリチウム電池は電圧も高く、アルカリ電池より大きいので食道に引っかかるリスクがあり、食道に引っかかると粘膜を傷害して穴を開けてしまったりする可能性があります。
その他にもご実家で園芸等されている場合やインテリア用品などで高吸収性樹脂を使われていらっしゃる場合も注意が必要です。高吸収性樹脂はカラフルでお菓子のように見えるのですが、水を吸うと大きく膨らむので、飲み込んだ後、消化管の中で膨らんで詰まってしまい、腸閉塞になって手術が必要になることもあります。最初に飲んだ時には何ともなく、時間が経ってから症状が出てくるので時限爆弾のようなものです。
他にはジェルボール型の洗剤も最近注意喚起されています。お菓子に似てカラフルなので小さなお子さんは興味を持って口に入れてしまいます。ただ、普通の洗剤と比べてサイズが小さな割に高濃度のため、他の洗剤より嘔吐などの症状が出やすく、アメリカでは死亡事故も起きています[4]。こういった製品の誤飲のリスクを、あらかじめ祖父母と情報共有しておくのが大事です。
リモコンの蓋を固定、安全な容器・・誤飲を防ぐためにできること
誤飲を防ぐためには、誤飲しやすいものを知るのに加え、「どのように誤飲に至るのか」を知っておくことが大切です。
例えばボタン電池の誤飲の多くは直接落ちているものを拾って飲み込むわけではなく、リモコンなどのふたを開けて飲み込んでいます[5]。したがって、漠然と注意する、ではなく、リモコンの蓋が開かないようにテープで固定するなどしなくてはいけません。薬なども、手の届かないように、という漠然とした注意ではなく、子供の手が届かないためには1m以上の高さのところにしまうことです。ただ、子どもは椅子を持ってきてよじ登ったりしますので、高さだけでは安心できません。子どもでは開けられないような容器に入れて保管したりすることも大事です。また、子どもが真似しないように、子どものいる前で薬を飲まないことも大事なポイントです。
大人がたくさんいると、誰か見ているだろう、と思って、実は誰も見ていないケースがあります。帰省中でも監視は保護者の責任で行うとか、誰が監視をするのかを明確にしておくのも有用でしょう。
誤飲以外に・・・旅先ではアレルギー症状が増える?
誤飲以外で帰省先でありがちなトラブルとして、喘息発作や食物アレルギーなどのアレルギー疾患があります。
喘息の既往があるお子さんが普段使わないお部屋に泊まり、普段使わない布団を引っ張り出したところ、ホコリを吸って喘息発作を起こし、医療機関を受診されるケースもあります。普段から定期的に内服されているお薬や、発作時に使う薬は忘れずに持参していただければと思います。
また、旅先でトライした食べ物でアナフィラキシーなど食物アレルギーを発症するケースもあります。アイルランドの研究では、約500人の食物アレルギーを有するお子さんを追跡調査した結果、休暇で出かけた先で33名(15%)のお子さんがアレルギー反応を起こし(うちアナフィラキシーは9名)、この割合は日常生活時と比べて高かったと報告しています[6] 。食材としてはナッツ類や牛乳が多く、またアナフィラキシーの9例中、エピペンなどアドレナリン注射の処置を家族が実施できたケースは2例のみだったとのことでした。食物アレルギーのあるお子さんとの旅行を楽しく安全に行うためにも、旅先でのアレルギー発症リスクを知るとともに、エピペンを持参することや、いざというときに適切に使える準備をお願いできればと思います。
旅先には保険証と母子手帳、お薬手帳を忘れずに
最後に、旅先に忘れず持っていくものについてです。筆者は長野県の病院で働いているため、夏は軽井沢など観光地で体調を崩したお子さんの対応にあたることも少なくありません。時々、母子手帳や保険証などを持参せずに受診されるご家族がいらっしゃいます。母子手帳があると予防接種歴や発達の様子など、そのお子さんの情報がよく分かりますし、お薬手帳があると、最近どんなお薬を処方され、内服しているかも分かります。これらの情報は診療をスムーズに行う上で非常に役に立ちますので、子連れ旅行では忘れずに持参されることをお勧めします。
参考文献
1. NITE(独立行政法人 製品評価技術基盤機構).旅先でも"おうちパトロール”を. (2024).
2. CPSC.Top Five Hidden Home Hazards. (2007).
3. 日本小児科学会.子どもの傷害と予防(誤飲対処法).2023.
4. Valdez AL, Casavant MJ, Spiller HA, Chounthirath T, Xiang H, Smith GA: Pediatric exposure to laundry detergent pods. Pediatrics. 2014, 134:1127-1135.
5. Litovitz T, Whitaker N, Clark L: Preventing battery ingestions: an analysis of 8648 cases. Pediatrics. 2010, 125:1178-1183.
6. Crealey M, Byrne A: Going on vacation increases risk of severe accidental allergic reaction in children and adolescents. Ann Allergy Asthma Immunol. 2023, 130:516-518.