ナチスの屋敷の屋根裏でユダヤ人を匿ったポーランド人女性の実話に基づいた映画「Irena's Vow」
2023年にカナダとポーランドで共同制作されたホロコースト映画「Irena's Vow」が2024年に公開される(日本での公開は明らかにされていない)。2022年にポーランドのワルシャワ、ルブリンで撮影され、2023年9月に開催されたトロント国際映画祭でも披露されていた。
ナチスドイツに占領されたポーランドで看護師をしていたイレナはナチスドイツ将校に家政婦として雇われて、その屋敷の屋根裏でユダヤ人らを匿って助けたという実話を元にした映画。オフィシャルトレーラーも公開されている。
▼「Irena's Vow」オフィシャルトレ―ラー
「ホロコーストの記憶のデジタル化」とホロコースト教育で多く活用されるユダヤ人を救った人たちを扱ったノンフィクション映画
ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもされている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。
ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元にして制作され2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。『Irena's Vow』もホロコースト時代のポーランドでユダヤ人を匿って救った女性の実話に基づいているのでノンフィクションである。
一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。
戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。ホロコースト映画やテレビドラマはホロコーストの記憶を後世に伝える「ホロコーストの記憶のデジタル化」にとって重要なツールの1つだ。
特に「Irena's Vow」のようなユダヤ人を救ったヒーローやヒロインを扱ったノンフィクションやドキュメンタリー映画は、地元の人にもナチスドイツに抵抗していて全員がユダヤ人の敵ではなかったという観点から欧米のホロコースト教育で多く使われている。例えば2017年に日本でも公開された映画「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」もポーランドでユダヤ人を動物園に匿って救った夫妻の実話を元にしているもので、ホロコースト教育の重要なデジタル教材として活用されている。
デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画やドラマの視聴には慣れている人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画やドラマをよく観るという大人も多い。また小説や本として読むのは大変だが映画やドラマなら見てみようという人も多い。
世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界の出来事であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのはデジタル化された映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。「ホロコーストの記憶のデジタル化」にとって映画やドラマの果たす役割は大きい。