鉄道番組の常識を覆す?「鉄道発見伝」の魅力に迫る
ここ数年の鉄道ブームは本当にすごい。様々な観光列車がデビューしたり、各地の鉄道会社が特色ある企画を打ち出すことで、いわゆる鉄道ファンでない一般の観光客を取り込むことに成功したのが大きい。実際、観光列車に乗って話を聞くと、鉄道好きよりも旅行好きな人の方が多いことも多々ある。テレビ番組にしても、ターゲットは鉄道ファンでなく一般の視聴者に向けて構成されている番組の方が多く(もちろんその方が視聴率が取れるというのもあるのだろうが)、例えばタモリさんや中川家礼二さんのように「超・鉄道ファン」1人が他の出演者や視聴者に魅力を教える、というものがほとんどだ。
そんな中、「鉄道好き同士で旅をしながら、マニアックな魅力を語っていく」という面白い番組が、鉄道ファンの話題を呼んでいる。
舞台は岐阜県の明知鉄道。日本一勾配のきつい駅では持参のボールを転がし、駅に保存されている昔の信号機を満面の笑みで操作し、復活を遂げたSLを前にしてはしゃぐ。どこから見ても鉄道ファン!という2人の出演者は、ホリプロのマネージャー・南田裕介さんと、番組ディレクターの田中匡史さん。プロデューサーを巻き込みながらマニア心をくすぐるポイントを紹介するかたわら、明知鉄道ならではの沿線風景や人情ドラマを探しながらロケは進行していった。
CS放送・日テレプラスチャンネルで放映されているこの番組の名前は、その名も「鉄道発見伝」。事の始まりは2013年にさかのぼる。仕事上で付き合いのあった日本テレビのアナウンサー・藤田大介さんと前述の田中さんは、共に大の鉄道好き。プライベートで鉄道旅を楽しんでいた2人だったが「あまりにもマニアックな行程なので、「これを番組にしたら、逆に一般の人たちにも面白いんじゃないか」と思ったのがきっかけでスタートした」(田中さん)という。2015年からはこの2人に南田さんも加わり、これまでに26本を放映。この明知鉄道の回で30社もの鉄道を訪れた。
「訪れた鉄道のすべてで、いろんな思い出や発見がありました。」例えば、SL運行実証実験に密着した若桜鉄道では、無事に運行が終わって涙を流した職員さんを見てもらい泣き。東日本大震災から復興した三陸鉄道で、その運行開始日を迎えた時も、沿線の人々のさまざまなドラマに胸が熱くなったそうだ。普段は「鉄道マニアな2人」が時々紹介するこういった場面が、鉄道ファンと一般の人々の両方を引き付ける魅力なのだろう。
番組プロデューサーの野宮十月さんは「鉄道の魅力はもちろんですが、鉄道事業者にとって絶対である「安全」への真摯たる姿勢を、番組を通じて伝えられたらと思っています」と話す。日常の運行ではもちろん前述の若桜鉄道でも、前代未聞の実験とはいえ失敗は許されず、想像を絶するプレッシャーがあったに違いない。その全てが無事に終わった時の、安堵の証ともいえる涙に、番組を見た私も思わず目が潤んだ。
番組で取り上げる鉄道は、いわゆる「地方のローカル鉄道」が多い。よく地域活性化には「よそ者」「若者」「ばか者」の視点が必要だと言われるが、東京にいる「よそ者」で、「ばか」がつくほど鉄道マニアの2人が発見した魅力は、案外大切な"宝物"なのかもしれない。
「どんどんと高速化され、便利になる一方で、人とのつながりは希薄になっています。寝台列車やローカル線など、人と触れ合える経験やそこで得た知見は、現代の人々に必要なことなのかもしれません」(田中さん)
訪れた30の鉄道会社それぞれに30の地域があり、たくさんの魅力がある。そんな魅力を掘り起こし、多くの人々に「訪れるきっかけ」をこれからも作り続けてほしいし、その先にある「なぜそこに鉄道があるのか」や「なぜ鉄道が必要なのか」を、1人でも多くの"鉄道ファンでない人"に伝えてほしい。1人の鉄道ファンとして、鉄道が話題になり、その魅力を共有できることは、本当に楽しく嬉しいことだから。
ちなみに次回の放送は1/15(金)で、この3月に廃止となるJR北海道石北本線の「しらたきシリーズ」下白滝駅、旧白滝駅、上白滝駅をフィーチャーするという、なんとも鉄道ファンらしい企画。ここでも、この駅を利用し・守ってきた人たちとの出会いがあったそうで、楽しみだ。
・・・最後にひとつだけこぼれ話を。番組制作での苦労話は?との質問に、田中さんは「好きな鉄道を舞台とした番組なので苦労はありません(笑)」と答えたが、全く鉄道に興味のない女性ADさんからは「私は鉄子ではないため、出演者がなぜ盛り上がっているのか分からない」「せっかく地方に行ってるのに、出演者は食事にこだわらないのでコンビニ弁当ばかり」と厳しい意見が。鉄道ファンの皆様、周りの友人を誘って出かけるときには、この意見もご参考に。