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衆議院“増税延期”解散がもたらすローカル線の危機

杉山淳一鉄道ライター

増税は嫌ですね。私も増税は嫌です。まあ一般的に増税を喜ぶ人はいません。しかし、いったん決めた増税は予定通り実行しなくちゃいけません。なぜなら増税を延期するという意思表示は国家の信用に関わるからです。

消費税の内訳は国税と地方税ですから、地方自治体の信用にも関わります。地方自治体の信用力が低下すると、地方自治体が支援するローカル線に影響が出ます。もちろんローカル線だけではありませんけどね。いろんなところで私たちの生活に影響が出ます。税の負担が増えないけれど、それ以上に困った事態になるかもしれません。

なぜ増税を延期すると国家や自治体の信用に関わるのでしょうか。国債や地方債の価値が下がるからです。税金と国債、地方債の関係をきちんと理解しないと話が進みません。

国債は国の借金です。地方債は地方の借金です。私たちがお金を借りるときは担保が必要ですよね。家だったり生命保険金だったり。国や地方がお金を借りるときも担保が必要です。では、国や地方の借金の担保は何でしょうか。国有地ですか? 自治体の所有地ですか? 違います。タダ同然の国有林だの役所の土地程度では、政策を実行するだけのお金は借りられません。

国や自治体の借金の担保は“徴税権”です。国や自治体が、国民や市民からきちんと税金を徴収します。いま国民や市民は何人くらいいて、どのくらい稼いでいて、その結果、このくらいの税収を見込める。その税収で返済できるからお金を貸してください、となります。だから少子化問題も国の信用力、与信の問題とも言えます。

徴税実行力が国の与信。これを理解できない人が多すぎます。

国債の価値は下がらないよ、だって日本銀行が買ってくれるもの。という意見もあります。しかし、日本銀行だって国の徴税実行力を信頼して国債を買っているわけです。信頼できない国債を引き受けて市中に流すわけにはいきません。日本銀行が破綻したら大問題ですよ。私なんかの鉄オタには想像も付かないことになるでしょう。

つまり「予定していた増税を延期するよ」という話は、国の徴税実行力を問われる事態なんです。オマエ税金取る気あんの? 借金返す気あんの? という話です。ここは世論に流されちゃいけないんです。決めた約束は守らなきゃダメでしょう。常識でしょうそれは。

私がお金を借りるとします。「来月から仕事を増やして返すからさ」という感じで。貸す側は「そうか、仕事増やすのか。じゃあ貸しても大丈夫だな」と思うわけでしょう。ところが「やっぱり仕事増やすのキツいわ。仕事増やせない」となったら、「もうオマエに金なんか貸せない。っていうか信用できないから、今まで貸した分も早く返せ」となるじゃありませんか。

消費税は地方税も含まれますから、地方自治体の徴税実行力も問われるわけですよ。地方自治体の財政は国も支援してくれますけど、その国の徴税実行力も怪しくなります。自治体を支援する場合じゃない。そうなると地方自治体の財政は厳しくなります。

そして地方自治体にとってお荷物となる部分の予算は削られます。はい、ローカル鉄道は支援できません。バスにしましょう。バスも支援できません。地域でクルマを持っている人が助けてあげてね。となるでしょうね。

風が吹けば桶屋が儲かる……ではなくて、風が吹かねば桶屋が潰れるという話なんですね。

もう一度言いますけど、私だって増税は嫌です。だけど、決めちゃった増税の先送りはダメです。増税延期派のみなさん、増税が嫌なら、なぜ消費税法が改正される前にしっかり反対しなかったんですか? その議論は今やるべきじゃないんですよ。もっと前に、法案成立前にやっておくべきでした。

消費税を増税しないままの8%と、増税を先送りした8%では、意味合いが全然違います。じゃあ誰が増税を決めたんですか。あれ、当時の与党と現在の与党が一緒に成立させた法案じゃないですか。その人たちがみんな増税先送りの方向で動いてるんですか。この人たちは、国の信用について考えていないんでしょうか。

そりゃあね。増税を延期すれば納税者つまり有権者は喜びますよ。票を集めやすくなりますよ。でも、増税を延期するリスクについて考えが浅いです。国民の考えの及ばぬところで、しっかりと国家を運営する。それが政治家の仕事じゃありませんか。まさか、有権者に良い顔をして、当選したら手のひらを返す、またそんなことをしようと思ってますか。私たちは何年か前に、そんな政権に懲りたはずなんですが。

繰り返しますけど、私も増税は嫌です。でも国が法律を成立させたんですよ。法律は国民との約束です。諸外国も、その国の法律を前提として外交をします。だから約束は守らなきゃいけない。その上で、「増税されたらマジで困る」人のための政策を考える。それが政治でしょう? そのために時間を使ってくださいよ。解散総選挙なんておカネと時間のムダ使いです。

鉄道ライター

東京都生まれ。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社でパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当したのち、1996年にフリーライターとなる。IT、PCゲーム、Eスポーツ、フリーウェア、ゲームアプリなどの分野を渡り歩き、現在は鉄道分野を主に執筆。鉄道趣味歴半世紀超。2021年4月、日本の旅客鉄道路線完乗を達成。基本的に、列車に乗ってぼーっとしているオッサンでございます。

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