美脚リフティングで話題の女優・眞嶋優。こじれた初恋の8年後を描く『あらののはて』で主人公と激突する役
女優にしてリフティング1000回以上という特技を持ち、フリースタイルフットボールのアンバサダーも務める眞嶋優。門真国際映画祭の最優秀作品賞ほか3冠などを受賞した映画『あらののはて』に出演している。同棲中の彼氏を訪ねてくる主人公の女性と対峙する役で、同映画祭では優秀助演女優賞に選ばれた。女優とサッカーにまつわる遍歴、ショートカットのイケメンぶりが光る今回の役柄について聞く。
中1でサッカーよりお芝居を仕事に選びました
――華麗なリフティング動画が毎回話題になりますが、日ごろから練習しているんですか?
眞嶋 フリースタイルフットボールの練習はやらないと衰えてしまうので、少なくとも週2回はするようにしています。イベントや動画撮影の前は毎日やります。
――ボールに触れる以外のトレーニングは?
眞嶋 コロナ前はジムに通ってましたけど、休館が続いたのでやめました。今は家でできることを、トレーニング動画を観ながらやっています。
――サッカーは3歳から始めたとか。
眞嶋 はい。いつの間にかボールを蹴っていました(笑)。
――プロを目指していた時期も?
眞嶋 そこまで考えたことはないですけど、浦和レッズのキッズスクールに通って、中学でも女子サッカー部に入って、1年から試合に出させてもらっていたので、うまくなりたいとは思っていました。
――スポーツは全般的に得意だったんですか?
眞嶋 そうですね。陸上競技とかより、サッカー以外でもボールを使うバスケや野球のほうが得意で、バッティングセンターでは120kmを打っています。
――それはすごい。でも、芸能活動のために、サッカーは中1でやめたそうですね。
眞嶋 芸能のお仕事も幼稚園の年長からやってきて、サッカーか芸能かどちらを続けていくか考えて、芸能を極めようと。サッカーは趣味としてやることに決めました。
――お芝居のほうが好きだったから?
眞嶋 好きなのはどちらも変わりません。でも、仕事として一生やっていけるか、ごはんを食べていけるかという目線で考えたら、お芝居のほうを突き詰めたかったんです。自分ができなかったのはお芝居のほうで、今までやったことの中で一番「何でこんなにできないんだろう?」と思うくらいでしたけど、先が見えない道をあえて選びました。
子役時代は楽しい記憶で高2で本気になって
――芸能界にも小さい頃から興味があったんですか?
眞嶋 もともとダンスを習いたくて、子役スクールでダンスも歌も演技も教えてもらっていました。オーディションも時々受けて、現場に行ったら、大人の方々とお芝居したり、遊んでもらうのが楽しい! というところがきっかけでした。
――人前に出るのも好きで?
眞嶋 そうでもなかったです。お母さんがめちゃくちゃおしゃべりな面白い人で(笑)、一緒に歩いていて隣りで話を聞いているのが楽しくて。自分がしゃべるのは今でも得意ではないですね。
――子役時代、特に印象深かった作品というと?
眞嶋 V6の長野(博)さんが主役をやられた『勉強していたい!』というNHKのドラマで、白血病の生徒役をやったんです。それが一番印象に残っていますね。病気で死んじゃう役が初めてだったし、地方での撮影で空いた時間は船に乗って、みんなでワイワイとサザエを食べに行った思い出もあります。
――「芝居が一番できなかった」とのことでしたが、壁に当たったりもしたんですか?
眞嶋 子役のときは楽しい記憶でいっぱいです。高2で今の事務所(ソニー・ミュージックアーティスツ)に入って、そこから本気度が高まりました。同世代の女優さん、俳優さんがたくさんいて、大変なことも多かった中、ある演技レッスンの講師の方に「映画をいろいろ観なさい」と教えていただいて。観たら「こういう世界があるんだ」と、よりお芝居に目覚めた感じです。
自分のことを考えられる作品が好きです
――どんな映画を観て目覚めたんですか?
