ロシアが「アメリカ軍の戦闘機が白リン弾を使用した」とデマを流す
ロシアは9月9日、シリアでアメリカ軍のF-15戦闘機が国際法違反の焼夷兵器である白リン弾を使用したと非難しています。しかしこの非難は三重に間違ったものであり、政治的なプロパガンダ行為そのものだと言えます。
- F-15戦闘機に搭載できる白リン弾は存在しない。
- 白リン弾は発煙弾なら国際法で使用を禁じられていない。
- ロシア自身がシリアで攻撃的な焼夷兵器を使用している。
F-15戦闘機に搭載できる白リン弾は存在しない
アメリカ軍が使用している白リン弾は、榴弾砲や迫撃砲から発射する発煙弾や、位置を知らせる目的のマーカー弾などがあります。しかしF-15戦闘機に搭載できるような航空機搭載用の爆弾型の白リン弾はアメリカ軍の装備に存在していません。無いものは積みようがないので、ロシア側の主張は明らかに間違いです。
可能性としてはF-15戦闘機がフレアと呼ばれるミサイル回避用の囮熱源を放出していた場合、光弾が連続射出される様子から攻撃と誤認したのかもしれません。ただしフレアの成分はマグネシウムなどで、白リンは使用されていません。
なお爆撃そのものは通常爆弾を投下した結果だと思われます。
白リン発煙弾は国際法で使用を禁じられていない
焼夷兵器の市街地での使用を制限する国際条約はジュネーブ条約ではなく特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の「焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書III)」になりますが、禁止されているのは攻撃用に設計された焼夷兵器に限られ、発煙弾やマーカー弾など焼夷効果が付随的なものは禁止されていません。
攻撃用に設計された焼夷兵器であるなら市街地で使用しただけで条約違反となりますが、発煙弾として設計された白リン弾は使用しただけでは条約違反になりません。
ただし発煙弾であっても攻撃目的で使用した場合は条約違反になるので、条約違反だと指摘する場合はその証明が必要になります。白リン発煙弾は条約上、明確に禁止されている存在ではないのです。
そしてアメリカ軍は発煙弾として設計された白リン弾は保有していますが、攻撃用に設計された白リン弾は保有していません。
つまりロシアだけでなくAFPのこの記事の解説も間違っています。民間人を意図的に狙うことは全ての兵器でも禁止行為ですし、焼夷兵器を市街地で使ってはならないとするCCWの議定書Ⅲは、発煙弾として設計された白リン弾を除外しているからです。
ロシア自身がシリアで攻撃的な焼夷兵器を使用
シリアではこれまで何度もロシア軍ないしアサド政権軍による焼夷兵器による攻撃が確認されています。使用された焼夷弾は航空機搭載爆弾型のロシア製クラスター型テルミット焼夷弾「RBK-250 ZAB-2.5」など種類まで複数が特定されており、これらは明らかに攻撃用に設計されたもので、市街地での使用は国際条約に違反しています。
またウクライナの戦闘でもロシア製多連装ロケット「BM-21グラード」用のクラスター焼夷弾型ロケット「9M22S」の使用が確認されており、ウクライナ軍またはロシア軍あるいは双方が使用していることが確実です。
シリアでの焼夷兵器の使用は連続していた時期と暫く止んでいた時期がありますが、使用が完全に止まった様子はまだありません。国際社会はロシアに対し焼夷兵器の使用を非難してきましたが、ロシア及びアサド政権は共に使用自体を否定しています。証拠が山のように積み上がり、使用した様子が撮影され不発弾の残骸も回収されているにも関わらずです。
ロシア自身が焼夷兵器の使用を止めなければ、ロシアが他国の焼夷兵器の使用を非難する資格は無い筈です。しかしロシアは平然と自分たちの使用を否定し相手だけを非難しています。つまりロシア自身、自分たちの強弁に無理があることを自覚した上での行動です。
またロシア軍が「アメリカ軍はF-15戦闘機に積める航空爆弾型の白リン弾を保有していない」という簡単な事実を把握していないということも有り得ないでしょう。
つまりロシアは自分の主張が嘘であることを自覚した上でアメリカに言い掛かりを付けています。政治的なプロパガンダとはそういうものであり、言い分を精査せずにそのまま信じることはとても危うい行為なので、注意が必要になります。
※記事タイトル変更:「ロシアは白リン弾を非難する資格が無い」→「ロシアが「アメリカ軍の戦闘機が白リン弾を使用した」とデマを流す」