田沢純一はなぜ指名されなかったのか? 前代未聞のドラフトで見えた新しいルール
残念な結果・・・。この一言で片づけるにはあまりに酷な結果だった。
今季途中から独立リーグのルートインBCリーグ埼玉でプレーした元メジャーリーガーの田沢純一投手。10月26日のプロ野球ドラフト会議で最後まで指名されることはなかった。
タズ(田沢)を取り巻く環境はこの数カ月で目まぐるしく変わった。3月にマイナー契約を結んでいたレッズを戦力外となり、7月に埼玉入り。2008年に社会人野球の新日本石油ENEOS(現ENEOS)から日本のプロ野球を経ず、メジャー挑戦した右腕にとっては12年ぶりの日本球界入りだった。
しかし、タズの渡米をきっかけに、ドラフトを拒否して海外に渡った選手に対して帰国しても一定期間はドラフトにかけないという「田沢ルール」が12球団で申し合わされていたままだった。NPBは9月の実行委員会でルール撤廃を決めたことで急転直下、ドラフト対象選手になった。
全盛時より力は落ちているだろうが、即戦力の中継ぎとして十分に活躍の可能性はあると思っていた。上位で指名されることはなくても、5位くらいでと予想していたが・・・。
なぜ、指名されなかったのか。要因はいくつかあるだろう。一つは年齢がネックになったのは間違いない。すでに34歳。指名されればこれまでの最年長記録を大きく上回るという報道があった。ドラフトは新人を獲得する戦力補強の場。以前のコラムにも書いたが、タズはNPBの規約でドラフトを経なければ契約できない立場にあるだけで「新人」ではない。
今回のドラフト会議では育成も含めると、12球団で123人が指名を受けた。タズが彼らよりも実力が劣るかといえば、そうは思わない。
ただ、NPBの球団から見れば、即戦力の外国人選手を補強する感覚に近い。ドラフト指名をすれば、外国人枠を使わないメリットがある一方で、結果が出ないからといって「新人」を1年で戦力外にするというのは聞いたことがない。その意味でも高校や大学、社会人出身の選手とは違う。結果が覆るわけではないが、改めて同じ土俵に上げるのはちょっと違うような気がする。
それでも、タズに圧倒的な力があれば、やはり結果は違ったものになっていたかもしれない。埼玉での成績は16試合に投げて2勝0敗、防御率3・94。日本のマウンドへの適応に時間がかかったこともあるだろうが、プロのスカウトに強烈な印象を残すには至らなかったのだろう。
事前にリストアップした球団があるとの報道もあったが、チーム事情も影響したかもしれない。各球団はドラフトで将来性のある高校生や即戦力の投手、野手などをチームの将来も見据えて優先順位を決めて獲得していく。タズの場合は「即戦力の中継ぎ右腕」ということになり、同じタイプの若い投手の指名に成功した時点で、タズをリストアップしていた球団も回避することになる。
田沢ルールの撤廃で、今後もタズのような選手がドラフト候補になる可能性がある。海外挑戦が希望球団に入るための「抜け道」になってはいけないので、例えば、メジャーでFA権を取得した選手などある程度の実績で線引きをした上で、ドラフトを経ずに獲得したい球団と入団交渉ができる制度が作られてもいいと思う。帰国後にNPBの球団と契約しても、成績を残さなければ、すぐに戦力外になるという点で選手にもリスクはあるルールだ。
ドラフト会議後、タズと連絡を取った。やり取りの詳細をこの場で明かすことは控えたいが、また私のYouTubeチャンネル『上原浩治の雑談魂』にゲスト出演してもらいたいと思っている。タズが残りの野球人生でどんな決断を下しても、ずっと応援していきたい。
【ドラフト前にタズと3年ぶりに再会した時の動画】
https://www.youtube.com/watch?v=EawAx2R04s4&t=258s
https://www.youtube.com/watch?v=SkHp4vBx5sc&t=2s