警察官「性被害者にも責任」、門前払いの実態をスクープ 「攻めた」クロ現の意義
「クロ現、攻めてましたね」
7月30日夜、性暴力の被害者支援などに携わる何人かとそんなやり取りを交わした。同日に放送されたNHK・クローズアップ現代+「“顔見知り”からの性暴力~被害者の苦しみ 知ってますか?~」の感想だ。
残念ながらまだ認知度が高いとはいえない性暴力ワンストップ支援センターの存在や、その役割をわかりやすく紹介した前半部分も非常に意義深く感じたが、支援関係者らが「攻めている」と表現したのは番組の後半部分。
被害を警察に相談した女性が、警察官から被害届の不受理にあたると思われる扱いを受けるくだりだ。番組の内容をテキスト化した公式サイトから引用する。
■警察官「(被害者)本人に責任がある」
番組の説明によれば、アユミさん(仮名)は、よく行く飲食店で店長から紹介された男性に、送ってもらう途中でラブホテルに連れ込まれた。ふらつくアユミさんに対して、男性は「睡眠をとったほうがいい」と言った。
番組内の説明によれば、このとき被害届は受け取られなかった。しかし、後日、支援センターから紹介された弁護士を伴って再度警察を訪れたところ、被害届は受理されたという。
警察のこの対応について番組内で武田真一キャスターは「傷ついて相談に来ている被害者に、どうしてあんな言葉がかけられるんだろう、私は正直憤りを感じた」と感想を漏らしている。
■警察は「門前払い」の実態を認めてこなかった
性暴力の被害者が警察に相談した際に「捜査できない」と言われたり、被害届を出させてもらえなかったりすることがある。これは、これまで被害者や支援団体の中で共有されてきた問題だ。
被害者が警察で「門前払い」される実態だ。私もこれまで複数の被害者から、「捜査できない」「よくあること」などと門前払いされたケースを聞いている。
しかし、この実態を警察庁は認めてこなかった。たとえば、今年5月に国会で行われた井出庸生議員と、警察庁長官官房審議官・田中勝也氏のやり取りだ。
この答弁を知ったある支援者は「建前しか言えないなんて」と感想を漏らした。被害者から話を聞く支援者たちが見ている状況と違いすぎるからだ。
被害者が警察による被害届の不受理を支援者らに訴える。支援者がそれを問いただす。警察は「把握していない」と回答する。その光景はこれまでも繰り返されてきた。
性暴力撲滅に向けた啓発活動を手がける特定非営利活動法人しあわせなみだの中野宏実さんは言う。
「これまでも被害届が受け取られなかったケースは聞いてきました。けれど、警察庁や法務省は、そんなことはない、把握していないという回答。それが今回、NHKの放送を通して、事実として起こっていたんだということが証明されたと思う」
■弁護士がいれば受理、おかしいのでは
国会で質問に立った井出議員は、番組内で被害者が弁護士を同伴して警察を訪れて初めて被害届が受理されたことについて、こう指摘する。
「警察に相談する際、最初から弁護士をつけることができる人が一体どれだけいるのでしょうか。警察は、被害者からの相談を印象で門前払い・論破するのではなく、性犯罪に該当する疑いがあるかどうか、法律的に判断しなければなりません。
被害者だけで相談に行ったら門前払いで、弁護士を入れたら被害届を受理するという警察の対応は、被害届の即時受理の原則と照らして正しかったと言えるのか疑問です」※ 警察庁は2012年に迅速・確実な被害の届出の受理について通達を出している。
■「被害者はウソをつくものだという思い込みが前提にある」
番組で公開された警察官のコメントは、被害届を受理しない理由は「(被害者)本人に責任がある。原因がある」と言っているように取れる。
また、「『なんで私の事件やってくれないんだ』って言われる方もいっぱいいます」という警察官のコメントからは、これ以前にも同様に被害届を受け取らなかったケースが複数あることが推測される。
中野さんは、警察が被害届を受理しない理由について、性犯罪被害者への偏見を指摘する。
「被害者にも責任はある(から犯罪ではない)とか、抵抗すれば逃げられたはずというのは、性暴力に関する誤解や偏見に基づく『レイプ神話』と呼ばれている。また、レイプ神話には、『性犯罪の被害者はウソをつくものだ』という思い込みが前提となっている。
(番組内では『犯罪を構成するかといったら構成しません』という発言があったが)そのように言うのであれば、警察が被害届を受け取る判断基準を明確に教えてほしい」
性犯罪は物的な証拠が残りづらい。また、実際に性行為があったことが確認できても、暴行脅迫や抗拒不能の客観的証拠が必要となる。それが、被害者にとって高いハードルとなる。そして性犯罪捜査では、まず被害者の証言が疑われる。
今回の放送で、性犯罪において、被害者側が不利な状況に置かれる実態の一部が明らかになった。
■顕在化していない被害がある
今後、このような実態をどう変えていくべきか。中野さん、井出議員はそれぞれ次のようにコメントしている。
「真摯に被害者対応に力を尽くしている警察官も多くいます。しかし、警察官個人の力量に依るのではなく、警察全体・組織として、被害相談にどのような対応をしているか実態を把握、検証し、また、裁判例を読み込むなど、性犯罪の法や実務について学ぶ機会を増やす必要があるのではないでしょうか」(井出議員)
「この警察官を特定して、その人にだけ指導をしても意味がない。警察官をはじめ、検察官、裁判官、弁護士など、性暴力事件に関わる専門職による、顕在化していない二次加害(第三者が性暴力被害者に対し、無理解に基づき更なる傷つきを与えること)が起きている事実を積み重ね、伝えていくことが、現状を変えていくために必要だと感じる。私たち市民も社会を良くしていくために努力しないといけない」(中野さん)
不受理の実態について、今後も声を集めていくことが必要だ。