いじめ件数 増えても減っても「対策の効果あり」
■再調査で3万件増
文部科学省が27日、2014年度における小中高(国公私立)のいじめについて、その調査結果を発表した。
もともとは、6月の時点ですでに集計は済んでいた。だが、7月に岩手県矢巾町立の中学校で男子生徒がいじめを苦に自殺したとみられる事案が起きたため、文部科学省が全国の教育委員会に再調査を指示していた。いじめの認知件数は、小中高で約18万8千件に達し、これは6月の時点よりも3万件多く、昨年度よりも約2千件上回ることとなった。
文部科学省は、毎年全国の合計数にくわえて、都道府県別の認知件数も発表するため、今回も全国各地でマスコミが、当地の件数について報道をおこなった。それらの記事に目を通してみると、不思議なことに気づかされる。各地で件数の増減をめぐって、まるで相反する評価が下されているのだ。
■対策強化で件数が増える?
まずもって、全国の変動として再調査により3万件増えたことについて、馳文部科学大臣は「積極的にいじめが認知された結果だと肯定的に評価したい」、また文部科学省児童生徒課の坪田知広課長は、「いじめに対する意識が高まった結果だと評価している」(NHK NEWS WEB)と述べている。
同じようにたとえば、埼玉県教育委員会は県内の認知件数が増加したことについて、「ここ数年、いじめを積極的に認知しようとする傾向があるため」(TOKYO Web)、千葉県の担当者は、「認知件数の増加を恐れずに各学校がアンケートを増やし、生徒らが相談しやすい環境作りに取り組んだ結果、悪口などのいじめ認知が増えた」(産経ニュース)と前向きに答えている。
■いじめの件数=認知件数
再調査によって全国で約3万件の増加があったように、いじめの件数は、目を光らせれば、次々と事例が拾い上げられていく。だからこそ文部科学省はそれを、「発生件数」(=本当に起きている数)ではなく、「認知件数」(=そのように認識された数)と呼んでいるわけだ。
子どもへのアンケートの回数を増やしたり、子どもとの個別面談の機会を設けたりすることで、いじめ防止の対策を強化し、事例の発見に努めようとする。だからこそ、実際に事例が学校の目にとまり、件数として数え上げられていくのである。
■対策強化で件数が減る?
他方で、認知件数が減った地域の報道では、いじめ防止の対策強化が、まるで逆の意味で解釈されている場合が多くある。
たとえば、認知件数が2年間でほぼ半減したという石川県教育委員会は、この減少傾向を「各校にいじめ問題対策チームを常設し、未然防止や早期対応をしたため」(朝日新聞DIGITAL)と説明し、肯定的に評価している。また、2年連続で認知件数が減少したという福井県の教育委員会は「対策が奏功している。今後も日記や生活ノート、アンケートでいじめの兆候をつかみ、早期解決に努めたい」(YOMIURI ONLINE)と回答し、昨年度より25%減の三重県教育委員会は、「すべての公立学校でいじめの対策方針を定め、各学期ごとに生徒にアンケートを取るなど対策を強化したことが、認知件数の減少につながった」(中日新聞 CHUNICHI Web)と回答している。
■数字よりも大事なもの
件数が増加した地域は、「対策強化により事例の掘り起こしが進んだから、件数が増加した」と説明するのに対し、件数が減少した地域は、「対策強化によりいじめが抑制されるようになったから、件数が減少した」と説明する。これでは、「対策強化」の効果は、件数の増加にも減少にも都合よく利用できてしまう。
たしかに実生活において、対策強化は件数増減のどちらをも引き起こしうる。目を光らせれば、ささいなトラブルを含めて、いじめの事例が次々と拾い上げられていく。他方で、目を光らせるからこそ、いじめが起こりにくくなることもある。
怖いのは、後者の見解を優先させると、認知件数が減ったときに「それでよし」と油断してしまうことだ。認知件数の減少は、いじめを拾い上げるべき大人の側が鈍感であるがゆえに起こることがある。さらにそれどころか、「減少傾向は、対策が進んだおかげだ」と大きな勘違いに陥ってしまう。
数字の誤った解釈により、いじめ対策が後退してしまってはならない。数字以上に、目の前にいる子どもの現実を直視することが大切だ。