眞嶋 もっと前ですけど、『ヒミズ』のインパクトが強くて。今の事務所に入ったのも、二階堂ふみさんがいたことがあります。DVDのメイキングを観ると、「30点」とか「3点」とか言われて、もがき苦しみながら役を演じられていて。私もああいう、本質を突いて観ている人にいろいろなものを与えられる女優になりたいと思いました。
――その後に影響を受けた作品というと?
眞嶋 もともとはドラマっ子で、毎クール7割は観てました。一番古いところだと『よい子の味方』から記憶があって、『ハケンの品格』の1作目も観ていて。ラブコメより坂元裕二さんの脚本が好きで、『それでも、生きてゆく』や『カルテット』が印象に残っています。最近の『大豆田とわ子と三人の元夫』もそうですし、朗読劇も観に行きました。
――10代の頃から、そういう嗜好だったんですか?
眞嶋 そうですね。普段は意識しないところまで突いてくれて、観たあとに日常に立ち返って、自分のことについて考えられるような深みのある作品が好きです。
言葉づかいや姿勢に役の性格が表れるので
門真国際映画祭で3冠、うえだ城下町映画祭で審査員特別賞、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭などで入選と評価された『あらののはて』。25歳のフリーター・野々宮風子(舞木ひと美)は高校時代、クラスメイトで美術部のアランこと大谷荒野(髙橋雄祐)に頼まれて絵画モデルをしたときの絶頂感が忘れられない。担任教師の誤解で荒野は退学となり、8年の歳月が流れた。風子はマリア(眞嶋)と同棲している荒野を訪ね、もう一度自分をモデルに絵を描くように迫る。
――『あらののはて』で演じたマリアは格闘家の設定でした。
眞嶋 シュートボクシングをやっている役です。
――ファイトシーンがあったわけではありませんが、らしく見えることも意識しました?
眞嶋 私はそんなにガッチリした体格ではないので、マリアは普段トレーニングをしていると考えて、いつも以上に筋トレをしました。身体的な役作りとして。
――キャラクター的にもアスリートっぽく、筋は通す感じでした。
眞嶋 真っすぐですね。感情はあまり出さないけどアランを愛していて、彼を訪ねてきた野々宮にも正面から向き合って。
――話し方とかは、普段の眞嶋さんと変えたんですか?
眞島 そうですね。台本で台詞が男っぽい口調だったので、ちょっと難しかったです。でも、言葉づかいや姿勢や歩き方には人の性格が表れるもので、そこは監督のイメージしているものもあると思うので、沿うようにしました。
――カメラが回ったらパッと切り替えられるタイプですか?
眞嶋 マリアは常にジャージでガムを噛んでいたので、その雰囲気で入りました。私はあまり役を引きずらないタイプで、家に帰ったらいつもの自分に戻ります。でも、そういうときに聴く音楽や観る映画のテイストは偏るなと思いました。
――『あらののはて』を撮っていた頃は、どんな映画を観てました?
眞嶋 何度も観ている『百円の恋』とか、『ミリオンダラー・ベイビー』ですね。
――どちらも女性ボクサーの物語。
眞嶋 そういうときに、ハッピーなラブコメを観ようという気にはなりませんでした。
いろいろ考えつつ現場では何もしないように
――マリアの登場シーンは、暗い部屋で明かりもつけず、ヘッドホンをしてハンドグリッパーをやりながら、テレビを観ていました。何を観ていたのか、わかりませんけど。
眞嶋 テレビはついていても集中できなくて、内容は頭に入ってこないイメージでした。アランのお母さんに電話してきた野々宮という女のことを「誰だ?」と考えていて。マリアはもしかしたら、怒っているときや考えごとをしたいときは、ヘッドホンをしてテレビを観るのかもしれない。台本には書いてないし正解はないですけど、そういうことを想像しました。
――でも、荒野が帰ってきたら「おかえり。お腹すいてる?」と、何ごともなかったようにしていました。
眞嶋 普通を装いつつ、「いつ聞こうか? 何て聞こうか? いきなり怒ってもダメだろう」と考えながら演じていました。
――そういう演技プランは練るほうですか?
