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社会保険料を消費税に置き換えた場合の世代別の損得勘定を試算してみた

島澤諭関東学院大学経済学部教授
図はイメージです(写真:イメージマート)

岸田文雄総理肝いりの「異次元の少子化対策」の財源として、社会保険料の引き上げによる支援金制度(仮)が有力視されていることに関連して、先日、経団連が、社会保障制度維持のための財源として、将来の消費税の引き上げを「有力な選択肢の一つ」と指摘する一方、法人税減税で人やモノへの投資を促進し、持続的な経済成長を実現するべきだと訴え、物議を醸しました。

少子化対策へ消費税増税「有力な選択肢」 経団連が提言(日本経済新聞 2023年9月11日 19時23分)

一般社団法人日本経済団体連合会「令和6年度税制改正に関する提言―持続的な成長と分配の実現に向けて―」(2023年9月12日)

もちろん、社会保険料は法定福利費であり人件費のなかでも大きな割合をすでに占めていますし、その引き上げは当然、生産コスト増となり、もし製品価格に転嫁すれば、国内でも売れ行きは落ちるでしょうし、輸出企業であれば、それだけ輸出競争力が低下する訳ですから、反対は当然でしょう。

一方、消費税の場合、消費税は、あくまでも国内において消費される財・サービスの販売、提供に対して課税されるので(仕向地課税主義)、輸出企業の場合は国境税調整によって免税となりますから、企業、特に輸出企業の側からいえば、消費税の方が社会保険料よりは合理的と言えます。

ただし、これはあくまでも企業目線での話です。私たち、労働者から見れば、社会保険料負担と消費税負担、どちらがより有利になるのでしょうか?

2021年現在、社会保険料負担総額は、労働者負担39.8兆円、企業負担35.7兆円、合計75.5兆円となっています。

いま、仮に、社会保険料負担を10%軽減し、同時に同額だけ消費税を引き上げることにした場合、 世代別の損得計算はどうなるでしょうか?

どういうことかと言えば、社会保険料は所得に係るので主に現役世代が負担するのに対して、消費税は現役世代も高齢世代も広く薄く負担することになるわけですから、世代別に見れば損をする世代と得をする世代が出てくることになる訳です。

厚生労働省「国民生活基礎調査」、総務省統計局「全国家計構造調査」、国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」を用いて試算した結果が下表です。

表 社会保険料を消費税に置き換えた場合の世代別損得計算(単位:万円)(厚生労働省「国民生活基礎調査」、総務省統計局「全国家計構造調査」、国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」により筆者作成)
表 社会保険料を消費税に置き換えた場合の世代別損得計算(単位:万円)(厚生労働省「国民生活基礎調査」、総務省統計局「全国家計構造調査」、国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」により筆者作成)

試算結果によれば、社会保険料負担総額75.5兆円の1割を削減し、同額だけ消費税に置き換えた場合(消費税率に換算してほぼ4%)、現役世代では負担が軽減されるのに対して、70代以上の引退世代では逆に負担が増すことが分かります。

全世代型社会保障の構築によって増え続ける一方の社会保障給付を賄うために際限なく消費税を引き上げるのではなく、社会保険料を引き下げる代わりに消費税を引き上げるのであれば、マクロで見たトータルの負担は増えませんから、ギリギリ許されるのではないでしょうか?

もちろん、この改革によって、引退世代をはじめとして、主な負担が消費税の人々からは猛烈な反対があるに違いありませんが、人件費削減で輸出競争力が向上する、社会保険料の企業負担分だけ賃金が上がる可能性が高い、あるいは新規雇用が増えるなど、現役世代には有利であると思われます。

読者の皆さんはいかがお考えでしょうか?

関東学院大学経済学部教授

富山県魚津市生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済企画庁(現内閣府)、秋田大学准教授等を経て現在に至る。日本の経済・財政、世代間格差、シルバー・デモクラシー、人口動態に関する分析が専門。新聞・テレビ・雑誌・ネットなど各種メディアへの取材協力多数。Pokémon WCS2010 Akita Champion。著書に『教養としての財政問題』(ウェッジ)、『若者は、日本を脱出するしかないのか?』(ビジネス教育出版社)、『年金「最終警告」』(講談社現代新書)、『シルバー民主主義の政治経済学』(日本経済新聞出版社)、『孫は祖父より1億円損をする』(朝日新聞出版社)。記事の内容等は全て個人の見解です。

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