海外信者らの救いはどうするのか 法テラス支援に大きな課題も 第6次集団交渉の通知書を旧統一教会に発送
全国統一教会被害対策弁護団による記者会見が12月14日に司法記者クラブで行われました。
阿部克臣弁護士は「第6次の集団交渉の通知書を旧統一教会に発送しました。通知人の被害者は16名で、請求金額は4億5155万円余りとなっており、内容は損害賠償請求、献金記録などの開示請求、面談の要求です。これまで5次までの集団交渉を行っており、請求金額の合計は44億円を超えることになります」として、今後も第7次の集団交渉も予定はしていると話します。
阿部弁護士は悪質な被害ケースに「統一教会の担当者から、『夫のお金を妻が下ろすことは罪とならない』といわれて、妻が夫の預金を勝手に献金してしまったというケースが2件ほどある」ことをあげます。この事例はたびたび報告されており、全国規模で勝手にお金を引き出す悪質な行為が横行していた恐れもあります。文化庁は旧統一教会が、財産利得目的で活動していたとして解散命令請求を出しましたが、その実態が表れているといえます。
教団本部との集団交渉は進まず
第6次の通知書のなかで「被通知人(旧統一教会)のホームページには『教会改革推進情報特設ページ』が設置され、『献金を返してほしいとの要請を受けることもありますが、こうした要請には個別に適切に対応を重ねております』と紹介されています。そこで、被通知人は自ら公言したとおり、通知人ら全ての被害者に対し、誠意を尽くして適切にご対応ください。そして、一刻も早く、すべての被害を回復してください」としています。
紀藤正樹弁護士は「4次については7月6日付で通知をしていますので、それ以降に回答がないこと自体が問題」として「『個別に適切に対応を重ねております』という統一教会の言葉自体が欺瞞的で、実際の現場では誠意を尽くして適切に対応しておらず問題」といいます。
中森麻由子弁護士は「(2009年に)コンプライアンス宣言をしたといっています。しかし(被害の)聞き取りを進めますと、それ以降にコンプライアンスの内容に反するような献金が強要されている事例が多くあります。9月までに第5次の集団交渉の申し入れをしているのに(教団側が)対応しないこと自体、コンプライアンス宣言に反している」と話します。
財産保全の法整備の見送りは、甚だ遺憾
副団長の塚田裕二弁護士は、自由民主党、公明党、国民民主党から提出されていた統一教会の被害者救済に関する特定不法行為等被害者特例法が参議院で可決、成立したことをうけての同弁護団の声明を読み上げます。
「本特例法は、法テラスによる被害者支援を拡大するとともに、統一教会による財産処分を被害者が把握しやすくするものです。その意味では、被害者救済の一助となり得るものだとはいえます。他方、本特例案は財産保全について整備されなかったため、統一教会による財産隠しへの抜本的な対応策となり得るものではありません。当弁護団は、実効的な被害者救済のためには、現行の民事保全法により個々の被害者が対応するのは困難であり、財産保全の特別措置法が必要不可欠であると繰り返し強く訴えてきました。立憲民主党、日本維新の会から提出されていた財産保全の特別措置法案はこれに沿うものでしたが、弁護士や憲法学者の参考人招致も行われないまま、わずかな審議日程で衆議院において否決され、財産保全の法整備は見送りとなりました」として、甚だ(はなはだ)遺憾と厳しい言葉が語られています。
今般成立した被害者救済に関する特例法について (全国統一教会被害対策弁護団HP)
集団交渉に在韓女性も参加 見えてくる課題とは
今回の通知人に、在韓の40代女性も参加しています。
「金銭的被害に加えて、南米宣教に行くように(教団から)指示され、韓国人男性と結婚させられて、現在に至るまで韓国で経済的に困窮した生活を送ることを余儀なくされ、多大な精神的損害を被っているとして、2000万円の慰謝料を請求しています。初めて在韓の被害者の方が請求に加わりました」(阿部弁護士)
久保内浩嗣弁護士は、集団交渉に参加した在韓の40代女性のケースを詳しく話します。
「大学に入ったにもかかわらず、南米宣教(ブラジルなど)に行くようにといわれて中退させられた。そのことで自分の人生を変えられてしまった。この方は合同結婚式で韓国人男性と結婚させられていますが、相手の男性は信仰を持っていません。現在、お子さんがいるので離婚もできず、帰国への決断を踏み出せずにいます。しかし今回、勇気を持って『統一教会への請求をしたい』という依頼がありました。今後、こうした相談が増えるかもしれません。この方は日本国籍を持ったままですが、韓国の国籍を取得してしまった元日本人の女性もいるということで、そうした方からの相談もあれば、弁護団としては、できることをしていきたい」
