自己満足?「環境のため一人ひとりができることを」ではダメな理由と対案
2020年も残りわずか。今年は、報道はコロナ一色であったが、異常気象や災害が深刻な年でもあった。国内では、熊本県を中心に九州に大きな被害をもたらした「令和二年豪雨」、国外では、昨年末から今年にはじめにかけ、オーストラリアで史上最悪の森林火災が発生した。いずれも、地球温暖化の影響が指摘されるものだ。気象庁によると、今年1月から11月までの速報値で、日本と世界の年間平均気温が観測史上最高なのだという。
危機は確実に進行しており、対策は不可欠だ。菅義偉首相は今年10月の所信表明演説で、「2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする」との目標を明らかにしたが、これまでのような、人々や企業の自主努力に基づいた対策では、脱炭素社会の実現は難しい。来年1月には米国でバイデン政権が発足し、世界がいよいよ脱炭素社会へシフトしていく中、日本の本気度も問われている。
○「個人でできること」で満足してはいけない
あえて言うが、「一人ひとりからできることをしよう」などと、呼びかけるのは、やめた方がいいと筆者としては思っている。夏場にエアコンの温度設定を下げすぎない、マイバックやマイ箸を持つ、これらの「個人でできること」が無駄だとは言わないが、その程度で「環境にいいことをしている」と満足してしまっては、むしろ本末転倒なのだ。それは、今年のコロナ禍でよりはっきりした。「世界平均気温の上昇を2度未満、できれば1.5度未満に抑え込む」という温暖化防止の国際的な枠組み「パリ協定」での目標を実現するためには、先進国は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることが求められる。だが、世界経済にリーマンショック以上の打撃を与えていると言われるコロナ禍で、世界の温室効果ガス排出量も減少したが、各国でロックダウンが行われた今年4月の減少分ですら、前年度比マイナス17%程度でしかなかったのだ。
○法制度を変えることが必要
では、どうしたらよいのか。現在の社会・経済のあり方自体が既に環境に悪いのであれば、社会・経済システム自体を変えなくてはならない。そのためには、個人や企業の自主努力に任せるのではなく、制度や法律を変え、政策として強力に推進し、財政出動も行うことが最低限、必要なのだ。「2050年温室効果ガス排出ゼロ」を目指す上で、石油や石炭、ガスなどの化石燃料と決別し、電化、つまり電気をつかうものに置き換えていくことが、重要だ。その具体例が、ガソリン/ディーゼル車から、電気自動車への転換である。また、電気自動車であっても、それを動かす電気が例えば石炭火力発電によるものであっては、CO2排出削減の効果が小さくなる。そもそも、発電こそが多くの国々での最大の温室効果ガス排出源である。石炭やガス等による発電を規制し、太陽光や風力等の再生可能エネルギーを電力源とすることが極めて重要だ。また、大規模な蓄電施設や広域での電力融通などの「天候任せ」の不安定さをカバーする体制つくりも不可欠だろう。
○日本は「エネルギー大国」
幸い、日本は「エネルギー大国」になれるポテンシャルがある。環境省の試算*では、
太陽光発電と風力発電だけでも、日本の総電力需要である1兆1706億キロワット時(2018年)の7倍ものポテンシャルがあるというのだ。とりわけ、規模が大きいのが、洋上風力発電で、そのポテンシャルは原発715基分(原発1基=1ギガワットとして計算)にも及ぶ。実際には、どこもかしこも太陽光や風力の発電施設だらけにするわけにもいかないだろうが、十分な電力は再生可能エネルギーだけで確保できるということだ。
*「令和元年度再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報等の整備・公開等に関する委託業務報告書」
○菅政権は口先だけでなく具体的な政策の実施を
ただ、菅政権が示した2050年の電力構成の目標値はイマイチやる気が感じられない。再生可能エネルギーの割合は、50~60%、原子力とCCS(CO2回収貯留)付火力で30~40%、水素とアンモニアで10%というものである(2020年12月21日の基本政策分科会にて経産省が提起)。基本政策分科会に参加した公益財団法人自然エネルギー財団は、フィンランドやドイツとの共同研究で、「2050年温室効果ガス排出ゼロ」を日本において実現可能だとする研究成果をまとめ、基本政策分科会に提出している(関連情報)。経産省の長期目標案は、石炭火力や原発などを抱える電力大手に忖度したものなのかもしれないが、政府として再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限活用する政策へと舵を切るべきだろう。
日本において、温暖化対策がネガティブに取られがちである理由の一つは「負担増」「経済への悪影響」というイメージがあるからだろう。だが、米国のバイデン次期大統領が温暖化対策に200兆円以上を投じるとしている動機として、太陽光や風力の発電設備の設置や電気自動車の普及や技術革新等による経済効果や雇用拡大で、コロナ禍で落ち込んだ米国経済を復活させるということもあるのだ。
菅首相も、今年10月の所信表明演説で「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です」と語っている。ならば、口先だけではなく、温暖化防止のための法制度の整備や大胆な財政出動を速やかに行うべきだろう。また、個人が「一人ひとりからできることをしよう」というならば、具体的に政策を実行することを、政府や地元の国会議員等へ要望として伝えることが大切だ。そうした有権者としての振る舞いは、エアコンの温度調整やマイバック使用と同様か、それ以上に「地球に優しい」行為となるはずだ。
(了)