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1週間で82人の候補者を知ることはできない~有権者が選びやすい選挙に向けて~

伊藤伸構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与
杉並区議会議員選挙の公営掲示板(筆者撮影)

今日は統一地方選のいわゆる後半戦(政令市を除く市、東京特別区、町村の長及び議員)の投票日。

全国的には議員のなり手がいないと言われ、NHKの報道によると、294の市議会議員選挙のうち14の選挙が、373の町村議会議員選挙のうち、123の選挙が無投票となった(20町村では定員割れ)。

一方で、東京23区の区議会議員選挙は多くの立候補者数がいる。

下の表を見ていただきたい。

今回の区議会議員選挙における議員定数と候補者数の一覧だ。

最大の候補者数は、大田区の82名。「倍率」が一番高いのは渋谷区の1.82倍。倍率は23区全体でも1.49倍。294の市議会議員選挙は、定数6636のところ候補者総数が8261名。倍率は1.24倍なので、区議会選挙に立候補している候補者は、かなり狭き門に挑んでいることになる。

候補者全員を知ることは不可能な仕組み

区議会選挙は16日に告示、23日に投票なので選挙期間は実質1週間。政令市の議員選挙のように中選挙区制(区ごとに投票)ではなく、区全体が一つの選挙区という「大選挙区制」なので、大田区民は82人全員が投票対象者になる。

この1週間で82人の候補者の演説を聞いたり、選挙カーを見たり、それぞれのホームページを閲覧したりして、候補者の人となりを知ることは、まず無理だろう。告示2,3日後に選挙公報が届くが、あれで差別化できる人も少ないだろう。

では、告示日より前、立候補しようと思った時に、「私は次の○○区議会選挙に立候補することに決めました。是非とも皆さんの1票をよろしくお願いします」と言ってよいかというと、答えはNOだ。

有権者にはわからない「選挙運動」と「政治活動」の違い

これは、公職選挙法で「選挙運動」と「政治活動」が区分されていることに起因する。

公選法129条は、「選挙期間中(告示・公示日~投票日前日)以外に選挙運動をしてはいけない」としている。この規定の趣旨は、「各候補者の選挙運動開始時期を合わせることで無用の競争を避けるため」と言われている(「地方選挙の手引」選挙制度研究会)。

「選挙運動」の定義とは何か?

これは、法文には出てこない。同じく「地方選挙の手引」では、選挙運動とは、

1.特定の選挙において

2.特定の候補者の当選を得または得しめるために

3.直接また間接的に当選を働きかける行為(投票依頼の意味)

と解されている(この本は判例などをもとに法の運用指針を策定しており選挙実務者の大部分は持っている)。

私が国会議員の秘書をしていた時代には、選挙期間外の活動において、この「3要素」のうち、すべて揃うと完全にアウト、2つだとグレー、1つだとまあ大丈夫だろう、などという解釈が一般的だった。

立候補する当事者が告示日より前に選挙運動をすることはできない一方で、新聞や政党の機関紙、ホームページなどでは「予定候補者」として誰が立候補するか記載している(報道評論の自由)。

告示日前から誰が立候補するのかを知ろうとしてその情報が得られている人からすれば、この規制は形骸化しているし、選挙が始まってから知る人にとっては情報を得るための時間があまりにも短く、結果として「誰に入れて良いかわからない ⇒ 誰に入れても一緒 ⇒ 選挙に行かない」となっているのではないか。

このように選挙期間を定めて、その間しか選挙運動をしてはいけないという国は、日本のほかにフランスくらい。アメリカ、イギリス、ドイツなどは選挙期間という概念がなく、投票日だけが設定されるため、いつから選挙運動を始めても良い。

「立会演説会」も開けない

選挙期間中、知人から「こんなに多くの候補者のことわかるはずがない。一緒に集まっての討論会とかネットでやってたりしないの?」と聞かれた。

選挙期間中、候補者は「個人演説会」を開催することができる。「自分の選挙区に出た人がどういう考え方なのか聞いてみたい」と思う人はいると思うが、主催は候補者もしくは政党に限られている。第三者が主催することはできないため、当然ながらインターネットでの討論会などは開催できない。

であれば、行政が主催して立会演説会は開けないのだろうか?

1983年までは存在していた。選挙管理委員会が主催していたのだが、立会演説会の聴衆はそれぞれの陣営の支援者ばかりで野次の応酬になることもしばしば見られた、といった理由で廃止したとされているが、当時は立会演説会の開催によって政策能力の差が見えるから廃止した、など色々な噂があった。

最近は、第三者機関が間に入り、形式上は複数の候補者の個人演説会が同じ時間に同じ場所で行われる「合同・個人演説会」として開催するケースがあるが、事例がごく限られている。

以上のように、私たち有権者が候補者のことをしっかりと把握できるような仕組みになっていない。もう何年も前から、公職選挙法の課題について指摘はされているが、なかなか抜本改正には至っていない。

投票に行かないことを嘆くだけではなく、仕組みの改革も含めた本気の議論をそろそろ始めなければならない。

構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

1978年北海道生まれ。同志社大学法学部卒。国会議員秘書を経て、05年4月より構想日本政策スタッフ。08年7月より政策担当ディレクター。09年10月、内閣府行政刷新会議事務局参事官(任期付の常勤国家公務員)。行政刷新会議事務局のとりまとめや行政改革全般、事業仕分けのコーディネーター等を担当。13年2月、内閣府を退職し構想日本に帰任(総括ディレクター)。2020年10月から内閣府政策参与。2021年9月までは河野太郎大臣のサポート役として、ワクチン接種、規制改革、行政改革を担当。2022年10月からデジタル庁参与となり、再び河野太郎大臣のサポート役に就任。法政大学大学院非常勤講師兼務。

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