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藤原紀香50歳「人生は修行」。語った甘え、恥、そして今

中西正男芸能記者
今の思いを語る藤原紀香さん(全ての撮影・倉増崇史)

 女優として、そして、歌舞伎俳優・片岡愛之助さんの妻として、日々舞台と向き合う藤原紀香さん(50)。久本雅美さんと共演する舞台「毒薬と老嬢」も3月16日に東京・新橋演舞場で初日を迎えます。新型コロナ禍が舞台にも大きな影を落とす中、湧きあがった舞台人としての矜持、葛藤。今の胸の内を吐露しました。

この上ない会話

 コロナ禍で、あらゆる感情と日々向き合っています。お客さまのありがたみは以前からも分かっていましたが、今、演劇という世界を求めて劇場に足を運んでくださるお客さまと空間を共にしていると、日々胸がいっぱいになります。

 2020年8月、最初の緊急事態宣言が明け5カ月ぶりに歌舞伎座で公演が行われました。第一部の「連獅子」で親獅子を夫がつとめさせていただきました。

 客席には規定の上限である50%しか入っていただけない状況下、水を打ったように静かな客席はお客さまや劇場関係者の緊張感を表していました。

 しかし、御幕が上がり、役者が舞台の中央に向かって歩き、向き直り、座ってしばらくしても、拍手が鳴り止みません。

 その音はここが満員御礼かと思うほどに響き渡り、長唄の音も聞こえなくなるほどでした。役者も予想だにしなかったその万雷の拍手を一身に浴び、胸を震わせ、全身から、お客さまへの感謝と舞台に立てる喜びを放っていて…。そして、芝居が始まりました。

 今もこの話をしていると鳥肌が立ってくるのですが、あのような光景は初めて見ました。

 お客さまは大向うなどの声もかけられず、舞台に向けての表現は拍手しかありません。そこに全ての感情を込めてくださったのです。

 周りを見ると、多くの方が涙を浮かべていたり、拭っておられました。お客さまだけでなく、演劇の灯を絶やしてはいけないという一心で、感染症対策を協議、更新しつづけてきた劇場関係者の瞳にも同じように…。

 演じる側、作る側、そして観る側も皆それぞれに不安を抱えた中で、その思いが共鳴した場でした。

 公演が終わり劇場外でお客さまが「公演してくれて本当によかった。コロナ禍で心が疲れていたのだけど、とてもエネルギーがもらえました!」「涙が止まりませんでした、久しぶりに気持ちが解放されました。観に来られてよかった」等々、多くのお声をいただき、お客さまの気持ちをそばで感じることができました。

 出演舞台で演じる側にいても、今のご時世では、舞台がいつ止まるかわからないリスクと隣り合わせです。

 興行が止まることで、俳優だけではなく、舞台を支えるスタッフ、関連会社の方々の全てが止まってしまいますし、なによりもお客さまに明日への活力を感じてもらえる場が失われてしまうことになります。

 エンタテインメントは不必要なものではない…。どんな現場にいても、このことはこの2年弱で特に感じるようになりました。

転機

 舞台に関して言えば、大きなターニングポイントになったのが2009年に上演されたミュージカル「ドロウジー・シャペロン」だったと思います。

 私にとっては初めてのミュージカルで、最初にお話をいただいた時に、劇中で踊りながらY字バランス。踊り飛んでからの180度開脚などなど、アクロバティック満載の主演、ジャネット役だと聞き「そんな大役は私には無理なのでは...」と思いました。

 とてもありがたいお話ですが安易に引き受けご迷惑をかけるわけにはいかない、お断りしないと…思っていたら演出の宮本亜門さんから「今、まさにニューヨークのマリオットマーケス劇場で上演されているこの作品を観にきませんか」とのお誘いを受けました。

 とにかく観てみようと、すぐに飛行機に飛び乗りました。実際に観てみると、とにかく圧倒され、終始夢のようなめくるめく楽しい世界で…。終演後は、気づくとスキップをして劇場を出ていたんです。

 亜門さんが「ね、素晴らしい舞台でしょ?」とおっしゃって、バックステージに連れて行ってくださり、主演のサットン・フォスターさんとお話をさせていただきました。

 「あなたが日本でジャネットをやるのね?お会いできて嬉しいわ!アクロバット歴は何年?」と聞かれ、経験したことのない私は、戸惑いながら「never…」としか答えられませんでした。

 さらに「私はこの役を掴み取るために何回もオーディションを受けたわ、あなたはどうだった?」と自然に聞かれたのですが、私はその時、どれだけ自分が恵まれている環境で仕事をさせてもらっているのか。

