全館貸切で2食付き1人あたり12,000円~、お風呂は足元湧出泉!秘湯の趣たっぷり木賊温泉「井筒屋」
一日一組しか泊まれない、お風呂は足元湧出泉。そんな南会津の秘湯を訪ねてきました。
温泉の名前は「木賊(とくさ)温泉」、お宿の名前は「旅館 井筒屋」。2019年の台風19号で被災し、2020年11月までお休みしていましたが、その後宿泊を再開、現在に至ります。
平日に2人で1泊して一人当たり12,000円(税別)+冬の暖房費が1部屋1,000円ほど。なにしろ一日に一組しか受け付けていないので全館貸切状態です。食事のクオリティも高く、本当にこのお値段で良いのかとびっくりしました。
木賊(とくさ)は砥草(とくさ)
阿賀野川水系の舘岩川に沿って国道352号線を進んでいくと、ふいに木賊温泉入口という表示が見えます。ここを曲がり、ポツリポツリと民家があるほかは何も無いような道を進んでいくと、到着するのは小さな温泉地。
木賊温泉はしばしば難読温泉地名として話題になります。もともとは植物の研草(とくさ)がこの辺りにたくさん生えていたからだとか。研草は加工して、文字通り研磨に使われてきた歴史があり、現在も生け花や和風の庭木として広く用いられています。
木賊温泉の歴史は古く、千年以上の歴史があるとされています。今回取材した井筒屋はその木賊温泉の旅館の一軒で、建っているのは車道から川岸へ降りて行ったところ。この道は一般車両は通れないので、車を駐車場に置いて坂を下ります。
スーツケースを転がしながら降りていくと、本当に川のすぐ近く。
2019年の台風19号で被災した時は、川の方に突き出ている湯小屋のあたりは全て流されてしまったと伺いましたが、今は新しい綺麗な浴室ができています。
一日一組限定の井筒屋を楽しむ
館内はいかにも秘湯の宿といった風情ある趣。一日一組限定なので、泊まればロビーも浴室も全て貸切のようなもの。実際に浴室は男湯と女湯がありますが、どちらも好きな時に自由に使って良いと案内をいただきました。
お部屋は2階。磨き抜かれた廊下の美しさにため息が出てしまいます。
コタツのある客室でほっこり
お部屋は二間続きでコタツもありました。寒い季節にこれは嬉しい。もちろんストーブもあるのでお部屋全体も温かく快適です。
廊下との間を隔てるのは障子戸だけで鍵はありませんが、もとより一組だけなので問題もありません。
ウェルカムドリンクはお茶ではなく甘酒。
廊下の窓から見る自然の景観がまた美しいのです。ちょうど散りかけの紅葉が寂寥感をいや増しに。
首都圏から交通の便が良いとはいえない南会津ですが、はるばる訪ねるだけの価値がある、そんな風に思える眺めです。
男湯は足元湧出泉
さて、井筒屋の温泉は自家源泉です。特に男湯は全国でも希少な足元湧出泉。これは期待しかありません。
男湯浴室へは階段を下りて行きます。水害後に作り直したのでこの辺りはとても綺麗です。
湯船はほぼ正方形。天井が高く明るい印象です。お湯はサラリと無色透明で、ほんのりとゆで卵のにおいがします。
足元湧出ということで、どこからお湯が出ているのだろうと探すと、浴槽の底に3つほど孔が見つかります。足を近づけてみると少し熱いお湯が出ているもよう。
もともと岩盤の上に湯脈があり、そのお湯が湧いていた場所の真上に作られたお風呂。湯が湧いているところと繋がる孔を作り、それ以外は底をフラットにして誰もが入りやすいお風呂にしてあります。
だから穴からは自噴する鮮度の良い源泉がそのまま空気に触れずに湯船に満たされます。それを独り占めして入浴できるなんて!まさに一日一組だけの贅沢な湯あみといえるでしょう。
浴室の2面が窓になっていますが、温かい時期は窓の外の囲いを外すので、もっと開放感が楽しめるといいます。そして窓の外はもうそのまま目線の高さに川が!