眞嶋 今回は何日かリハーサルがあって。ジャングルジムの前で野々宮とやり合うシーンも、別の公園で練習しましたけど、監督は「そこにいてくれればいいから何もしないで」という感じだったんですね。だから、役についていろいろ考えたうえで、現場では「何かしよう」という意識は持ちませんでした。
――普段の眞嶋さんのたたずまいは、マリアより柔らかい感じでは?
眞嶋 そうでしょうね。私は普段「ヘラヘラしてるね」と言われるので(笑)。サッカーの練習になれば変わると思ってますけど、「走ってるときも笑ってる」ともよく言われます(笑)。
――余裕があるから?
眞嶋 いえ、なぜか走りながら笑っちゃうんです。冬も口を開けて笑って走るので、ノドがすごく乾燥します(笑)。原因は本当にわかりません。
言葉にしなくても愛が伝わるようにしました
――マリアを演じるうえで基盤にしていたようなこともないですか?
眞嶋 一番はアランへの気持ちですかね。アランを巡る女の戦いの話でもあるので。マリアは「愛してるよ」とか口にすることはないけど、そういう気持ちが伝わるように……とは思っていました。
――そもそもですが、男前で心身ともに強そうなマリアと、ヘタレなところがある荒野は、つき合わなそうな感じはしませんでした?
眞嶋 でも、アランも、彼を演じていた髙橋さんもとっても魅力的なんです。私自身、演じながら、クシャッと笑った顔を見て「かわいいな」と思ったりしました。マリアがぶっきらぼうに言ったことも全部受け止めてくれて、「一緒にいたい」と感じさせるところもありました。
――2人が8年間、どうつき合ってきたかも想像しました?
眞嶋 2人の思い出は考えました。マリアから告白したのか。8年間どんな暮らしをしてきたのか。マリアもシュートボクシングだけで食べてはこられなかっただろうから、どんなバイトをしているのか……などなど、想像して演じました。
――マリアが高校に行かなかったのはどうしてか、とかも?
眞嶋 そうですね。そういうことを考える時間も楽しかったです。
普段から淡々としていて緊張はしません
――クライマックスの、マリアが野々宮を「ブス!」とかなじりながら叫ぶシーンは、力が入りましたよね?
眞嶋 はい。マリアが初めて声を荒らげて、感情を思い切りぶつけるところだったので。
――緊張もしました?
眞嶋 それまで黙っていてからワーッと言う場面で、マリアとしては緊張したでしょうけど、私自身はあまり緊張しなかったです。
――他の作品でも緊張することはないほうですか?
眞嶋 いろいろな方とお芝居させていただく中で、「緊張するな……」というときはありますけど、いざ撮り始めると、あまり感じないですね。リフティングを生で披露するほうが緊張します。
――度胸があるんですね。あそこのマリアみたいに感情が高ぶることは、眞嶋さんはありますか?
眞嶋 私はわりとマリアに近いところがあって、普段は淡々としています。学生時代からずっと「落ち着いてるね」と言われてきたタイプで、ケンカも家族とはしたことありますけど、友だちとすごく言い合ったりした記憶はありません。
――でも、役では爆発させて。
眞嶋 はい。普段溜めているもの、自分なら言えないことを混ぜて叫びました。
顔が見えないから心をくすぐるのが新鮮でした
――『あらののはて』の撮影全般を通じて、ハードルだったことはないですか?
眞嶋 マリアの気持ちはわかる部分が多かったんですけど、監督にリハーサルのときから何度も「何もしないで」と言われていて。お芝居を撮られるとなると、つい何かしてやろうと思ってしまうところを、本当に何もしないでその場にいるのは難しかったです。ガムを噛みながら、目の前の人と対峙することに集中していました。
――試写を観て、どんなことを思いました?
