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「医療用」抗原検査キットを購入しやすくするための提案-悪貨が良貨を駆逐しないために-

伊藤伸構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与
(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルスの「第7波」は、過去最多の新規感染者数をたびたび更新している。

新規感染者数の増加によって医療機関のひっ迫も伝えられている。これまでの入院病床数の圧迫だけでなく、新規感染者や感染の疑いのある人の受診の急激な増加もひっ迫の大きな要因となっている。

東京都は現在、医療機関での混雑を緩和するため、特に重症化の可能性が低いとされる20歳代については、自宅での抗原検査キットの使用を勧めている。濃厚接触になった人や、感染の不安のある人に対して、医療機関に行く前にまず抗原検査キットを使うよう促し、陽性判定が出た後に医療機関に相談したり、医療機関を受診することなく「東京都陽性者登録センター」にオンラインで申請することなどを案内している(8月9日午前9時より30歳代に拡大)。申し込めば抗原検査キットを無償で配布もしてくれる。

抗原検査キットは、簡単に検査できて短時間で判定が出るため、国民からしても、既に身近なものというイメージがあるだろう。しかし、報道でも取り上げられているように、抗原検査キットはなかなか手に入りにくい。

抗原検査キットの種類に要注意

抗原検査キットには大きく2種類ある。

一つは、薬機法で承認されている「体外診断用医薬品」(医療用)。いわゆる「正規品」だ。この医療用の抗原検査キットは特に品薄状態が続いている。私の自宅の最寄りの調剤薬局5店舗に電話したが、いずれも売切れだった。

もう一つは、「研究用」。ドラッグストアの棚にあるとすればこれだ。名称だけ聞くとちゃんとしたものと思う人もいるかもしれないが、こちらは国が承認したものではなく、性能等が確認されたものではない。質の面で不安が残る。昨年、「研究用」をあたかも国が承認したものであるかのような表示をしていたとして、景品表示法に基づく行政指導がされた例もある。

なお、陽性者の濃厚接触者になった場合、5日間の自宅待機となるところ、2日目及び3日目に抗原検査キットを用いて陰性であれば、3日目から待機解除が可能となっているが、これは国が承認した「医療用」の抗原検査キットに限ることが厚労省の事務連絡に記載されている。

「正規品」はドラッグストアに陳列されていない

そもそも「医療用」の抗原検査キットは、調剤薬局でしか買うことができず、ドラッグストアの棚では売られていない。インターネットでの購入も認められていない。これは規制があるからだ。

「医療用」の抗原検査キットは「体外診断用医薬品」のため、医薬品医療機器等法によって、医療機関のみで利用が可能だったところ、昨年9月に、新型コロナウイルス感染拡大に対応するために調剤薬局での販売(薬剤師の対面指導等の要件あり)が特例として認められた。

医療機関に受診することなく抗原検査キットを購入することはできるようになったが、多くの人はドラッグストアに行けば売っていると考えている。繰り返しになるが、その店の棚にあるのは承認されていない「研究用」だ(調剤部門のあるドラッグストアではカウンター越しでの販売が可能)。

悪貨が良貨を駆逐する

「研究用」は医薬品として承認されていないから販売方法の規制がかかっていない。だからドラッグストアの棚に置いていたり、インターネットでの購入ができる。悪貨が良貨を駆逐している状態とすら言え、規制を掛けていることが本末転倒になってしまっている。

体外診断用医薬品は、安全性の観点から医療機関でのみ使用可能とされてきたが、特例販売により既に多くの人が使用しており、キット自体も改良が進み誰もが安全に使いやすくなっている。

また、発熱などコロナ感染の症状が出てからになると薬局に行くこともままならない。インターネットで購入ができるようになれば、さらに国民の利便性は高くなり、「感染が不安だからとりあえず医療機関に行く」という人も減って、医療ひっ迫の改善につながるだろう。

なお、医療用の抗原検査キットの絶対数が不足しているわけではない。政府は、昨年からメーカーに対して増産を依頼した。仮に売れ残った場合は、国が責任をもって買い取ることを補償することで最大の増産、大きな在庫を確保させている。急な需要に流通が対応できていないため品薄になっているが、医療機関にはある程度の在庫ができ始めており、また自治体による無料配布も各地で始まっている。それでも、やはりドラッグストアやインターネットでの購入ができないことは、国民の利便性の観点で大きなネックになっている。

政治の力で「抗原検査キットのOTC化」の実現を

以上のような、「抗原検査キットのOTC化」(「Over The Counter」の略。カウンター越しに薬を販売する方式(薬剤師の対面指導に基づいた販売)から来た言葉)は、今年5月に出された、政府の規制改革推進会議による「規制制度推進に関する答申」でも求められている。

当初は事例が少ないために、安全確保の観点から規制を掛けていたが、事例が増え安全性に問題ないことが明らかになったから規制を緩和するという流れは、よくある規制改革の進め方だ。

行政では安全性の観点を過度に重視してしまう面がある。この改革は政治が動かなければ実現できないであろう。今こそ政治の力で改革をしてほしい。

構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

1978年北海道生まれ。同志社大学法学部卒。国会議員秘書を経て、05年4月より構想日本政策スタッフ。08年7月より政策担当ディレクター。09年10月、内閣府行政刷新会議事務局参事官(任期付の常勤国家公務員)。行政刷新会議事務局のとりまとめや行政改革全般、事業仕分けのコーディネーター等を担当。13年2月、内閣府を退職し構想日本に帰任(総括ディレクター)。2020年10月から内閣府政策参与。2021年9月までは河野太郎大臣のサポート役として、ワクチン接種、規制改革、行政改革を担当。2022年10月からデジタル庁参与となり、再び河野太郎大臣のサポート役に就任。法政大学大学院非常勤講師兼務。

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