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ロシア兵は空腹? 中国に軍用食料を要請か。ウクライナの抵抗で補給線に悩むロシアと、中国の反応

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
ハリコフ郊外の地面に置かれたロシア軍兵士の食糧配給パック。2月24日。(写真:ロイター/アフロ)

モスクワから北京に、武器の要請があったことは、すでに報じられている。

アメリカのCNNによると、その中には、ロシア軍のために、包装済みの腐らない軍事用食料キットを提供してほしいという要請もあったという。「ル・モンド」が伝えた。

報告によると、侵攻・侵略が進むにつれ、ロシア兵が食料品店に押し入り、食料を探しているとのことである。

このことは二つの問いを投げかけるのではないか。

一つは、戦争の準備不足である

プーチン大統領は、この戦争は短期決戦で決着がつくと考えていたという報道があるが、それを裏付けるものになるのかもしれない。

あるいは、別の理由もあるかもしれない。

戦争が始まる前、ロシア領域内の国境近辺に集められた軍は、「軍事演習」の目的だった。

戦争が始まる前から、アメリカの「すべてにおいて、ロシアに関する情報を前に前に開示する」という戦略は、世界中の注目を集めていた。大量の食料キットを準備して搬送すると、戦争準備であることがわかってしまい、奇襲攻撃に近い電撃戦がかけられないという事情があったとも推測できる。

もう一つは、現在ロシア軍は兵站(補給)の問題を抱えていることだ。

ここ数日、ロシア軍の動きが極めて鈍いことが報告されている。兵站(補給)という後方支援の問題は、この1週間くらいずっと識者の間で論点になっていた。

補給とは、弾薬などの軍需品だけではない。食料も含んでいる。こちらのほうがより重要だろう。「腹が減ってはいくさはできぬ」なのだから。

首都キエフ(キーウ)に至る補給線は、主要なものはロシアから伸びる線。東から西である。

ロシア軍は拠点となるスムイという街を攻略しようとしたが、頑強な抵抗にあい、いまだにできていない。攻略戦の話は入ってこないので、もうあきらめたようである。

代わりに迂回しているようだが、首都に伸びる道路では、ウクライナ軍が頻繁に攻撃を繰り返し、補給ができないという事情になっている。とにかくこの線は長い。

それにしても、どんな物を食べているのかと思ったら・・・記事冒頭の写真を見てほしい。飛行機のエコノミークラスの食事を、もっと貧相にしたようなものである。こんな食料でしたくもない戦争で戦えと言われ、しかもそんな食料すら不足しているのだ。

首都を囲む地域での苦戦

特に最近では、ロシア軍は首都の包囲がなかなかできず、ウクライナ軍の抵抗と反撃が際立っている。

首都キエフ(キーウ)に至る線は、ベラルーシから首都への線も話題になる。北東から南下である。こちらのほうが距離が短い。

チェルニヒフという街が焦点となる。しかし、こちらも占拠できていない。地図を見ると、この地帯だけロシア軍の手に落ちていない。ここはコミュニケーション線(通信線)としての役割も大事だという。

この地域が征服できないことで、首都に対する北東からの攻撃そのものを防いでいるのである。

ウクライナ参謀本部は、ここ数日動きの大変少ないロシア軍は、補給線と通信線の改善に全力を尽くしているという情報を、米戦略研究所は伝えている

そして露軍は、首都キエフ(キーウ)へを目指す戦いで、チェルニヒフのために、この北東方面からの攻撃は保留かあきらめて、首都の北西、東、西からの攻撃をかけるのではないかという見立てがある。

軍人も不足。これからどうなるのか

軍人も不足しており、シリアやチェチェンからの援軍が報告されている。

退役軍人の地位と高い給与を約束したにもかかわらず、ロシア軍人がますますウクライナへの渡航を拒否しているとも、ウクライナ参謀本部は主張している。

ただ、いくら食料の不足、軍人の不足に加えて、兵士の士気が低いと言われていても、複数の重要な都市が包囲されている、あるいは包囲の危険が迫っている事実は、軽視できない。

それでも、補給線が確保できなければ、たとえ首都を陥落させても、周りはウクライナ人という「敵」だらけで、孤立する恐れがある。モスクワを占拠したが、結局退却・敗退せざるをえなかったナポレオンのように。

ウクライナ軍が補給戦でのゲリラ的な攻撃を続ければ、ロシア軍を飢えに追い込むことも不可能ではないかもしれない。

ウクライナ人は、指令本部を別の内陸の場所に移して、戦い続けることもできる。

この点が、ロシアから陸続きで遠くない第二の都市ハリコフ、黒海からアクセスできるマリウポリと、首都キーウが地政学上異なるところである。

被害者であるウクライナ人のことを思ったら、こんな発言は良くないのかもしれないが、どんな人間も飢えに苦しんではいけないと思っている筆者は、なんだか兵士が気の毒になった。やはり「戦争反対」を叫ぶしかない・・・。

中国はどう反応するか

北京は、アメリカが「偽ニュース」を流したとして非難している。

フランス国際関係戦略研究所(IRIS)のマーク・ジュリエンヌは、フランス公共放送のインタビューに答えた。

中国は、紛争当初からロシアに財政援助をしている。ロシア経済がスウィフト・システムから排除されて以来、人民元による資金調達のチャンネルを通じてだけでなく、石油やガス、または小麦などの農産物の輸入を増加させることで、援助している。

「すべての国家の主権と国連憲章を尊重する」と主張するが、「侵略」という言葉は一切使わず、プーチンの演説を一字一句取り上げるように「特別軍事作戦」と呼んでいる。

中国は特にAUKUS(オーストラリア、英国、米国)に警戒しているが、制裁の対象になることは、経済に大きな影響を与える可能性があるので、避けたいだろう。

「反米同盟」と「中国経済の維持」のどちらかを選ばなければならないなら、中国は後者を選ぶだろう。コロナ禍の後、経済は減速している。さらに今年は、10月に、中国共産党の第20回大会が開催され、習近平国家主席は、毛沢東の死後(1976年)以来となる、3期目の再選が予想されているからである。

別のニュースでは、中国の王毅外相は、スペインのホセ・マヌエル・アルバレス外相との電話会談で「中国は(ウクライナ)危機の当事国ではない。ましてや制裁の影響など受けたくない」と述べたとも伝えられている

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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