『R-1グランプリ2023』準優勝・きょんの「ピンネタ」に賛否、「コンビネタ」の改編はアリなのか
ピン芸のナンバーワンを決める『R-1グランプリ2023』(カンテレ・フジテレビ系)決勝戦が3月4日に開催され、田津原理音が優勝を飾った。
田津原理音のネタは、ファーストステージ、決勝ステージともに、カードゲーム(オリジナル)のパックを開封してどんなカードが出るかを発表していくというもの。そのカードに描かれているのは、日常でよく見かけるような光景など。貴重とは到底思えないシチュエーションのカード内容や、「レアカードだ」と一喜一憂する姿で笑わせた。またカメラを顕微鏡のように設置し、開封したカードを台座に載せて映し出し、モニターに投影させる「アイテムの工夫」もなされていた。2022年大会準優勝のZAZYに続いて、「フリップ芸」の新しい見せ方としても印象的だった。
田津原理音の優勝で幕を閉じた2023年の『R-1』。一方で賛否が分かれているのが、準優勝のきょん(コットン)のファーストステージのネタである。
きょんの「警視庁カツ丼課」、もともとはコンビネタだった
きょんのネタは、警視庁を舞台に、犯人の自白を引き出すためにどんなカツ丼を作るか試行錯誤する「警視庁カツ丼課」の人々の物語だった。
議論の対象となったのはネタ内容ではなく、コンビとして以前、同様のネタを披露していたこと。視聴者からは「これをピン芸として決勝に上げるのは納得できない」「コンビネタをピンネタに変更するのはNGにするなど規制があった方が良いのでは」など、『R-1』にコンビネタを持ちこむことについて疑問の声があがった。
コットンの場合、基本的にはきょんの相方である西村真二がネタを制作している。ただ、そうであってもコンビネタをピンネタに改編して見せるのは、本人の演技力、演出力、間合いなどさまざまなテクニックが必要とされるはず。準決勝も「警視庁カツ丼課」のネタを披露して勝ち上がり、決勝のファーストステージでも高得点で2位通過したことは、審査員であるプロの目を通して「ピン芸として文句なし」と判断された証しである。
過去の『R-1』決勝でも、賀屋壮也(かが屋)が2021年大会時、コンビネタをピンネタに改編したものをファーストステージで披露。このときは、相方・加賀翔が休養中という背景もあってコンビネタで挑戦したことを好意的に受け止める視聴者が多かった。またケースは少し異なるが、2022年大会の渡部おにぎり(金の国)の場合は、相方・桃沢健輔に書いてもらったネタで勝負していた。賀屋壮也、渡部おにぎりのケースはどちらもコンビの利点を『R-1』に活用したものとして捉えられる。
ピン芸的か、それともコンビ芸的か。影マイクが役割を担う「他者の存在」
今回のきょんのファーストステージの「コンビネタの改編」が物議を醸しているのは、どういう部分か。
まず、ピン芸人、コンビ芸人のネタのストック数の違い。コンビネタも使うのであれば、勝負ネタの数量はコンビ芸人の方が多くなるはず。毎年のように予選から決勝までたくさん舞台を踏まなければならない賞レースでは、強いネタをどれだけ持っているかも重要になってくる。その数量差の点で、視聴者の目には単純に「コンビ芸人有利」に映るのだろう。それでいて、『M-1』『キングオブコント』の決勝に届かなかったかつてのネタが、今回のように『R-1』では優勝目前まで迫れたことにむずがゆさを感じた人が多かったのかもしれない(ただそれは、むしろそのコンビネタがピンネタ向きだったとも考えられる)。
もうひとつは、きょんのネタが「ピンじゃなくても良いのではないか」と考えられる内容だったこと。ファーストステージ、決勝ステージともに影マイク(あらかじめ用意されている音声の演出)に向けて、ボケたり、ツッコんだりするものだった。影マイクありきの内容なのだ。
ピン芸的か、それともコンビ芸的か。その分かれ目のひとつとなるのは、影マイクが役割を担う「他者の存在」の比重である。松本人志(ダウンタウン)はバラエティ番組『松本家の休日』(ABCテレビ)2020年3月28日放送回に出演した際、『R-1グランプリ2020』決勝の各ネタについて「影マイクを使いすぎるのはどうかと思う。あれがオッケーになったらコンビと一緒」「自分じゃない人の声を使えるんだったら、コンビでできちゃうよね」と指摘した。
影マイクとのキャッチボールが多いネタだと、どうしても「これはピンではなくコンビ向きではないか」と感じてしまう。きょんは、コンビでやっていたネタを改編しながら、影マイクを相方のように使ったことでより「非ピンネタ感」が露呈してしまった。
そういったいくつかの点が、きょんが準優勝という結果を残したことで表面化された。そして「『R-1』なんだから、コンビ芸人ではなく、純粋なピン芸人に勝ってほしい」というムードへの高まりにつながった。
コンビネタっぽくなるのは、コンビ活動の「クセ」みたいなものか
とは言っても前述したように、「ピンネタ」として評価されたからこその準優勝である。それに準決勝、決勝の審査基準として「これはもともとコンビでやっていたネタだから」はないはず(審査員の目もそこまで行き届きにくい)。
また戦前「今回のファイナリストのなかで何人がコンビ、トリオ所属か」という切り取り方がいくつかあったが、それは不毛なトピックスである。今回のファイナリストのコンビ芸人のなかでも、たとえば永見大吾(カベポスター)は実に見事なピンネタだった。近年の優勝者である、野田クリスタル(マヂカルラブリー)、粗品(霜降り明星)も然り。あくまでネタのおもしろさなので、もともとがピン芸人かどうかのラインを引く必要はない。ただ、きょんのようにピンネタがどうしてもコンビネタっぽくなるのは、コンビで活動しているからこその「クセ」みたいなものなのだろう。
大会的には参加者の間口は広い方がおもしろい。お笑いファンとしても、まず単純におもしろいものが見たい。だから、ピン芸人とコンビ芸人を分け隔てるような議論は不要に感じる。ただそれでも、これからの『R-1』ではより「ピンネタ的かどうか」がポイントになってくるのではないか。