西野ジャパンがW杯初勝利。光った前線からのプレスと、柴崎のポジショニング。
ロシア・ワールドカップ開幕後、ここまでで最大のサプライズになったと言えるかもしれない。
日本の初戦の相手はコロンビアだった。4年前にブラジル大会で1-4と大敗した相手だ。下馬評ではコロンビアが有利だとされていた。バイエルン・ミュンヘンのハメス・ロドリゲス、ユヴェントスのクアドラードなど欧州のトップクラブで活躍する選手がいるからだ。
■パスコース遮断とクアドラード封じ
だが今大会は「プレス型」のチームが奮闘している。ポゼッション主体で快勝したのはベルギーくらいだ。ベルギー(ポゼッション率62%)はパナマ(ポゼッション率38%)に3-0で勝利。一方でドイツ、アルゼンチン、ブラジルは初戦で勝ち点3を挙げることができなかった。ドイツに至っては、メキシコの走力と執拗なプレッシングを前に、最後まで打開策を見いだせずに敗れている。
そのため、日本も十分可能性はあるような気がしていた。加えてコロンビアはハメスのコンディションが万全ではなかった。前回のW杯で6得点をマークして大会得点王になった男の在・不在はコロンビアの戦術において大きな影響力を持つ。ハメスがいなければ、ポゼッションを高められても相手に与える恐怖心は半減するはずだった。
そのハメスは予想通りベンチスタートになる。代役のキンテロは技術に優れるが、ゲームをオーガナイズする力に関してはハメスに劣る。日本は守備時に4-4-2を敷き、1トップの大迫勇也、トップ下の香川真司がコロンビアのボランチへのパスコースを徹底的に遮断した。キンテロが中盤に下がってくると、これを捕まえるのに苦労したが、序盤に大迫がうまくダビンソン・サンチェスと入れ替わり決定機を演出。シュートこそGKオスピナに当ててしまうも、こぼれ球に香川真司が反応した。香川のシュートはC・サンチェスのハンドを誘い、レッドカードとPK獲得で日本が先制する。
ハメスを欠いたことで、コロンビアの攻めは個の能力に秀でるクアドラードがいる右サイドに偏っていった。となると、クアドラードを潰せばコロンビアの攻撃は空転する。日本は乾貴士と長友佑都の2枚でクアドラードをシャットアウトした。
リーガエスパニョーラで初めて成功を掴んだ日本人選手となった乾は、なぜエイバルで主力になれたのかをこの大舞台で証明した。守備時のプレー強度はコロンビアの選手たちにまったく引けを取らず、クアドラードとの肉弾戦にも臆さなかった。あそこでクアドラードをスピードに乗せてしまうと厄介だったが、乾が幾度となく帰陣して行く手を阻み、コロンビアは停滞した。
■柴崎のポジショニング
日本は試合をコントロールする側に回った。欲を言えば、もう少し高い位置でポゼッションをしたかった。しかし、その中で柴崎岳が光っていた。
攻守両面において柴崎のポジショニングは的確だった。攻撃面ではコロンビアのFWとMFラインの間、ボランチとトップ下の間、サイドハーフとボランチの間と常に中途半端な位置に立つ。これがボディーブローのように効いた。守備面ではカウンターの芽を摘み、バイタルエリアまで戻って要所をケアした。
ペケルマン監督はクアドラードを下げてバリオスを投入。この交代策に日本は苦しめられる。バリオスが中盤に入り、プレスの的が絞りにくくなった。それだけではなく、前線で起点になるべく精力的に動いていた香川は悉くバリオスに潰された。前半の終盤にFKで失点した日本だが、後半に入るとようやくポゼッションを高め始める。前半は一時コロンビア60%に対して日本40%となるなど、ポゼッション率で下回っていた。
酒井宏樹が徐々に高い位置を取れるようになり、乾と原口元気の両サイドハーフは疲労を知らぬかのように走り続けた。途中出場の本田圭佑が蹴ったCKに大迫がヘディングで合わせ、勝ち越しに成功。コロンビアの失意が手に取るように伝わってきた。前半から1人少ない状況でありながら猛攻を仕掛けざるを得なかった彼らに、もはやガソリンは残っていなかった。
日本はカウンターの流れからのPKに、セットプレーで2得点を記録した。弱者の兵法ーー。それはハリルホジッチの遺産だった。前指揮官の貢献を忘れるべきではない。物凄くポジティブに見れば、この4年間の方向性は間違っていなかった。まだ手放しで喜ぶのは早い。しかしながら、一致団結しての勝利に、この先の大いなる可能性を感じたのである。