特例法の不十分な点を指摘
阿部弁護士は、先日、成立した法テラスの支援強化がなされた特例法ついて「第3条1項1号で特定被害者という定義をしているのですが、『国民又は我が国に住所を有し、適法に在留する者をいう』となっています。国民は、日本国籍を有する者になります。『有しない場合は、我が国に住所を有し、適法に在留する者』ということで、住所を有していることと、在留資格を有していることとなっています。今回のような韓国にいても日本国籍を持っているという方は、法テラスの支援の特例を受けられますが、国籍を取得して韓国に住んでいる方は、法テラスの特例の要件から外れるのではないかという問題があり、そういう意味でも特例法には不十分な点がある」と指摘します。
元信者らボランティアスタッフが自費で渡韓して相談にのる大変な現実
紀藤弁護士はさらなる課題をあげます。
「相談が韓国からあった場合、(集団交渉の)意思確認や帰国の確認や統一教会との関係を今後、どうするかの確認作業は、基本的に弁護士にはできないので、元信者のボランティアスタッフなどに韓国に行ってもらっています。それは自費なんです。つまり、渡韓費用も考えると、相談を現実に受けて(本人の)心理的なカウンセリングもしながら、具体的な被害救済につなげるのはかなり大変な作業です。帰国に関する支援や韓国内でのカウンセリング支援みたいなものは、今後とても重要になってくる」と話します。
さらに、海外の相談態勢が一筋縄ではいかない事情もあるようです。
「実際には、大使館には外務省所管での相談窓口が設置されていて、行けば相談ができるようにはなっています。一部は実施されていますが、在韓大使館に相談すると統一教会に知られるのでないかという恐れがあり、(脱会したい信者らに)外務省の窓口を信用されていない状況があります。今後、ボランティア支援が重要になりますが、それが外務省から得られていないので大変です」(紀藤弁護士)
なぜ外務省の相談窓口は信用されないのか
「大使館の人数は少ないわけです。一人に(脱会などを)話すと他の人にも知られて、そこに統一教会のシンパが一人でもいたらバレてしまうので、それが怖くてできないのです。韓国だけじゃなくて、アフリカなどの他の国でもそうなんです。以前、アルバニアで政権が崩壊した時には、定住在留外国人のほとんどが統一教会員だったということもありました。そういう地域で大使館に相談することは、ほとんど不可能です。在留法人のほとんどが統一教会員という地域だと、大使館にも相談できない。信者が通訳やってますからね。かなり外務省がセキュリティを高めていただかないと難しいところがあります。結局のところ、我々(弁護団)がお手伝いしないといけないわけなんです。民間活用が重要なのですが、その支援態勢が充分にできていません」(紀藤弁護士)
久保内弁護士も、海外での相談が難しい現状を話します。
「外務省としては『相談にさえ来てくれればできることはある』とおっしゃる方もいますが、相談にたどり着くまでが難しい。我々としても情報発信をしているけれど、韓国にまで届ききらない。先ほど信者へのカウンセリングが大事との話がありましたが、韓国でカウンセリングができるところを探すと、そこが統一教会の関連団体だったみたいなことがあります。ですので、今回のようにダイレクトで弁護団なりに相談に来ていただくことが必要です」
海外の信者を見捨ててはならない
筆者は1992年の合同結婚式に参加して、1996年に脱会していますが、信者時代に本当に多くの女性信者たちが、教祖の決めた相手である韓国人男性のもとに嫁いでいきました。当時「相手の韓国人男性に信仰がまったくない」と嘆く女性信者をたくさんみてきました。
しかし旧統一教会では、教義上、教祖(神)が決めた相対者(結婚相手)を拒否すれば、地獄の地獄に行く(サタンより下になる)と教えられていますので、断れません。
今も現地で苦労しながら生活して、教団の信仰からは離れながらも、帰国できずに苦しむ人たちはどれだけ多いことでしょうか。こうした海外信者の多くは、正体隠しの勧誘を受けて信者となった被害者たちです。絶対に見捨ててはならず、必ず救わなければなりません。
今、旧統一教会の被害救済の問題は、次のステップである、国内から国外へと移ろうとしています。