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広島好きとバルサ好き。同一人物であることの矛盾について

杉山茂樹スポーツライター

クラブW杯。前回の南米の王者対バルセロナは4年前にさかのぼる。2011年のクラブW杯決勝でバルサと対戦したのはサントスで、スコアは4−0だった。リバープレートとの決勝戦を前にした時、どうしても思い出される出来事になる。もしリバープレートの力がサントスと同レベルなら、スコアもそれくらい開くと考えられた。

だが、4年前のサントス戦を振り返れば、6−0でもおかしくない一方的な内容。バルサには決定的なチャンスが山ほどあった。ボール支配率は実に71対29。サントスはネイマールを擁していたにもかかわらず。

そのような結果を招いた原因は、ラマーリョ監督率いるサントスが守備的なサッカーで臨んだことと密接な関係がある。布陣は4−3−2−1。バルサが前に出てくるその背後をカウンターで突こうとする作戦だったと思われるが、実際それはまったくの空振りに終わった。

引いて、守りを固めて、カウンター。だが、実際は、引いたけれど、守りは固まらず、カウンターもほとんど仕掛けられなかった。引いてしまったことで、バルサに圧倒的な支配を許したからだ。サントスはボールを奪う位置が低く、同時にバルサのプレスが厳しかったため、マイボールに転じても、なかなか前進することができなかった。

守備的サッカーで臨んだ理由は、勝ちたかったから。正攻法では勝てないと踏んだから。大敗を恐れたからではないと思うが、結果は監督の思惑とは正反対の屈辱的大敗。試合にならない敗戦だった。

ガジャルド監督率いるリバープレートは、バルサに対してどう出るか。引いて守ってしまえば4−0以上の大敗だが、正攻法で臨めばそれ以下。少なくとも試合にはなる。4年前の結果に基づけば、そんな予想が成り立った。

スコアは3−0。支配率は63対37だった。意図的に引いて守らなかったことが奏功した。少なくとも試合になった大きな理由の一つと考えられる。敗れたけれど選手、監督、そして大挙駆けつけたサポーターの表情は、4年前のサントスより、格段に誇らしげに見えた。

それはある意味でバルサ的だった。ルイス・エンリケ監督は試合後の会見でこう力説した。「バルサはクラブとして、よいサッカーの魅力を世界のファンにアピールしている。世界のどの国のファンも大切にしているし、世界各地で応援してもらっていることも知っています」と。

彼は、自分たちのサッカーを「よいサッカー」と言い切った。簡単には言えない台詞を堂々と吐いた。

「バルサは、勝利と娯楽性をクルマの両輪のような関係で追求しているクラブだ」とこちらに語ってくれたのはバルサ監督時代のクライフだが、それはこの日のルイス・エンリケの言葉に置き換えれば「よいサッカー」となる。そのよいサッカーを、この日のリバープレートも実践しようと心がけていた。バルサに対し、正面から向き合い、そして0−3で敗れた。

バルサは、過去10シーズンで4度チャンピオンズリーグを制している。文字通り世界ナンバーワンクラブだ。だが、それ以前、つまり05~06シーズンに2度目の欧州一に輝くまで14シーズン、勝てない時を過ごしている。勝利と娯楽性をクルマの両輪のような関係で目指すあまり、肝心なところで相手にうまくはめられ涙をのんできた。よいサッカーを追求しながら、長い間、結果を残すことができなかった。それでもクラブとして、よいサッカーの追求を断念しなかった。

あえてそうした時代を過ごしてきたからこそ、いまがあるのだ。勝利と娯楽性をクルマの両輪のような関係で追求する、いわば綺麗ごとをこの10年間、見事なまでに実現してきた。ただの王者ではない。王者の理想型を見る気がする。これ以上、格好のよい王者はいない。

そのバルサがいまのサッカー界を支配していることを、再確認した。それが今回のクラブW杯の意義になる。

ところが、日本のサッカー界には、相変わらずそれとは真反対の価値観が、大手をふるって歩いている。「いいサッカーと勝つサッカーは違いますからね」。バルサをさんざん褒めた人でも、別の試合を前にすると平気でそうした台詞を吐く。本音はどちらなのだろうか。いったい彼らは、バルサから何を学び、何に感心しているのだろうか。メッシ、スアレス、ネイマール、イニエスタ……の個人技なのか。

この決勝戦に先駆けて行なわれたサンフレッチェ広島対広州恒大の一戦は、広島が2−1で勝利を飾った。あえて世界3位と言っておこう。快挙といえば快挙である。広島は過去4年で3度Jリーグを制しているので、いま時代を築いているクラブと言っていい。強引に言ってしまえば日本のバルサだ。

しかしサッカーのスタイルは非バルサ的。水と油の関係にあるといっても言い過ぎではない。リバープレート的でもない。近いのは2011年型のサントス。後ろで守るタイプのサッカーだ。自ら勝利と娯楽性をクルマの両輪のように追求するサッカーではない。

舞台の横浜国際は、この場合、広島のホームだったわけだが、スタンドのムードは「頑張れ、広島!」で染まっていたわけではなかった。ホーム色はほぼゼロ。中立地で行なわれた試合のようだった。スタンドを埋めたファンが、広島の勝利に酔いしれたという感じもまったくしなかった。彼らの心をつかむような「よいサッカー」だったかといえば、疑問が残る。

だが、この世界3位を、メディアは喜ばないわけにはいかない。森保監督も称賛しなくてはならない。バルサの優勝をメインに据えながらも、傍らで、広島を思い切り讃えるだろう。本質が180度異なるこの2つの勝利を、結果をもとに「バルサ!」「広島!」と、同時に喜ぼうとしている。

広島県人に限っては矛盾はないが、日本は、バルサというクラブをどう見ているのか。いい加減、白黒決着させるべきだと思う。日本として一致を見なくても、ファン一人ひとりはハッキリさせた方がいい。「いいサッカーと勝つサッカーは違う」なのか「勝利と娯楽性はクルマの両輪のように目指すべき」なのか。そのどちらの理念、哲学にシンパシーを感じるか。与党、野党の関係ではないけれど、対立軸を明確にしないと、議論は盛り上がらない。勝った方が好きでは、サッカーは進歩、発展していかない、と僕は思う。

(初出 Web Sportiva 12月23日「リバープレートを圧倒。理想の王者バルサから何を学べるか」)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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