全英オープン、C・モリカワ勝利の背景にあったもの!?
全英オープンを制覇したのは24歳の米国人選手、コリン・モリカワだった。
モリカワは、あのタイガー・ウッズを凌ぐ大記録を樹立し、世界の注目を集めている。彼は昨年の全米プロを初出場にして、いきなり制覇し、今回の全英オープンも初出場にして、いきなり制覇した。
2つの異なるメジャー大会を、どちらも初出場にして制覇したことは、ウッズでさえも成し得なかった史上初の偉業なのだ。
モリカワは米ツアーにデビュー後、わずか6試合目の2019年バラクーダ選手権で初優勝を挙げ、2020年7月にワークデー・チャリティ・オープンで2勝目を挙げると、翌8月には全米プロを制してメジャー初優勝を挙げた。
今年2月には世界選手権のワークデイ選手権でも勝利し、さらに今週、全英オープンも制覇して、米ツアー通算5勝目を挙げた。
メジャー大会では、出場わずか8試合目にして、早くも2勝。そのスピード出世ぶりには目を見張るものがある。
だが、そのスピード以上に、彼のプレーぶりにはっきりと見て取れるものは、アイアンの正確性とパットの上手さだ。
いろんなショットが打てる。しかも正確に打てる。いろんな寄せ方を知っている。しかも正確に寄せられる。
それらの組み合わせによって、パットにつなぎ、そのパットを着実に沈めていく。そうやって技術と知識を組み合わせながら、クリエイティブなゴルフをやってのけるところが、モリカワの最大の強みだ。
いろんな攻め方もできる。しかも臨機応変にできる。昨年の全米プロでは、終盤にスコアを伸ばすための攻め方をやってのけて勝利した。今回の全英オープンでは、終盤にスコアを落とさない戦い方をやってのけて勝利した。
それならば、モリカワが若くしてクリエイティブなゴルフを身に付けた背景には何があったのか。彼は、どんなジュニア時代を過ごしてきたのか。
それが気になって探った彼のバックグラウンドには、なんとも興味深い事実があった。
【勝利へ導いたもの】
ロサンゼルス郊外のグレンデールという町で生まれ育ったモリカワは、幼少時代から町の外れのチェビー・チェースCCというムニシパル(公営)ゴルフ場で腕を磨いた。
「そのゴルフ場は9ホールしかなく、ドライビングレンジ(練習場)もなかった。だから何を練習するにもコース上で練習した。1つのティから10球ぐらいティショットを打ったり、1つのホールを繰り返しプレーしたり。他のゴルフ場だったら、そんな練習はまず許されない。でも、あのゴルフ場は『好きなように練習していいぞ』と言ってくれて、乗用カートを無料で貸してくれた。だから僕は、飛距離以外のすべてのことを、あのコース上で身に付けた。心底、感謝しています」
1つの地点から、いろんなショットを何球も打ち、1つのホールを異なる攻め方で何度も繰り返しプレーする。それは、さまざまな状況を自分で想像しながら、その想像の世界を自分で作り出し、自分自身で戦っていくというプロセスとなり、そのプロセスは創造性が求められるクリエイティブな世界だ。
同時に、それはとても根気の要る忍耐の世界でもあった。
そういう練習方法でモリカワが身に付けたクリエイティブなゴルフと忍耐力は素晴らしく、彼にそういう練習方法をオファーしたゴルフ場の寛大さに、まず思わず頭が下がる。
そういう練習方法で腕を磨いていたモリカワを文句も言わずに見守ってきた周囲のゴルファーたちの寛大さにも頭が下がる。
モリカワが生まれて初めて挑んだイングランドのリンクスで、いきなり勝つことができた背景には、そうやって彼と彼の周囲の人々の間に築かれてきた優しく温かい関係があった。
そして、モリカワ自身は「いつも周囲のみんなに感謝し、みんなのお陰で僕があるということを常に感じていた」。
難コースのロイヤル・セントジョージズの18番。ウイニングパットとなった短いパーパットをしっかり沈めたモリカワは、大勢の観客に向かって自ら拍手を贈った。
表彰式に登場したときも、モリカワはギャラリーに向かって盛んに拍手を贈り続けた。
目の前にいた英国のギャラリーは「みなグッドショットとは何かを知っていて、エールを送ってくれた」。
現地入りができなかった米国の家族や友人知人、応援し続けてくれている大勢のファンには「みなさんのおかげで僕は勝てた」とお礼の言葉を口にした。
そんなふうに、自分の喜び以上に周囲への感謝と謙虚の姿勢に溢れるモリカワだからこそ、史上初の偉業を成し遂げることができたのではないか――。私は、そう思っている。