オートバイのあれこれ『バケモノマシン。』
全国1,000万人のバイク好きたちへ送るこのコーナー。
今日は『バケモノマシン。』をテーマにお話ししようと思います。
皆さんは、『TZ750』というバイクを知っているでしょうか。
TZ750は、かつてアメリカで人気だったデイトナ200マイルレースを制覇するためにヤマハが生み出したモデルです。
一番の特徴は、エンジン。
排気量が700ccの水冷2ストローク並列4気筒エンジンを搭載しています。
V型の4気筒であれば後の時代のGPマシンでもよく見られましたが、並列4気筒の2ストエンジンというのはほとんど例がありません。
これは、当時活躍していたTZ350の並列2気筒エンジンを2機合体させて造り上げたパワーユニットで、排気量もそのまま倍の694ccとなっていました。
気になるピークパワーは、市販状態で90ps(TZ750はいちおう市販レーサーで、レース仕様に作り込んだマシンはもっとパワフルだったかもしれませんが、それにまつわる有力な情報はありませんでした…)。
200psが一般的になった現在からすると、90psは大したことのない数字に見えますが、TZ750を走らせた時のフィーリングはおそらく相当凶暴だったと思われます。
そもそも4ストエンジンと比べてピーキーな特性の2ストエンジンであり、また当時は『YPVS』といった2ストエンジンの「じゃじゃ馬」感を和らげる装置も無く、ライダーは2ストエンジン特有のロケット加速(それも700cc分の)を自分の身一つで受け止めなければなりませんでした。
現在のように電子制御のトラクションコントロールもウイリーコントロールもありませんから、TZ750はかなりスパルタンな乗り味だったはずです。
しかし、当時のロードレースはそうした暴れ馬をいかにライダーが手懐けるかという側面もありましたから、TZ750がどれだけ過激だったとしても、それは“想定の範囲内”だったのでしょう。
1974年、デイトナ200マイルレースでデビュー戦を迎えたTZ750は、ジャコモ・アゴスチーニのライディングによりなんと優勝。
デビュー・トゥ・ウィンを果たし、開発時に掲げた目標をいとも簡単にクリアしてしまいました。
ちなみに2位に入ったのも、ケニー・ロバーツが駆るTZ750でした。
この後もTZ750はレースシーンで活躍を見せますが、TZ750が出場できる『フォーミュラ750』レースが1980年を目前に廃止され、これを機にTZ750は生産終了となったのでした。