道端に積まれ捨てられ切り刻んで豚のエサにされるバナナ 日本の厳しい規格で廃棄されるフィリピンの農産物
バナナは、2004年以降、日本の年間消費量が1位の果物だ(アジア太平洋資料センター:PARC『甘いバナナの苦い現実』資料集より)。総務省統計局の「家計調査」によれば、世帯ごとの購入数量も安定して高い。
商品としてのバナナが最初に日本に輸入されたのが1903年(明治36年)。台湾のバナナだった。1963年の輸入自由化を機に、フィリピンには日本向けバナナ農園が開発された。1970年には日本のバナナ市場の6.5%だったフィリピン産バナナは、1981年には市場の91%を占めるまでになった。2017年時点で、輸入している生鮮果実全体の59%(98万トン)を、バナナが占めている(農林水産省「果樹をめぐる情勢 平成30年9月版」)。
1970年代、フィリピンでは日本向けバナナが大量に廃棄されていた
日本のバナナ消費のピークは1972年。一人あたり、年間で平均6kg(バナナ1本100gとすれば60本)食べていた。それが、1980年にはおよそ4kgに減った。
鶴見良行(つるみ・よしゆき)の名著『バナナと日本人』(岩波新書、1982年8月20日第一刷発行)によれば、1970年代、日本向けバナナは現地で大量に廃棄されていた。
『甘いバナナの苦い現実』(アジア太平洋資料センター:PARC)
このたび、アジア太平洋資料センター(PARC)が、『甘いバナナの苦い現実』という映像作品を出した。フィリピンのバナナが大量生産される裏側で、農薬の空中散布と健康被害があること、不平等契約があることなど、マスメディアがほとんど伝えていない現実を映像化したものだ。
2018年12月3日には、この映像作品を監修した、立教大学異文化コミュニケーション学部の石井正子教授を招いてのトークイベントが都内で開催された(主催:アジア太平洋資料センター)。
また、2018年12月4日には、石井正子教授がTBSラジオ「荻上チキ・Session-22」に出演し、詳しい現状を、鶴見良行著の『バナナと日本人』を踏まえながらお話された。
生のバナナだけではなく、日本向けバナナチップもフィリピンで大量に廃棄
石井正子教授は、TBSラジオの出演の中で、「日本は規格が非常に厳しい。(フィリピンのバナナは)Aクラス、Bクラス、Cクラスと分かれており、以前は廃棄の対象となったBクラス、Cクラスが、今では中国とか中東の市場に流れている」という趣旨をお話になられた。廃棄対象のものは、切り刻んで家畜のエサにされているということも紹介された。ちょっと曲がっても、規格外としてはねられるそうだ。
実は、フィリピンで捨てられているバナナは、生のものだけではない。バナナチップも捨てられている。これは、筆者が通った2つ目の社会人大学院の時、フィリピンのミンダナオ島から留学してきていた女性から聞いた。彼女はバナナチップの製造工場で働いていた。その工場では、日本の2つの企業へ輸出していた。が、2社とも、それぞれ違った厳しい規格があったため、たくさんのバナナチップが「規格外」としてはねられ、廃棄されていたという。最初から捨てたわけではなく、規格外となったものはフィリピン国内で売るのだが、全部売り切れるわけではなく、残ったものは燃料として燃やすとのことだ。「バナナチップはよく燃える」と、彼女は話していた。
生のバナナやバナナチップだけではない、日本向け農産物も年間数百トン、日本の厳格な規格に沿わないため廃棄されている
フィリピンでの農産物の廃棄の話は、日本向けの生のバナナやバナナチップだけではない。日本向けに栽培され、輸出されている野菜もだ。
筆者が3年間ほど通っていたフィリピンの会社では、年間100トンから200トンの新鮮な農産物が、日本の厳格な規格に沿わないため、廃棄されていた。
規格外のものをなんとか有効活用しようと試みた。この件については「食品ロス削減と貧困緩和のための余剰農産物の活用:フィリピン・タルラック地区を事例にしたフードバンク」と題し、廃棄物資源循環学会で発表した。
途上国に農産物を作ってもらっている先進国は責任を負うべきではないのか
2015年9月に国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、「誰一人取り残さない」を合言葉に、先進国だけでなく、途上国も、貧困や飢餓などの社会的課題が解決され、きちんと暮らしていけることを目指している。
鶴見良行は、著書の中でこう述べている。
途上国では、彼らが食べない農産物を、先進国のために作っている。そして、先進国が定めた厳格な規格のために、大量に、現地で捨てている。作らせる側の先進国の消費者として、その状況に対する責任感を感じるべきではないだろうか。「おいしいところだけもらって逃げる」のではなく。