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荒井晴彦監督作『花腐し』湯布院映画祭で初上映!綾野剛からのビデオメッセージも

壬生智裕映画ライター
8月28日湯布院映画祭特別試写『花腐し』シンポジウムの様子(筆者撮影)

 現存している映画祭の中ではもっとも古い歴史を持つ「第48回湯布院映画祭」が8月24日から27日にかけて、大分県由布市の、ゆふいんラックホールで開催され、荒井晴彦監督の最新作『花腐し』が8月27日にクロージング作品として上映された。(本文中の敬称略)

 荒井晴彦監督が綾野剛を主演に迎えた本作は、作家・松浦寿輝の芥川賞受賞作「花腐し」を、脚本家の荒井晴彦と中野太が、廃れていくピンク映画業界を題材に大胆に脚色した濃密なドラマ。梅雨のある日に出会った映画監督の栩谷(綾野)と、脚本家志望だった男・伊関(柄本佑)は、自分たちの愛した女について語り始める。ふたりが愛した女は同じ女(さとうほなみ)だったのだ。そして、三人がしがみついてきた映画への夢がボロボロと崩れ始める中、それぞれの人生が交錯していく――。

映画祭のクロージングとなる本作の上映には荒井晴彦監督と、本作出演のさとうほなみ、柄本佑、そして東映ビデオの佐藤現プロデューサーが参加。今回は同作の舞台あいさつ、およびシンポジウムの様子をリポートする。

■映画上映後には主演・綾野剛からビデオメッセージ

本作主演の綾野剛は残念ながら映画祭への参加はかなわなかったが、映画上映直後に急きょ、綾野からのビデオメッセージが上映されることとなった。「本日は撮影の都合で登壇することができず、とても残念ですが、ご来場の皆さんには、初上映の『花腐し』を観ていただいたということで。どうもありがとうございます」と感謝の思いを述べた綾野は、「いかがでしたか? この映画のひとつひとつの断片と、それぞれの心のひだを大切につむいだ作品となっています。映画を見終わった後に皆さんの中に生まれる感情が、この映画を育んでいると思っています。どうか映画『花腐し』を引き続き愛していただけたら幸いです」と呼びかけ。そして湯布院映画祭の観客に向けて、「また皆さんとお目にかかれる日を楽しみにしております。引き続き、映画祭を楽しんでください」とメッセージを寄せた。

湯布院映画祭『花腐し』シンポジウムに参加する荒井晴彦監督(筆者撮影)
湯布院映画祭『花腐し』シンポジウムに参加する荒井晴彦監督(筆者撮影)

■いかにして本作は生まれたのか

その後は、ゲストを迎えたシンポジウムを実施。荒井監督が、2000年に発表された小説の存在を知ったのは2004年の湯布院映画祭の場だったという。「『ラマン』で来ていた廣木隆一が『花腐し』を撮りたがっていて。ちょうど『サヨナラCOLOR』で来ていた竹中直人も『廣木さんが撮るなら、役者で出してくださいよ』と言っていた。その時はまだ本を読んでいなかったので、そんなに面白い原作なのかと思っていたけど、その後も彼らがその企画を実現させる気配がなかったんでやることにした」と述懐。そこから足立正生監督が本プロジェクトに参加することになり、原作者の松浦寿輝と対面。足立正生版『雨月物語』を目指したというが、話はまとまらず。それから斎藤久志監督がプロジェクトを引き継ぐことになったが、資金難からそれもとん挫。

「原作を読んだらあまりにも難しくて。男がふたりしゃべっているだけなんで、どうしようかなと困ってしまった。それで(脚本家の)中野太に書けよといったんですけど、中野が書いてきたのが僕のデビュー作である『新宿乱れ街 いくまで待って』(1977年 曽根中生監督)のようなもので。だから(劇中で言及される脚本家として)俺が出てくるんだけどね」と述懐する荒井監督。その後、紆余曲折あって2019年、以前から荒井監督とのタッグを熱望していたという東映ビデオの佐藤現プロデューサーに脚本を見せたところ、佐藤プロデューサーからやりましょうという返事が。そこで企画は一気に動き出すこととなったという。

湯布院映画祭『花腐し』シンポジウムに参加した佐藤現プロデューサー(筆者撮影)
湯布院映画祭『花腐し』シンポジウムに参加した佐藤現プロデューサー(筆者撮影)

「送っていただいた脚本は中野さんと連名で書かれたものでした。読んでみて、脚本の100%を理解できたかどうかは分からないけど、荒井さんが今まで生きてきた映画界のレクイエムという感じを受けたし、(共同脚本の)中野太さんからの立場から見ると、弟子からのラブレターという感じも受けたし。『Wの悲劇』などの荒井さんのセルフオマージュ的なものも感じた。これはせつないラブストーリーになるんじゃないかなと思ってやらせていただきたいと思った」(佐藤プロデューサー)

