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名作ドラマ『阿修羅のごとく』再放送で、あらためて知る「向田邦子」の凄み

碓井広義メディア文化評論家
『阿修羅のごとく』タイトルバック(番組サイトより)

19日(土)の夜、NHKのBSプレミアムで、ドラマ『阿修羅のごとく』(全3話)が再放送されました。

脚本は、向田邦子さんです。

最初に放送されたのは、40数年も前の昭和54年(1979)。

ただし、人間の本質というか、普遍的な心情が描かれており、時代を超えた名作と呼べる1本です。

主要人物は、性格も生き方も違う四姉妹(加藤治子、八千草薫、いしだあゆみ、風吹ジュン)。

彼女たちを軸に、老父母、夫や恋人も含めた赤裸々な人間模様が映し出されます。

謹厳実直なはずの父親(佐分利信)に、愛人がいたことが判明して騒動に。

その過程で、家族それぞれが抱える秘密も明かされる展開は衝撃的で、向田ドラマの代表作の一つとなりました。

たとえば、こんな場面があります。

おムスビをつくる姉妹たち。つくりながら、食べたり、手のごはんつぶをなめとったり。

「あら、巻子姉さん、(おムスビ)三角なの?」

「そうよ」

「うち、俵じゃなかった?」

「綱子姉さん、『たいこ』型だ」

「オヨメにゆくと、行った先のかたちになるの」

「すみません、いつまでも俵型で――」

また、彼女たちが雑談する場面。

「あたし、覚えてるなあ、お母さんが足袋、脱ぐ音」

「夜寝る時でしょ、電気消した後、枕もとで」

「足のあかぎれに、足袋がひっかかって、何とも言えないキシャキシャした音、立てンのよねえ」

こういったセリフは、向田さんにしか書けません。

さらに、再放送を見ながら、あらためて驚いたのが、以下の場面・・・

家で、父親のコートにブラシをかけている母親(大路三千緒)。小学唱歌をのんびりと歌っています。

「♪でんでん虫々 かたつむり」

コートのポケットの中から、ミニカーがひとつ、ころがり出ました。

妻が浮気に感づいていないと思い込んでいる夫。

愛人が生んだ子供(男の子!)にプレゼントするつもりのミニカーです。

母親は黙って、手のひらに乗せてしばらく見ていました。

「♪お前のあたまはどこにある」

畳の上でミニカーを走らせたりする母親。

いきなり、そのミニカーを襖(ふすま)に向って、力いっぱい叩きつけるのです。

襖の中央に、食い込むように突き抜けるミニカー。

穏やかな母親の顔が、一瞬、阿修羅に変わります。

「♪角出せ、やり出せ、あたま出せ」

突然、電話が鳴ります。母親はいつもの様子に戻って、

「もしもし、竹沢でございます。――ああ咲子(四女)、あんた元気なの?」

・・・いやあ、怖いです(笑)。

こういうシーンを、さらりと入れ込んでくるのが、向田邦子の凄みでしょう。

今回のような「名作ドラマ」の再放送、今後もどんどんやって欲しいものです。

ちなみに、続編となる『阿修羅のごとく パートⅡ』(全4話)は、12月3日(土)の夜、同じくBSプレミアムで再放送されるそうです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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