あなたの家の上流域は大丈夫? 地質や地下水を無視した土地利用が災害を誘発している
地質や地下水の流れを無視した土地利用は人災ではないか
あなたの住む場所の上流域で危険な土地利用はないだろうか?
もしあれば命の危険につながる。
「令和2年7月豪雨」の発災から、まもなく6か月が経過する。豪雨は、九州、中部、東北地方など広い地域で、河川氾濫、浸水害、土砂災害を引き起こし、多くの人命を奪った。
近年多発する豪雨災害、土砂災害は「豪雨」という点から語られることがほとんどだが、実際には、地形、地質、地下水の流れを無視した土地利用によって土地が崩れ、災害が発生するケースも多い。これは「人災」と言ってよいのではないか。
象徴的な場所である、宮城県丸森町を訪ねた。
令和元年東日本台風(台風19号)は、関東、甲信、東北地方などで記録的な大雨となり、甚大な被害をもたらしたが、丸森町では、10人死亡、1人行方不明と、自治体単位では全国でも最多の犠牲者を出した。
平時より8.56メートルの水位上昇
一部の住民は現在も仮設住宅で暮らしている。また、住民が自主管理する水道施設の一部は復旧に見通しが立っていない。水道配管が土砂災害で寸断されたり、折れ曲がったりしたためだ。
丸森町の住宅の多くは、周辺を標高300〜500メートルの低い山が囲む「盆地」にある。山の谷筋に集まった水がいくつもの阿武隈川の支流、内川、新川、雉子尾川、五福谷川などを形成し、やがて阿武隈川の大きな流れとなる。
台風19号が襲った2019年10月12日から13日の総雨量は、町の北側の山間部で600ミリ、町役場周辺で310〜420ミリを記録。これに上流域に降った雨も加わった。
河川の水位は、丸森町船場で最大23.44メートルを記録(平時から8.56メートル上昇)するなど大きく上昇した。「いなか道の駅やしまや」には浸水の記録がいまも残っていた。入り口のドアに、水の高さにテープが貼られ、「令和1年10月 台風19号によりここまで浸水しました」と書かれている。この店は「8・5水害(昭和61年8月洪水)」で被災した後に、高台に移転したが、台風19号で再び被害に遭った。
阿武隈川の支流では、計18か所(内川10か所、新川4か所、五福谷川4か所)で堤防が決壊した。前述した通り、丸森町は盆地で、支流の合流点が多く水を集めやすい。さらに阿武隈川が大きくカーブし、狭窄部があるなど、水が流れにくい場所もある。そうしたことが河川の増水、氾濫につながった。
だが、それだけではない。
地盤の安定には地質や地下水が関係する
丸森町では多数の斜面崩壊も発生した。斜面崩壊とは、傾斜地で発生する地すべりや崩落のことで、土石流や土砂流失を伴うことも多い。傾斜が急な土地では、斜面崩壊が起こりやすいが、実際には地質や地下水の存在が大きく影響する。
斜面崩壊が起きた場所のうち、廻倉地区に行った。「令和元年台風19号に伴う斜面崩壊・堆積分布図」(国土地理院)で赤く示された箇所で斜面崩壊が起きている。
斜面に大きさ1〜2.5メートル程度のコアストーンがゴロゴロと転がっている。いったい巨石はどこから来たのか。
花こう岩は、地下深くでマグマがゆっくり冷えて固まった深成岩の1つ。日本の花こう岩は、亀裂沿いに風化していき、未風化部と風化部が混在する形になることが多く、その未風化部のことをコアストーン、風化して砂状となったもので岩石組織が残るものをマサ、マサが風化花崗岩から分離して堆積したものをマサ土という。
地表近くに堆積していたマサやマサ土が流れてしまったことで、地面の下にあったコアストーンが出現した。
崩壊のはじまった場所の幅は2メートル程度だが、土砂が斜面を数百メートルに渡って流れるうちに、もともと堆積していたマサ土やコアストーンを巻き込み、大きな土石流となった。11世帯39人が暮らした集落は土砂によって破壊され、3人の命が失われ、1人が行方不明となった。
ここでは2002年に大規模な山火事が発生し、火事後に植林されたスギはまだ樹齢が若く、土地を安定させるには至っていなかった。日本各地で皆伐後に植林された現場を見るが、若木が森林の機能を果たすまでには時間がかかることを忘れてはならない。
皆伐地、幅広の作業道が土砂災害を誘発
そもそも崩れやすい地盤であるが、そこに土地利用の問題が加わる。
崩壊箇所を歩くと、皆伐地、大規模な間伐施業地、幅広の作業道などがある。これらが斜面崩壊のきっかけとなった可能性が高い。脆弱なマサ土が剥き出しになり、水の流れが変わったり、豪雨によって削り取られたりしている。
丸森町の石井央町議会議員によると、皆伐が増えた背景には、福島第一原子力発電所事故による放射能汚染があるという。放射能汚染によって山林所有者が林地を手放し、伐採業者の手に渡ったという。震災後に皆伐が激増し、現在、約70ヘクタールのメガソーラー開発も計画されている。脆弱な地盤を皆伐し、ソーラーパネルを設置するのは危険だ。
放置された採石場から流れる土砂
次に石倉地区に行った。「令和元年台風19号に伴う斜面崩壊・堆積分布図」(国土地理院)で赤く示された箇所で斜面崩壊が起きている。
内川の左岸にあった田んぼは土砂で埋まっていた。山からの猛烈な土砂は増水した内川の水とぶつかり、この地に大きな被害を与えた。
上流には、採石場の跡地があった。花こう岩類は、しばしば石材に利用される。ここには「花こう岩(マサ土)」を大量に採石する計画の表示が残っていた。3年前、この業者が倒産した後は放置されている。豪雨で裸地が削られ、マサ土が流れ出していた(標題写真)。周辺には谷川が流れ、現在も土砂を下流に送っている。
台風19号の際は、ここから大量の土砂が流れ出たと考えられる。内川左岸に堆積された砂の一部はここから流れたのではないか。途中に砂防ダムはあったが、すでに土砂で埋まり、機能していなかった。
台風19号の際にすでに機能していなかったかどうかは定かではないが、土砂が砂防ダムを乗り越えて下流域に押し寄せた可能性は高い。
現在、丸森町では砂防ダムの工事が進むが、上流部の土地利用を改善しなければ、砂防ダムの機能は限定的なものになるだろう。
列島の「崩れ」に歯止めをかけるには
丸森町で起きていることは、日本全国の縮図である。脆弱な地盤の崩壊は、令和2年7月豪雨、平成30年7月豪雨、平成29年九州北部豪雨でも発生している。
九州で猛烈な雨が降っていた今年7月6日、国は従来の治水政策を見直す方針を打ち出した。従来の堤防やダムによる河川整備だけでは洪水は防げないとして、貯水池の整備や避難体制の強化など、流域の自治体や住民と連携して取り組む「流域治水」へと舵を切った。
流域治水を考えるうえで、上流域の土地利用は重要だ。
しかしながら、流域治水に取り組む自治体の文書、首長や議員の声明では、ダムや堤防など河川政策については言及されているが、上流部の地質、土地利用、林業政策などはまったく触れられていない。
これは明らかにおかしい。
ダムや堤防の整備を検討する前に、流域の上流部の地質や水の流れを点検し、土地利用の改善を行うことが、列島の崩れに歯止めをかけ、命を守ることにつながる。
そのことを強く認識すべきである。
参考Yahoo!ニュース記事
「「防災の日」に考える堤防とダムの限界。あふれさせる治水と土地利用の変更が急務」(橋本淳司)