もう一つ面白いのは浴室を岩の一部が突き抜けていること。この岩は砕こうと努力したものの、あまりにも硬かったのでそのままデザインとして活かすことにしたそう。岩の階段の上に覗いている部分には、今もノミの跡が残されています。
女湯は男湯とは別源泉
女湯は男湯より小ぢんまりとはしていますが、狭い湯舟こそお湯の良さが味わえるという理屈なら、独り占めしてお湯を楽しむのにちょうどよいサイズ感です。
女湯の源泉は男湯の窓のすぐ外にあります。男湯の窓からのぞいてみると源泉の上にあるマンホールのふたが見えるかもしれません。
つまり女湯も湧出地のすぐ近くにあり、鮮度抜群ということ。なお、女湯の源泉の一部は、男湯の上からお湯を入れている湯口や、男湯と女湯のシャワーのお湯にも使われています。湯量たっぷりですね。
自家製の野菜やキノコたっぷりで山の恵みを堪能できる食事
夕食は素朴ながら手の込んだお料理が卓上に並びます。地元産どころか自家農園で穫れた野菜もたくさん。また季節柄きのこが多くヘルシーな印象です。食前酒は珍しいコクワの自家製果実酒。
岩魚の昆布締めやタタキの上の星型の彩りは、この地域の伝統野菜、舘岩蕪(たていわかぶ)という赤かぶを使用。この赤かぶは自家製のお漬物としても供されます。
塩加減もほどよい岩魚の塩焼き。
煮物は根曲がり竹、揚げ物はコシアブラなど山の中ならではのごちそうです。アケビのワイン煮やアケビの皮を揚げたものなどを食べて、アケビってこんなに野趣あふれる苦みがあるんだと驚いたり。
もち米3:蕎麦粉1の割合で練られたそばだんごは、デザートかと思ったら郷土料理枠でした。炊き込みご飯とお吸い物の後に、ちゃんと果物と自家製ゼリーが出てきました。
ご飯と一緒に出てきたお蕎麦も、南会津の特産品です。香りのよいお蕎麦を味わっていただきます。
木賊温泉の共同浴場「岩風呂」が近い
木賊温泉には「岩風呂」という共同浴場があり、こちらも足元湧出泉として知られています。ちょうど井筒屋からすぐの下流側にあり、井筒屋に泊まっていれば無料で利用することができます(通常は一人300円)。
最初に降りてきた坂道を途中まで上がって横道に入ればすくです。浴衣で行けば気分も盛り上がります。
ただしこの岩風呂は混浴なので、女性はお宿で湯あみ着を借りていくと安心です(湯あみ着レンタル300円)。女性専用の脱衣所はあります。
源泉は一本なのですが、中央に竜の頭のような岩があるので浴槽は二つに分かれているようなもの。そして取材時は右の浴槽が白濁していました。このお湯の色は日によって、透明だったり深緑だったりすることもあるのだそう。
奥の浴槽はほぼ透明。そしてよく見ると、岩の間からポコポコとアワが上がってきます。底で実際にお湯が湧いているのです。生まれたての温泉に入れるのはとても感動的です。
ちょうど訪ねた11月後半は、既に雪の季節の準備のために、井筒屋の男湯の窓も、共同浴場「岩風呂」も雪囲いがされていて見晴らしは今一つ。井筒屋の女将さん曰く、温かい季節に来ればお風呂の開放感がそれは素晴らしいと。
そう聞くと、また季節を変えて泊まりにきたくなってしまうではないですか。
木賊温泉 旅館 井筒屋
住所:福島県南会津郡南会津町宮里字湯坂1988
電話:0241-78-2452
宿泊予約について:日本秘湯を守る会のサイトまたは電話のみ受け付けています。
電話予約できる日:電話予約が可能な日は、日本秘湯を守る会で予約できる日以外です(日本秘湯を守る会のプランに出ている日は電話予約できません。先に確認してからお電話ください)
電話予約の受付:予約希望日の3か月前の1日から
※価格は変動することがあります
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