18歳ルーキーは23歳?EUROを席巻するポルトガル代表MFの「年齢詐称疑惑」。その裏側とは?
ドイツ、フランス、ポルトガル、ウェールズとベスト4が出そろい、EURO2016は佳境に入っている。
「新人王」というタイトルがあったら、それにふさわしいプレーを見せているのが、ポルトガル代表MFのレナト・サンチェスだろう。
18歳ながら、攻撃的MFとして歴戦の猛者を相手に互角以上の戦い。視野が広く、一つ一つの判断が適切なだけに、レナトがパスを刻むだけでテンポが生まれる。アンドレス・イニエスタ、ルカ・モドリッチに匹敵するインテリジェンスを持ち、ゴールに直結するパススキルも高い。また、フィジカルインテンシティも高く、屈強な選手を相手にしても動じることなく、年齢に似合わず堂々としている。
「奇跡の18歳」
そんな賞賛が飛ぶようになった。来季はベンフィカからドイツ王者バイエルン・ミュンヘンへ3500万ユーロ(約45億円)で移籍することが決まっている。その将来は揚々たるものがある。
しかし一方、色眼鏡で見てきた者もいる。
「本当に18歳なのか?」
複数の関係者が、これまで「年齢詐称疑惑」を仄めかし、追求してきた。
「レナトは1998年8月18日、リスボン生まれと言われる。しかし、カーボヴェルデ出身のレナトは両親の離婚などによって、5歳の時に出生届が出されている」
スポルティング・リスボンの関係者は、以前から年齢詐称の可能性を示唆。これが事実な場合、レナトは18歳ではなく、23歳、もしくは24歳と言うことになる。しかしスポルティングはベンフィカの永遠のライバルであり、その信憑性は必ずしも高くない。レナトが生まれ育ったベンフィカ側はこの疑惑に「あり得ない」と憤り、「これ以上の中傷に対しては法廷闘争にまで行く」と反論してきた。
そしてポルトガルの国内紙が調査したところによれば、「離婚した状況から5年後に出生届を出すことになった。それが疑惑の元になってている」と結論。10歳の頃のプレービデオも残っており、チームの中でむしろ体のサイズは小さい。フィジカル的には平均よりは上だが、そのプレーが目立つのは技術センスの方だろう。ジダンが得意としたマルセイユルーレットで相手をかわし、周囲を圧倒している。
国内の騒動は収束したか、に見えた。
しかし、今回のEUROで騒動が再燃することになった。
大会中、高名なフランス人監督、ギ・ルー監督までがこの件に苦言を呈した。
「レナトは23歳か、24歳だろう。出生届は後年に出されており、その日付は正しいとは言えない」
18歳としては、あまりに成熟している、ということから疑惑が再発した。ギ・ルーの話はスポルティング関係者の話を元にしているのだろうが、発言は波紋を呼んだ。なにしろ、出生届が後になって提出されたことは明らかで、疑いを晴らすのは簡単ではない。
そしてこの問題が燻るのはもう一つ理由がある。
ポルトガルはかつて、アフリカのアンゴラ、モザンビーク、ギニアビサウ、そしてカーボヴェルデの宗主国だった。有名なところでは、ポルトガル史上最高のストライカーと言われるエウセビオはモザンビーク出身。現在もかつて植民地だった国々からは、多くのサッカー選手がポルトガルにやって来て、プロになる夢を追っている。
そこは玉石混淆の世界。
筆者自身、スペインのクラブを取材していたとき、年齢を詐称してクラブ練習生となって、バレて強制退去されるという選手を観たことがある。その選手はポルトガルでの実績を雄弁に語っていた。契約を勝ち取り、プロになるためなら、彼らはどんな阿漕な手も使うのだ。
無論、レナトのケースは大きく異なる。両親の怠慢のせいで、出生証明が遅れて出されたに過ぎない。疑惑そのものが中傷に過ぎないだろう。
「僕はピッチの上で話をする」
レナト本人はこうした報道に嫌気がさしたように、相手にもしていない。
一つ言えるのは、18歳とはとても思えない――。まるで怪物を見るような畏怖が、この疑惑の元にあるということである。