眞嶋 「映像がきれいだな」というのが第一印象でした。基本カメラを置いて引きで撮っていて、顔をアップにしたがる作品が多い中、風景がきれいで、「真っ暗だけど、どんな顔をしてるの?」みたいな場面もあって。私には新鮮でした。
――確かにクライマックスでも、その場にいる登場人物の1人が映ってなくて、声だけ聞こえるのは斬新でした。
眞嶋 そうなんですよね。映ってないから観客の心をくすぐる、いい意味で意地悪な作品だと思います。教室に3人が集まったのに、野々宮がどういう感じで入ってきたのか映ってない。でも、そこの3人の雰囲気が好きです。
――その前の、教室にマリアと野々宮がいるシーンも、2人の空気感が微妙だけどいい感じでした。
眞嶋 それこそシルエットで顔はまったく見えないけど、あの2人の関係性は私も好きです。ジャングルジムでケンカして、車に乗って、たぶん2人は一切話してないんですよ。それで教室に辿り着いて、マリアが初めて発した言葉が「高校の頃のアランって、どんなだった?」という。その第一声は私としても緊張したかもしれません。
作品のメッセージを届けて人の心を動かしたくて
――眞嶋さんは今後も、女優とサッカータレントの二刀流で行くんですよね?
眞嶋 そうですね。お芝居でもっとたくさんの方に認知されたいし、リフティングで知ってくださった方が「あの子、こんな作品に出ているんだ」という知られ方でもいいです。入口はどちらでも構わないので、もっといろいろな作品に携わって、自分が受けたような影響を観た方に与えられる女優になりたいです。
――これから磨いていきたいこともありますか?
眞嶋 たとえば『縞模様のパジャマの少年』や『戦場のピアニスト』という作品を観ると、日常とはかけ離れた戦争の物語ですけど、「私だったら、このとき……」と考えさせられるんです。そういうふうに、作品を通して人の心を動かしたくて。どんな作品にも伝えたいメッセージはあると思うんです。それをしっかり届けられるように、俳優部としてできることをやるし、制作チーム全員でひとつのゴールに向かっていくようにしたいです。
――差し当たって、目標にしていることは?
眞嶋 英語が好きなので、海外の方と一緒に作品を作ったりしたいです。ハリウッドまでいかなくても、今はNetflixとかで合作も結構あるので。そういうものに挑戦して、視野を広げていければ。
――学生時代は成績も優秀だったそうですが、英語学習は続けているんですか?
眞嶋 はい。勉強は好きですから。
――本当に何でもできるんですね。逆に、苦手なことはありませんか?
眞嶋 料理ですかね。まず、作ろうとするまでに時間がかかります。器具から全部揃えたいタイプなんです。“大さじ何杯”とか、その通りにやりたいから、「あれがない」となったら作れなくて。レシピは今はインスタでもありますけど、結局途中で「自己流でいいや」となるから、出来上がっても見栄えが良くなくて(笑)。
アクション作品でも観てもらえるようになれたら
――料理をするのは女子力を上げようと?
眞嶋 そういうことは考えませんけど、作品でキッチンのシーンもよくあるじゃないですか。今の私だと「普段料理してないな」と思われそうなので、できるようにしておこうと。
――それも演技のためなんですね。
眞嶋 ちょうど今、アクションの作品に入っているので、トレーニングをするうえで、タンパク質がどうとかも気にしています。
――アクションというと、殺陣とかをやっているんですか?
眞嶋 殴る、蹴るです。ハイキックをしたりもするんですけど、私は体が硬いので、ストレッチもしています。『あらののはて』を撮った頃より、今のほうが強くなって(笑)、もともと体を動かすのは好きなので楽しいです。
――運動神経の良さが女優としても活きそうですね。
眞嶋 アクションは「初めてにしてはうまいね」と言われるので、もっとできるようになって、映画とかで観ていただけたらと思います。
Profile
眞嶋優(ましま・ゆう)
1997年8月30日生まれ、群馬県出身。
子役としてデビューし、2004年に連続テレビ小説『天花』に出演。2015年にハンブルグ日本映画祭に出品されたオムニバス映画『SHOUT』内の『Echoes』に主演。2016年に映画『花火』でヒロイン。その他の主な出演作は、映画『リンキング・ラブ』、『波乗りオフィスへようこそ』、ドラマ『名前をなくした女神』、『ラブファントム』ほか。日本フリースタイルフットボール協会公認アンバサダーを務める。
『あらののはて』
監督・脚本/長谷川朋史
8月21日~9月10日、池袋シネマ・ロサにてレイトショーほか全国順次公開