Yahoo!ニュース

ウクライナ疑惑証言のテレビ中継:疑惑追及は新段階に。だが、民主党側に勝算があるかは不透明

前嶋和弘上智大学総合グローバル学部教授
ウクライナのゼレンスキー大統領と記者会見をするトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ米大統領のウクライナ疑惑をめぐって、11月20日から下院情報特別委員会は国務省高官3人の公聴会を開催する。これまでの非公開での調査から、テレビ中継される公開証言への移行で、疑惑追及は新たな段階に移る。だが、民主党側に勝算があるかは不透明だ。

(1)公開証言

 今週、証言を行う3人は、テイラー駐ウクライナ臨時代理大使、ケント国務次官補代理、ヨヴァノヴィッチ元駐ウクライナ大使であり、いずれも共和党政権でも民主党政権でも働いたことがある国務省出身である。民主党側が用意した証人で、外交や国益ということを熟知し、今回のウクライナへの「脅迫」を危惧している当事者である。両党の政権下で外交を担ってきた「中立的な」職員らの証言を積み重ねていくというのが民主党側の戦略であるとみえる。

 今回の公聴会のテレビ中継で一気に世論(少なくとも民主党支持者の世論)を高めて、弾劾訴追に持っていこうというのが、民主党側の狙いである。できる限り年内に訴追をしたいのが民主党下院の意図だろう。年明けとなった場合、選挙年となり、トランプ氏にとっても、民主党側の候補にとっても「選挙妨害」となってしまう。

 つまり、下院での弾劾手続きの決め手となるのが今回の公開証言であり、テレビ中継で弾劾追及の雰囲気を高めたいというのが民主党の狙いである。

(2)証言のポイント

 今回の証言については、トランプ政権の中でも様々な形で疑惑に関与したとみられている、大統領の顧問弁護士・ジュリアーニ氏や首席補佐官代理のマルバニー氏の動きがポイントとなるだろう。そもそも、ヨヴァノヴィッチ氏はジュリアーニ氏に「追い出された」人物である。

 当事者しか知りえないウクライナ疑惑についての発言にも注目が集まる。証言で何が出てくるかで大統領の求心力は下がるかもしれない。

 また、今後の証言日程もポイントになるかもしれない。これまでの非公開の公聴会での出席も期待されていたが欠席となった前大統領補佐官のボルトン氏の今後の公開証言の可能性なども焦点になるかもしれない。

(3)不透明な民主党側の勝算

 証言で何が出てくるかで大統領の求心力は下がるかもしれない。ただ、民主下院に自信や勝算というものがあるのかが何とも言えないところだ。証言者の発言内容については、これまでの非公開での調査の段階で、すでにかなり報じられているため、新しいものがどれだけでるのかは注目が集まる。

 そもそも「罪」が何であるのかがまず、ポイントとなるだろう。弾劾の理由となる「treason, bribery, or other high crimes and misdemeanors(反逆罪、収賄罪、その他の重罪および軽罪)」は範囲が広すぎる。罪状の対象が大きい分、「大統領」に対する世論がポイントとなる。

 ただ、その世論については、現状では弾劾について共和党支持者と民主党支持者で大きく割れている。共和党支持者がウクライナ疑惑の後でむしろ結束し、大統領の献金も増えている。むしろ大統領への求心力は高まる結果になるかもしれない。

 

(4)公開証言以後

 トランプ政権側は証言者に対して「反トランプ」のレッテル貼りを急いでいる。共和党側は、逆にハンター・バイデン氏や、疑惑報道の発端となった情報提供者、の証言も要請している。今回の公聴会の人選の権限がある民主党のシフ情報委員長は共和党側の要求を飲んでいないが、「中立性」のイメージが薄くなると、民主党側の疑惑追及の勢いもそがれるかもしれない。

 もしそうなった場合、これまでの見方と同じように、民主党が多数派の下院の弾劾訴追はありえるが、上院で3分の2を集めるのは難しい。弾劾はあくまでも現段階ではありえないということになるかもしれない。

 ビル・クリントン元大統領の弾劾の時と同じで、罷免の可能性が極めて低い上院での裁判となった段階で一気に白けてしまったようになるかもしれない。

 このシナリオどおりになるのかどうか、公開証言の行方が注目される。

上智大学総合グローバル学部教授

専門はアメリカ現代政治外交。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(北樹出版,2011年)、『キャンセルカルチャー:アメリカ、貶めあう社会』(小学館、2022年)、『アメリカ政治』(共著、有斐閣、2023年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著,東信堂,2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著,東洋経済新報社,2019年)等。

前嶋和弘の最近の記事