死亡率や出生率の移り変わりの実情をさぐる(2023年公開版)
スペイン風邪の恐ろしさが改めて分かる死亡数・死亡率
経済のよさや公衆衛生、医療技術の進歩を推し量る物差しの一つとなるのが、子供の出生率や社会全体の死亡率。日本での100年以上にわたる実情を、厚生労働省が定期的に調査・結果の発表を行っている人口動態統計の公開値を基に確認する。
「出生数」「死亡数」はそれぞれその年に生まれた・亡くなった人の数を表す。死因・年齢は特定しない。また比率は「%」表記がなければ、基本的に人口1000人比となる。
最初のグラフは死亡数・死亡率の推移。これを1899年以降継続して直近分となる2022年分(2023年9月発表)まで、そして戦後に限って再構築したもの、計2つを作成した。
1918年からしばらくの間流行したスペイン風邪が、体力の点で劣る新生児・乳児の命を多数奪った。さらにそれだけでなく、乳児より年上の幼児・子供、そして大人にも大きな刃(やいば)を振るっている。グラフ上でもこの時期に大きく値が増えたことが確認できる。
また新生児・乳児ほどではないものの、全体としても死亡率・死亡数は20世紀初頭まで高止まり。そしてその後は確実にリスク軽減を果たし、1960~1970年代の高度成長期を経て、一定水準の低さにまで到達。乳児・新生児と異なるのはここからで、1980年代以降はむしろ率・数ともにゆるやかな上昇傾向にある。
これは技術が退化した、あるいは環境が悪化したのではなく、全人口に占める高齢者比率が増加しているのが原因。高齢者の方が亡くなるリスクは大きいため、高齢層の比率が高まれば、当然全体の死亡率も上昇していく。
なお直近年となる2022年においては、死亡者数は156万9050人、対人口1000人比の死亡率は12.9となる。
減っていく出生率
一方、出生数・出生率はある程度の上下変動を経ながら、全般的には減少傾向にある。
戦前は概して高い出生率を見せていたが、新生児・乳児の死亡率も高く、また上記にあるように大人の死亡率も高かった。戦後に入ると出生数・率は急激な減少カーブを示すが、いわゆる「ベビーブーム期」にはやや上昇、そしてその過程で「ひのえうま」(丙午に生まれた女性は男性以上に強い性質を持つとの迷信から、子供が忌み嫌われるのを恐れ、親が出産をためらう動きがあった)によるイレギュラー的な減少も確認できる。
出生率の低下については諸般事情、説があるが、一般的にはいわゆる「先進国病」が大きな要因とされている。倫理観の成熟と社会制度の整備により、子供一人あたりの養育コストが積み増しされることで、世帯が養え得る子供の数が減り、それに伴い出産数も抑えられるとするものである。さらに結婚や世帯構成に対する価値観の変化も、小さからぬ原因とされている。そして死亡率、特に新生児・乳児の死亡率の低下もまた、出生率の低下の一因には違いない。
なお直近年となる2022年においては、出生数は77万759人、対人口1000人比の出生率は6.3となる。
死亡率の緩慢な増加は、年齢階層別構成比の変化を考慮すれば、社会現象として認めざるをえない。一方、平均寿命が延びていることからも分かる通り、死亡リスクそのものは確実に減少を続けている。
今件データは日本の人口推移の大まかな把握に役立つに違いない。日本の近世の動向を知る上でも、確認をお勧めする。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
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