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言葉の独り歩き

伊藤伸構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

みなさんは、「改革」という言葉にどんな印象を持っているだろうか。

辞書を引けば「従来の制度などを改めてより良いものにすること」とある。周りの人に聞いても、大体「変える」「前向き」という「良い」イメージに落ち着く。

しかし実際には、いつの間にか本質ではない、十分ではないことも「改革」という美名の下に正当化されてしまっていることも多い。

例えば行政改革。従来は行政の中の組織や人の効率化(1)を意図してきた。行革と言うと、今でも公務員の「生活回り」(給与や宿舎、天下りなど)ばかりがクローズアップされているのもここに起因している。しかし今や、それは本質ではない。企業ではまず事業量を減らした(例えば不採算部門の廃止)上で人件費をカットするように、行政も事業への切り込みがまず必要である。このような、国や地方が行っている仕事、事業を見直し、役割の再定義(2)ができてこそ、行政改革は達成される。

しかし、(2)を行えば、国民/市民にとってはサービス水準の低下、負担の増大もあり得る。これを言うのは政治的にはプラスにならないため、政治は総論では行政改革は必要だと言うものの、各論/実行となると避けてきた。だから専ら(1)にばかり目を向けるようになる。つまり、「行革総論賛成-各論反対=公務員バッシング」という構図になってしまう。メディアも同様だ。

「言葉の独り歩き」は行政の仕事の中にも潜んでいる。

「青少年育成事業」と聞けば誰もが良い事業だと思うかもしれないが、実際には子供を公園でポニーに乗せているだけだった自治体。

「○○地域開拓推進事業」と言うととても壮大な計画に聞こるが、実際には団体の人件費の補助だけだった自治体。

国では以前、「SATOYAMAイニシアティブ推進事業」というローマ字、カタカナ、漢字が混在した、一見わかるようでわからない事業があった。この事業は重要な里山を300か所選定したり、諸外国の事例を研究しながら自然資源管理モデルを策定・発信したりするもので、里山保全という目的の達成手段にはなっていないものだった。

このように、最近は行政事業の名前に横文字が入るなど、聞こえの良い言葉が並ぶことが多い。このような言葉は頭に入りやすいが、中身が伴っていないものあり、実はその言葉によって思考停止に陥っていることも多い。

我々は「言葉の内側」を知る努力をしなければならない。その材料はすでにたくさんある。

政府は、すべての事業を統一のフォーマットにした「行政事業レビューシート」を公開している。しかし、読みにくくほとんどの人は知らないだろう。構想日本では、それらを国民が読みやすく、参加しやすくなるようなウェブサービスを現役高校生らとともに開発、7月31日(水)のフォーラムで実演する(詳細はhttp://www.kosonippon.org/forum/index.php)。これらは「思考停止」を防ぐ重要なツールになるかもしれない。

公務員は「言葉」の使いこなしが、良くも悪くも巧みだというのが霞が関で働いてみての実感だ。これは行政に限ったことではなく、社会生活全般に言えることだとも思う。だからこそ私たちは、言葉を鵜呑みにして勝手に自分のイメージを作ることから脱却し、表層的な言葉と実際に行われている内容をよく吟味しなければならない。その意味では、聞こえの良い言葉ほど疑ってかかった方がいいのかもしれない。

メディアなど発信する側も、「わかったつもりになって」きれいな言葉に閉じこもるのをやめ、本質を理解するよう努力した上で伝えるべきだ。

そして、我々シンクタンクも、本質をいかにわかりやすく国民に伝えるか、その点にもっと注力すべきだと認識している。

構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

1978年北海道生まれ。同志社大学法学部卒。国会議員秘書を経て、05年4月より構想日本政策スタッフ。08年7月より政策担当ディレクター。09年10月、内閣府行政刷新会議事務局参事官(任期付の常勤国家公務員)。行政刷新会議事務局のとりまとめや行政改革全般、事業仕分けのコーディネーター等を担当。13年2月、内閣府を退職し構想日本に帰任(総括ディレクター)。2020年10月から内閣府政策参与。2021年9月までは河野太郎大臣のサポート役として、ワクチン接種、規制改革、行政改革を担当。2022年10月からデジタル庁参与となり、再び河野太郎大臣のサポート役に就任。法政大学大学院非常勤講師兼務。

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