BCGワクチン接種の有無でコロナ死亡率に差があるというけれど・・・
BCGワクチン接種の有無を国際的に比較すると、新型コロナウイルスの対人口比死亡率に差があるとの報道が話題になっている。そもそも、BCGは結核を予防するワクチンである。
BCG有無でコロナ死亡率「1800倍差」の衝撃 日本や台湾で死者少ない「非常に強い相関」(AERAdot)
筆者が、別件の研究で分析をすべくデータを探していたところ、自治省『昭和37年版地方財政白書』に、偶然にも興味深い表が掲載されていたのを見つけた。その表が、冒頭の表「第71表 結核死亡率の状況」である。本稿では、これを皮切りに話を進めたい。
昭和30年(1955年)から昭和35年(1960年)の結核死亡率は、低下傾向にあるが人口10万人対比で30(人口100万人対比で300)を上回っている。この率は、今の新型コロナウイルスの比ではないほど高い。前掲のBCGワクチンがらみの国際比較にもあるように、わが国の現時点での新型コロナウイルスの対人口比死亡率は、人口100万対で4.4である。
ちょうどこの時期は、わが国では東京タワーが1958年12月に完成した頃で、それこそ映画「三丁目の夕日」の背景となった時代である。その頃の結核死亡率はこれほどに高かった。この頃には、結核の治療薬であるペニシリンもストレプトマイシンもわが国で使えるようになっていた。
新型コロナウイルス感染症の死亡率で、人口100万対で300を上回っている国は、スペイン(553)、イタリア(490)、イギリス(445)、フランス(396)といったところである(数字は、前掲記事参照)。
また、当時のわが国における結核の新規感染者(新登録患者)数は、年に50万人前後と、今の新型コロナウイルスとは比にならないほど多かった(厚生省『伝染病統計』による)。
加えて、わが国が目下とっている国民皆保険制度は、1961年に始まった。だから、冒頭の表の時期はまだ国民皆保険ではなかったわけで、医療へのアクセスが今と比べ物にならないほど悪かったのも、死亡率が高かった一因といえよう。
そんな状況下でも、ロックダウンなどはせず、時は高度成長期で映画「三丁目の夕日」に描かれたように人々は暮らしていたのだから、今と昔に死生観の差がずいぶんあることを痛感する。
ちなみに、1961年に国民皆保険制度が始まって、結核死亡率はどうなったか。統計によると、人口10万対で1961年に29.6、1964年に23.6、1965年に22.8と低下してはいるが、依然として高かった。また、結核の新登録患者数は、まだ30万人を超えている状態だった。
そんな中でも、1964年には東京五輪が開催された。
さて、ひるがえって現代。わが国の結核死亡率は、人口10万対で1.7(人口100万対で17)程度である。あれほど高い死亡率は過去のものとはなったが、前掲の現時点での新型コロナウイルスの対人口比死亡率よりも高い。相対的には、高齢者の方が高い。
それより、わが国で近年問題視されているのは、結核罹患率が他の先進国よりも高いことである。日本は2017年に人口10万対で13.3と、先進国の中で突出して高く、「中蔓延国」とみなされている。人口10万対10以下の「低蔓延国」となるべく、取り組みが進められている。
2013年度から、BCGワクチンの接種時期を変更するなどして、結核の予防効果を高めようとしている。近年ではBCG接種率も90%超である。
ただし、そもそも、BCGは結核のワクチンである。しかも、わが国でBCGワクチン接種を強化したのは、1999年に「結核緊急事態宣言」を発して以降であり、結核罹患率は、依然として他の先進国よりも高く、特に高齢者の罹患率が高い。
わが国で、新型コロナウイルスの対人口比死亡率が低いことと、結核罹患率が高いこととが、BCGワクチン接種とどう関連付けられるのだろうか。ここは、医学の専門家にお伺いしたいところである。