ヴァージル・アブローの書籍が発売に 「オフホワイト」「ルイ・ヴィトン」のデザイナーがDNAを語る
・デザインプロセスや物語の紡ぎ方を伝授
・山のような仕事を同時進行するコツも
・若者に伝えたい「チートコード」とは?
ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)の書籍「“複雑なタイトルをここに”」が3月7日に発売される。ヴァージルが2017年10月26日にハーバード大学デザイン大学院で行った特別講義「Program Organization, Sequencing Experiences」で語った内容を1冊の本にまとめたものだ。
ヴァージルはウィスコンシン大学マディソン校で土木工学を学んだ後、イリノイ工科大学で建築学の修士号を取得。短い期間ながらも建築事務所に勤めていたこともある。そんな建築とエンジニアのルーツを持つ彼は、カニエ・ウェストのクリエイティブ・コンサルタント時代からマルチタスクでアートや音楽、ファッションなどの活動をこなしてきた。
現在は、2014年にスタートした「オフ-ホワイト ヴァージル アブロー(OFF-WHITE VIRGIL ABLOH)」の他に、昨年から「ルイ・ヴィトン(LUIS VUITTON)」のメンズ・アーティスティック・ディレクターも兼務。ラグジュアリーの世界にストリートカルチャーやダイバーシティの要素を盛り込んだことでも話題を呼んでいる。さらにDJやペインティング、「ナイキ(NIKE)」「イケア(IKEA)」「チャンピオン(CHAMPION)」などとのコラボなど、多彩な活動を精力的に行う、今を時めくクリエイターだ。
ちなみに昨年9月のパリでの「IKEA」とのコラボ商品の発売や、今年1月の原宿での「ルイ・ヴィトン」メンズのポップアップストアの開設などには、ともに1000人以上が行列するなど、並外れた動員力も有している。ラグジュアリーブランドが高額化する中で、手が届きやすい価格のものも提供することで、ファッションに熱狂する経験を持った若者を増やしたいという想いが通じたものとも言える。
本書によると、満員の講堂でヴァージルが語ったのは、“自らのDNA”や、クリエイティブワークに対する情熱だ。学生時代に築いたツールやテクニックをいかにしてファッションやプロダクトデザイン、そして音楽の言語へと変換させたのか。「独自のデザイン言語」を培うための「ショートカット」方法をはじめ、デザインプロセスの舞台裏、エディティングの本質をシェアすること、問題解決、ストーリーの紡ぎ方、さらには、学生時代の自分が知っていたらどんなによかっただろうと思うアドバイス「チートコード」なども披露。彼のメンター(指導者、助言者)についても言及している。
「完璧主義じゃなくてもいいんだって気づいた途端に、山のような仕事を同時進行しながら安らかに眠りにつけるようになった。これは大事なこと。完璧になろうとすると、かえって思考停止になってしまう」といったマインドセットのコツや、「イケア」との協業に関して「ほんとに夢みたいだよ。最初連絡がきたときは、絶対にイベントのDJの依頼だと思ったし」といった微笑ましい話も収められている。
原書は「 “Insert Complicated Title Here”」で、1936年から続くハーバード大学デザイン大学院での特別イベントを記録したシリーズ「ザ・インシデンツ(The Incidents)」の一冊としてしたためられたもの。日本版を出版するのは、“一人総合出版社”と称する、アダチプレス(東京都渋谷区、足立亨・代表)だ。1991年生まれのファッション・ジャーナリストでコーディネーターの倉田佳子と、米国生まれで京都大学やプリンストン大学東洋学部で日本文学を学んだダニエル・ゴンザレスが翻訳。日本版のデザインは佐藤温志が手がけた(A5変型判、96ページ、図版59点、本体1600円+税)。全国の書店やアマゾンをはじめとしたネット書店で販売する。アダチプレスのオンラインショップでも予約承り中だ。
1月下旬にヴァージルのプロジェクトを集約したサイト「virgilabloh.com」のオープンが発表されたばかりだが、より肉声に近い内容を知ることができる。ヴァージル好きはもちろんのこと、クリエイターを目指す人々や、今の時代の空気感を捉えたい人たちにおススメの1冊だ。