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早指しの名手・糸谷哲郎八段、将棋日本シリーズ開幕戦で佐藤康光九段に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月25日。宮城県仙台市・夢メッセみやぎにおいて第43回将棋日本シリーズ・JTプロ公式戦1回戦▲佐藤康光九段(52歳)-△糸谷哲郎八段(33歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 15時26分に始まった対局は16時35分に終局。結果は94手で糸谷八段の勝ちとなりました。

 糸谷八段は2回戦に進出。8月7日、永瀬拓矢王座(29歳)と対戦します。

糸谷八段、受けの力を発揮

 将棋界のトップ12人が早指しで戦う本棋戦。1回戦からA級棋士同士がぶつかる、豪華なカードです。

 佐藤九段は過去に優勝2回(2004年、06年)、準優勝1回(1998年)の実績があります。52歳は参加棋士の中でも最年長。最年少は藤井聡太竜王で19歳です。

 佐藤九段と糸谷八段の過去の対戦成績は、佐藤3勝、糸谷8勝。本棋戦では初めての対戦となりました。

 公開でおこなわれる本棋戦。対局開始に先立ち、両対局者は壇上からファンに向けてあいさつをします。

佐藤「このJTプロ公式戦は私も4年ぶりの出場ということで。少し緊張しているところはありますけども。またこちらの東北の地でですね、対局ができることを大変うれしく思っております」「(糸谷八段は)非常に独創的な将棋で。受けに力強さといいますか、そういう独特の将棋なのかなというふうに思っております」

糸谷「(本棋戦での東北での対局は)だいぶ久しぶりなんですけど。食事も昨日、美味しくいただきまして。温かく見ていただけるような気がしております」「(佐藤九段の印象は)ちょっとかぶるようで非常に難しいところがあるんですけども(笑)。非常に自由な指し回しというか、思いもしないような手が出てこられる。それでいて、力もなにもかも一流の先生というイメージがあります」

 振り駒は抽選で選ばれたファンの方がおこないます。その結果、先手は佐藤九段と決まりました。

 両者一礼のあと、観客席から拍手が起こる中で対局開始。佐藤九段は角交換を誘うモーションで向かい飛車に振り、相手に馬(成角)を作らせる作戦に出ました。

 糸谷八段が自陣を低く構えて動きを待つのに対して、佐藤九段は積極的に動いていきます。

 37手目。佐藤九段は自陣に角を打ちつけました。

「ひえー。これはなかなか指せませんね」

 解説の中村修九段がそんな声をあげました。

糸谷「びっくりしました」

佐藤「ちょっと無理でしたかね、やっぱり」

 両対局者からは局後にそんな声が聞かれました。

 佐藤九段の攻めを少しでも受け間違えれば、あっという間に形勢を損ねそうなところ。糸谷八段は的確に受け止めます。最初に作った馬の存在が大きな進行となり、糸谷八段がリードを奪いました。

 棋界屈指の早指しの名手として知られる糸谷八段。最後はあっという間に佐藤玉の詰みを読み切って、鮮やかな収束を見せました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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