■原作を大胆にアレンジ

原作では、主人公はデザイン事務所の経営に行き詰まった男という設定だが、この映画ではそれを、斜陽産業となっているピンク映画業界で映画監督をしている男という設定へと大胆にアレンジ。「原作者は怒らなかったのか?」という指摘に、「(原作者のインタビューが掲載された)プレスだと、原作よりもいいと言っていますよ」と笑ってみせた荒井監督。「だから最初にホンを書こうとした時は、(ピンク映画の老舗会社。数多くの作家主義的な作品を手掛けた)国映がなかなか制作できなくなっていた時で。だからピンク映画に対するレクイエムというか、ひとりの女へのレクイエムに重ねた」とその意図について明かした。

湯布院映画祭『花腐し』シンポジウムに参加した柄本佑(筆者撮影)
湯布院映画祭『花腐し』シンポジウムに参加した柄本佑(筆者撮影)

荒井監督の前作『火口のふたり』に続き、荒井監督作品に出演することになった柄本は「『火口のふたり』の時もそうでしたけど、やはり映画ファンですから。荒井さんのホンは憧れでした。それで『火口のふたり』に続いて、もう一回お話をいただいたんですが、やっぱり(脚本が)面白いんですよ。シンプルに面白いし、映画好きだから、その中に入りたいなと思っちゃうんですよ」と荒井作品の魅力を語る。

湯布院映画祭『花腐し』シンポジウムに参加したさとうほなみ
湯布院映画祭『花腐し』シンポジウムに参加したさとうほなみ

 一方のさとうは「わたしはオーディションだったんです。こういうオーディションをやってるよというお話をいただいて。やはり荒井監督だから、ぜひご一緒したいと思って受けたという感じですね」とコメントするも、荒井監督から「俺のことは知らないでしょ」とちゃちゃを入れられ、「何言ってるんですか! 知ってますよ」と返答。「オーディションとは言いましたけど、形だけでね。最初から、ほなみでと思っていましたよ」と語る荒井監督に、「本当ですか? けっこうがんばったんだけどなぁ」と返したさとう。そんな二人の軽妙なやりとりに会場は笑いに包まれた。

■劇中に登場する“雨”について

 「万葉集」などにも登場する「花腐し」とは、卯木(ウツギ)が咲く卯月(旧暦4月)の頃に降り続く長雨のこと。花が腐ってしまうほどに、雨が降り続くさまのことを指している。そしてその言葉の通り、栩谷(綾野)と伊関(柄本)は梅雨の季節に出会うなど、雨のシーンが印象的に登場する。その意図について質問が及ぶと、「設定が雨が降って腐るという、タイトルが(万葉集の)『雨腐し』からきているということもありますし、それと(『GONIN』『ヌードの夜』などで知られ、雨のシーンがトレードマークのように登場した映画監督の)石井隆という監督がいて、僕と大学で同期だったんですけど、彼の映画の雨というのがいつもすごかったんで。石井隆の雨に負けない雨を降らせたかった。(2022年に亡くなった)石井への追悼の意味も込めて、雨を降らせたというところもあります」と明かした。

湯布院映画祭『花腐し』シンポジウムの様子(筆者撮影)
湯布院映画祭『花腐し』シンポジウムの様子(筆者撮影)

 そして最後のコメントを求められた荒井監督は「さとうほなみに女優賞をとってもらいたいと思います」と激励のコメントを寄せると、会場からは大きな拍手が。その言葉を受けたさとうは、「いい作品に関われたなと、心から思います。そして湯布院映画祭…面白い映画祭ですね。最初は、この映画祭を楽しみにしている人たちから、(映画人が)いじめられる会だと聞いていて。めちゃめちゃ怖かったんですけど、面白い人たちばかりで良かったです」と笑顔。会場を大いに沸かせた。

映画『花腐し』

監督:荒井晴彦

脚本:荒井晴彦 中野太

原作:松浦寿輝「花腐し」

出演:綾野剛、柄本佑、さとうほなみ、ほか

2023年11月10日(金)〜 テアトル新宿ほか全国公開

映画ライター

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。コロナ前は年間数百本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、特に国内映画祭、映画館などに力を入れていた。2018年には、プロデューサーとして参加したドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(長谷川亮監督)が第71回カンヌ国際映画祭をはじめ、国内外の映画祭で上映された。近年の仕事として、「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022カタログ」『君は放課後インソムニア』『ハピネス』のパンフレットなど。

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