 日本で少しブレイクしたからというだけで、大きな演目の主演をつとめさせていただける。しかも初ミュージカルで。自分の足りない部分、甘さ、そこからの自己嫌悪を思い知らされました。

 ホテルに帰ると、次々にいろんな感情が襲ってきて涙が止まらず、一晩中泣き続けました。朝になり、泣き腫らした顔でセントラルパークをひとり散歩しながら、昨日観た素晴らしい舞台を思い出していました。

 「本当に心が躍る素敵な舞台だった。あの舞台がもしできれば、お客さまはきっと喜んでくれるに違いない。私がスキップして劇場を後にしたように。ワクワクした気持ちのお土産をもって帰ってもらえるそんな舞台をつとめてみたい。本番までまだ8カ月もある。時間だけはあるんだ。今の環境に甘えていたら成長はない。恵まれた環境にもっと報いないと」と奮起し、すぐオファーをお受けしました。

 そこからはとにかく稽古、稽古、稽古。芝居、歌、踊り以外にも、アクロバティックな動きに耐えられる身体作りを始めました。

 身体は柔らかい方だったのに、ハムストリングの尋常じゃない硬さに気づき、股割りをするために相撲部屋の扉をたたこうかと考えるくらい全ての選択肢を持って体力的にも自分を変えようとしたんです。既に30代後半だったので、その肉体改造はなかなか困難を極めました。

 そして8カ月後の初日。ミュージカル初舞台を終えた私に、亜門さんがニコッとしながら一言。「ね、人間、やればできるでしょ」。その時の亜門さんの笑顔が忘れられません。

 そう、人には可能性がある。できないと勝手に枠を決めてしまっていたのは自分だったんです。

人としての今後

 デビューして30年経ちますが、前半はそれこそ“これはこうじゃないとダメ”なんていう枠を強く意識していたのかなと思います。

 変な話ですが、コンビニにも入ったらダメ、日常を見せることはダメなどと勝手に決めていたり…。本当に自分で自分の枠を作っていたんだなと。

 そうして作り上げなければならないイメージも人によってそれぞれあるのかもしれませんが、今は「現場ごとにベストを尽くす」。ここに全力を傾けています。

 以前はバラエティー番組に出させていただいていても変に構えていたところもあったと思います。でも、最近は変わりましたね。現場現場で懸命に楽しむ、ベストを尽くしたその結果、作った何かではなく“素(す)”が出ている部分もあると思います。

 素というのは出そうと思って出すものではなく勝手に出るもので、結果、素がこぼれ落ちていることもある。それはそれでいいなと、今はそう感じています。お芝居でも、自分の中にないものはどう演じても大きく表現はできませんから。

 今回の作品「毒薬と老嬢」では、70歳前後のシャッキリ元気なアメリカ人のお役をつとめるのですが、どんなおばあちゃんになりたいか?とよく聞かれます。

 いくつになっても感情豊かな思いきり笑える人間味溢れる人でいたいなと思います。その笑い皺のひとつひとつがチャーミングに映るおばあちゃんは素敵だなぁと。

 その笑顔を見ているだけで“人生いろいろあってもその都度、懸命にまっすぐに生きてきたんだろうな”と思えるようなおばあちゃん。そんなおばあちゃんになれるよう、何事も積み重ねですね。

 いつも応援してくださっている皆さんの目にどう映っているかは分からないですが、今の思いにたどり着いたのはたくさんぶつかって、たくさん乗り越えてきたからなのかなと思います。亥年の女は猪突猛進と言われますがその通りかも(笑)。

 これからもいろんな壁はやってくると思います。人生は修行ですものね。生きてるからこそ、さまざまな試練がやってくる。ひとつひとつ乗り越えてひたむきに進んでいけたらなと思っています。

藤原紀香(ふじわら・のりか)

1971年6月28日生まれ。兵庫県出身。A型。大学在学中、ミス日本グランプリに輝き、卒業後の92年に芸能界デビュー。以降、CM、司会、声優、俳優として活躍。フジテレビ「ナオミ」「スタアの恋」、TBS「昔の男」「あなたの人生お運びします」、NHK「結婚のカタチ」「チャンス」「愛と青春の宝塚」など多くのドラマに主演。舞台でも「ドロウジー・シャペロン」「キャバレー」「マルグリット」「南太平洋」「サザエさん」など多くの注目作に主演。新派作品「華の太夫道中」では初の太夫姿を披露した。今回の舞台「毒薬と老嬢」では久本雅美とタッグを組み、老嬢役に初挑戦。同作は新橋演舞場(3月16日~20日)、大阪松竹座(4月16日~24日)、愛知(3月26日、27日)、久留米(4月2日)、札幌(4月9日、10日)で上演予定。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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