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噂のファーム球団、くふうハヤテベンチャーズ静岡。元ソフトバンク戦士、福田秀平が引退表明後初登場

阿佐智ベースボールジャーナリスト
これが最後の一振りになるのか、福田の記者会見は今日行われる。

 今年からNPBファーム、ウエスタンリーグに参入したくふうハヤテベンチャーズ静岡が、昨日31日、イースタンリーグ所属の楽天イーグルスとのファーム交流戦2戦目を行った。前日に引退を表明したソフトバンクやロッテで活躍した福田秀平外野手が4番DHで出場したが、初回2アウトランナー二塁の先制のチャンスに空振り三振に倒れると、次の打席には元DeNAの倉本寿彦と交代し、ベンチに下がった。

 試合は、2回表に1アウト二塁から永田颯太郎のライトへのタイムリーツーベースで先制した楽天がその後さらに1点を追加。その後も3回にも2点を取り、9回にもダメ押しの1点を追加。くふうハヤテに完封勝ちした。

先制のタイムリーツーベースを放った永田(楽天)
先制のタイムリーツーベースを放った永田(楽天)

真夏のデーゲームでのベテランの熱投

 楽天との交流戦は30日からの3連戦。最近は高校野球の真夏のデーゲームに対し、侃々諤々の議論が繰り広げられているが、NPBのファームゲームも真夏でもデーゲーム中心だ。この日、31日の静岡の最高気温は35度を超え、元高校球児だった選手たちにとっても体に堪えたようだった。

試合会場のちゅーるスタジアム清水にはファンを出迎えるべくキッチンカーが並んでいる。
試合会場のちゅーるスタジアム清水にはファンを出迎えるべくキッチンカーが並んでいる。

 そんな炎天下でも、熱心なファンは開門前の10時半にはすでに入場口に列を作っていた。くふうハヤテ球団では最寄りの清水駅からシャトルバスを出しているのだが、彼ら彼女らはそのシャトルバスの始発が出る前から決して交通の便の良くないちゅーるスタジアム清水に足を運んでいる。

 楽天と言えば、寒冷地の仙台に本拠を構えている関係から、静岡を「春の本拠」と位置づけ、例年数試合のオープン戦を組んでいる。今回の交流戦もその関係があってのことで、この日は楽天ファンが多く詰めかけるのかと思ったが、球場ボランティアの話によると、他カードと入りはあまり変わらないとのこと。やはり巨人、阪神、広島といった人気球団がドル箱らしい。もっとも、球場の立地や炎天下という条件を考えると、ファームの試合としては合格点の入りだと言えるだろう。

くふうハヤテの先発・早川はフレッシュオールスターの舞台にも立ったドラフト候補だ。
くふうハヤテの先発・早川はフレッシュオールスターの舞台にも立ったドラフト候補だ。

 その炎天下で先発のマウンドに登ったのは、くふうハヤテが、先日のフレッシュオールスターで好投した早川太貴、楽天の方は、今シーズン通算150勝を挙げたベテラン、岸孝之だった。岸はオールスター前の20日、オリックス戦に先発し5イニング2失点でマウンドを下りた後、登録を抹消されていた。この日は、次回の一軍での先発を念頭に置いた登板となったが、「格下」のファーム球団相手に、8回を91球、3安打4奪三振、無失点と、炎天下という条件を思わせないようなと言っていい内容にまとめた。完封かとも思われたが、次回登板に備えて最終回は後続に託した。

8回無失点と次回の一軍登板に向けて順調な仕上がりを見せた岸(楽天)
8回無失点と次回の一軍登板に向けて順調な仕上がりを見せた岸(楽天)

大物の登場にも大チャンスと果敢に挑む「あすなろう軍団」

 岸のような「大物」が立ちはだかることは、珍しくはない。くふうハヤテは、開幕戦でもオリックスの新エース、宮城大弥と対戦しているし、先日の福岡・筑後遠征では、和田毅東浜巨という豪華リレーの前に完封負けを喫している。

 ペナントレース的には、彼らのような一軍クラスの投手がファームリーグに登場するのは不利なことだが、ファームはあくまで育成の場、試合の勝敗は一軍ほど大きな意味をもたない。選手たちにとっては、ビッグネームとの対戦はむしろ望むところ。凡退に倒れても、経験として大きな糧になるし、彼らを攻略できれば、毎試合のように訪れるNPB各球団のスカウトへのこれ以上ないアピールとなる。

あくまで「選手ファースト」のファーム球団

 今年NPBファームリーグに参入したくふうハヤテとオイシックスは、一軍チームをもたない独立球団という扱いであるが、「独立リーグの球団」とはその運営はかなりの差があるようである。

 昨年まで、独立リーグのある球団に所属していた選手は、くふうハヤテに入団して、その「待遇の良さ」に驚いたという。

「やっぱり全然違いますね。向こうでは、練習の準備などは選手が一から始めますが、こっちは毎日グラウンドに行くと整備がすでにされているといった感じです。試合の際の食事も、NPBの球団のようにケータリングが来ているわけじゃないんですが、冷凍うどんが用意してあって、自分で茹でて食べれるようになってたりしてますから」

 長距離の遠征に独立リーグの倍ほどの試合数。これをこなせるだけの体力があるかどうかをNPBが慎重に審査して、これに「合格」した二球団だけあって、まだまだ試行錯誤の段階ではあろうが、既存の独立リーグ球団と比べ、「選手ファースト」は徹底しているようだ。

 くふうハヤテの主催ゲーム開始時刻は12:30というのが基本だ。少し早いような感もあるが、これは試合後に練習を行うことを想定してのことである。

 独立リーグの場合、試合が終わると、選手たちは球場の外に出て、来場者を見送る。地域密着を掲げる独立リーグの性格上、このようなファンサービスは重要であることは確かだが、選手たちの負担になっていることは否めないだろう。NPBファームリーグにおいては、このファンサービスは行っていないので、独立ファーム球団でもこれを行うことは基本ない。

 独立リーグの場合、このファンの見送りが終われば、使用した球場の清掃と外野フェンスなどに掲げられたスポンサー広告の横断幕などの撤去も選手たちが行う。これらがすべて終了するのに1時間以上かかるのが常で、その後に練習を行うのは、時間的にも体力的にも難しい。一方の、独立ファーム球団は、これらの選手負担は大幅に軽減され、試合後、選手たちは、グラウンドキーパーたちと整備を行うと、間もなくケージが用意され、マシンを使ったバッティング練習が行われる。時間的にも環境的にも、選手たちは、独立リーグ球団より練習に没頭できることだろう。

 現在くふうハヤテはウエスタンリーグ6チーム中最下位に沈んでいる。しかし、この秋にはチャンピオンフラッグより大きな収穫が待っている。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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