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両陛下の「お歌」ににじみ出るお人柄 令和になってからの「変化」とは?

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
天皇皇后両陛下(写真:ロイター/アフロ)

皇室の方々がご自分のお考えや思いを国民に伝えることが出来るのは、お誕生日や外国ご訪問に際して行われる記者会見、文書回答など、その機会はごく限られている。

よく女性皇族が身にまとうファッションには、ご訪問先や携わる人びとへの敬意や労いのメッセージが込められていると言われるが、同じように思いを伝える手段のひとつが、皇室の方々が詠まれるお歌ではないだろうか。

お歌を詠まれることは、皇室のたしなみの一つである。毎年行われる新年行事の「歌会始の儀」では、天皇皇后両陛下を始め、皇室の方々がそれぞれに自らの思いを込めてお歌を出される。

お歌からは、日頃、どのようなことをお考えになり、何を大切にされているのかが見えてくる。

そこで今回も、これまで両陛下のお歌に通底しているテーマについて、宮内庁御用掛の永田和宏さんに伺った。

◆両陛下のお歌に共通するテーマ

永田さんが特に印象に残っている両陛下のお歌は、ご結婚翌年にお二人同じテーマで詠まれたお歌だという。

当時皇太子同妃だった両陛下は滋賀県彦根に宿泊され、ホテルの部屋からは美しい琵琶湖の景色が見渡せた。その眺めを見つめながら過ごした時間は、忘れられないものとなられたのだろう。この景色をモチーフにして、お二人ともお歌を詠まれている。

我が妻と 旅の宿より眺むれば さざなみはたつ近江の湖に(天皇陛下)

君と見る 波しづかなる琵琶の湖 さやけき月は水面おし照る(雅子さま)

琵琶湖と月(写真:イメージマート)
琵琶湖と月(写真:イメージマート)

「両陛下はこんなふうにお二人で、同じテーマでお歌を詠んでいらっしゃる。愛子さまがお生まれになった時も、お二人で愛子さまの歌を詠まれ、普段から心を通い合わせていらっしゃることが伝わってきて、とてもいいと思いますね」

と永田さんは、ご夫婦でともに体験された風景の美しさや、その時のお気持ちを詠まれることによって、お二人の日常が豊かな情感で結ばれていると語る。

また愛子さまが誕生されて3年後、両陛下はわが子の幸せを願うという同じテーマで、以下のお歌を詠まれた。

すこやかに 育つ幼なを抱きつつ 幸おほかれとわが祈るなり(天皇陛下)

寝入る前 かたらひすごすひと時の 吾子の笑顔は幸せに満つ(雅子さま)

皇室というやんごとなきお立場を離れ、このお歌にはごく普通の父と母の情愛が溢れている。皇太子同妃と言えども、人の親に変わりなく、その微笑ましさに私たちの心をどこかほっとさせてくれる。

      雅子さまと愛子さま(写真:ロイター/アフロ)
      雅子さまと愛子さま(写真:ロイター/アフロ)

◆令和になってからの両陛下のお歌

永田さんは、令和になってから陛下が詠まれるお歌のテーマに、変化が出てきたと指摘する。

「皇太子の時代は、わりと身近なことを歌っておられましたが、天皇になられてからは、国民の支えとなろうとされる思いをこめた、いわば天皇としてのお歌を作られるようになりました。つまり『晴』のお歌が増えてきたというわけです」

日本では、「晴れ着」や「晴の門出」のように、伝統的な社会の営みを「晴」と呼び、逆に普段の日常生活のことを「褻(け)」と呼ぶ。

天皇陛下は国民統合の象徴という公の立場上、人びとの安寧を願い国家の平安を祈る、いわば「晴」の歌が多くならざるを得ないという。

その点、皇后はお立場にしばられることなく、日々の暮らしの中で感じたことや出来事について、比較的自由にお歌を詠むことができる。

結婚30年を迎えた今年のお歌も、それがにじみ出るものであった。

皇室に 君と歩みし 半生を 見守りくれし 親しき友ら(雅子さま)

       皇后雅子さま(写真:Motoo Naka/アフロ)
       皇后雅子さま(写真:Motoo Naka/アフロ)

皇室に嫁がれて30年、陛下とともに人生の半分を歩み、温かく見守ってくれた友たちへの感謝が伝わってくるお歌だ。永田さんは両陛下のお歌に、こんな期待を持っている。

「歌というのは天皇皇后という、ある意味、別世界にいる人たちも、一般の国民と同じような感情を持って、同じようなことに感激して生活していらっしゃるのだと知ってもらうのに、とてもいい表現方法だと思います。陛下には『晴』の歌だけでなく、ぜひ『褻』の歌もどんどん作って頂きたいと個人的には思っています」

◆永田さんが感じた、陛下のお人柄

今年の歌会始で天皇陛下が出されたお歌は、令和3年に和歌山県で行われた、国民文化祭のイベントの一つ「吹奏楽の祭典」において、演奏者の高校生と交流された時の感動を詠まれた。

コロナ禍に 友と楽器を奏でうる 喜び語る生徒らの笑み(天皇陛下)

このお歌を創作される際、永田さんは陛下から相談を受けたという。

最初、吹奏楽の「吹く」という言葉を用いていたのだが、あとで陛下のほうから「演奏には弦楽器も入っていたので、すべての楽器にあてはまるように『奏でうる』に直したいのですが、どうでしょうか」と。

真面目なお人柄で知られる陛下の、弦楽器を担当する生徒たちへの気遣いであった。

「その時のイベントでは、弦楽器も加えた編成だったようですから、一部の人だけにならないようにという、ご配慮がある方だなと思いました。言葉選びの端々に陛下の細やかなお心遣いを感じましたね。お歌にはその人の人間性があらわれると言いますが、わずか一語の言葉選びから、陛下のお人柄が見えてくるようです」(永田さん)

お歌が生まれ、出来上がるまでの過程にも、陛下のお人柄がにじみ出ていたとは、なんと清々しいことだろう。

国民の日々の営みに心を寄せ続けていらっしゃる陛下の、ゆるぎない姿勢を改めて感じたエピソードであった。

「『夏の思い出』をお歌に?皇室のお歌ご指南役が語る『愛子さまとお歌』」

https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20230724-00358446

「“大学生”愛子さま、最後の夏休みをどう過ごす?警備体制について識者に聞く」

https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20230727-00359331

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。西武文理大学非常勤講師。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)などがある。

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