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今年も残すところわずか。「発症すると致死率ほぼ100%」の犬のワクチンを忘れていませんか?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:PantherMedia/イメージマート)

今年も残すところ2週間ほどになりました。犬のトリミングの予約は取ったし、クリスマスはモフモフしようと思っている飼い主も多いでしょう。

そのような時期ですが、ひょっとしたら発症すると致死率がほぼ100%の病気の犬のワクチンを忘れていませんか。そうです、狂犬病のワクチンを今年、打ちましたか。

今年も公園で集合注射もなかったし、動物病院に行くのもなんとなく面倒だしと思っているかもしれません。コロナの感染拡大が始まった昨年から、飼い主が接種会場に集まる「3密」リスクなどを理由に、多くの行政は集合注射を軒並み中止とし、動物病院での接種を呼びかけました。

日本でもここ最近は狂犬病が出ていないので、まあいいじゃないと思っている人もひょっとしたらいるかもしれません。

コロナ禍での日本で狂犬病ワクチンを犬に毎年、打つ方法などを考えていきましょう。

正直な話、狂犬病ワクチンを打たなくてもいい?

厚生労働省 狂犬病のサイトより
厚生労働省 狂犬病のサイトより

狂犬病は日本では60年以上発生していないので、もう犬に狂犬病ワクチンを接種しないでいいのではないか、と思っているかもしれません。うちの子は、病弱だしそもそも動物病院に行くのは苦手だしと考えている飼い主もいるでしょう。

しかし、犬を飼えば狂犬病ワクチン接種は、狂犬病予防法で年1回義務付けられています。それに違反すれば20万円以下の罰金の可能性もあるのです。

狂犬病の発生状況

厚生労働省 狂犬病のサイトより
厚生労働省 狂犬病のサイトより

上の地図をご覧いただくと、日本、英国、スカンジナビア半島の国々など一部の地域を除いて(青い色のところが発生していないところ)、全世界で狂犬病は発生しています。

2017年のWHOによりますと、年間の死亡者数推計は59,000人(うち、アジア地域35,000人、アフリカ地域21,000人)です。狂犬病は世界で発生している人畜共通感染症なのです。

コロナ禍でみなさんは、実感されていると思いますが、世界の中で人が移動をしているので、日本から遠い国ではあるものの伝染病はあっという間に広がるのです。

検疫をちゃんとしているから大丈夫だと思うでしょうが、日本は島国なので比較的安全ですが、それでもプライベートジェットや船で犬が来ることもあります。そんなところから、ひょっとしたら1匹の狂犬病を持った犬が日本に上陸すればたいへんなことです。狂犬病ワクチンを打っていない犬なら、発症すれば100%致死しています。

なぜ、狂犬病がそれほど危険なの?

愛犬が狂犬病になれば、治療法はないし発病すれば、100%の致死率です。そして、狂犬病になった犬に人が噛まれた場合に潜伏期間中に的確な治療をしないと、発病してしまえば、犬と同じように人でもほぼ100%の致死率なのです。

それほど怖い人畜共通感染症です。

集合注射を縮小や廃止へ

写真:アフロ

コロナ禍で3密を避けるために、狂犬病ワクチン接種の集合注射は、縮小や廃止になっていく傾向にあります。

動物病院で狂犬病ワクチンを接種すると1匹1匹時間をかけて打ってもらうことができます。集合注射のように多くの犬が集まることが避けられるので、犬同士のトラブルを回避できます。

かかりつけ医と相談して、あまり混雑しない時間や時期に、狂犬病ワクチンを打つことができるようになっています。

このように書けば、集合注射を廃止して動物病院で打つのは、メリットばかりのように思いますが、そうでもない場合もあります。それを見ていきましょう。

集合注射をやめて困ることは?

写真:アフロ

全ての犬が、動物病院で狂犬病ワクチンを打つことができるといいのですが、そうじゃない場合もあります。以下のようなケースです。

かかりつけ医を持っていないので、どこの動物病院に行けばいいのかわからない

動物病院に行くと震えて嫌がる犬がいる

人も犬も苦手なので、動物病院で暴れる犬がいる

などの場合、動物病院で狂犬病ワクチンを打つのをためらってしまいます。

以前、筆者が、狂犬病ワクチンの集合注射をしたとき、人や犬のいない公園に1匹だけ犬がいました。なぜ、こんな場所に犬を繋いでおくのか、と思っていると、その犬は、人も犬も苦手でなにかあると襲う可能性がある子でした。そんな犬もいるのが現実です。

こんなケースを考えると集合注射をやめるときは他の選択肢も必要になってきます。狂犬病ワクチンは、全ての犬に打ってもらわないと困るのです。そのことを次に見ていきましょう。

集団免疫という考え方

農林水産省 消費安全局 狂犬病のサイトより
農林水産省 消費安全局 狂犬病のサイトより

新型コロナワクチンの接種で、集団免疫という言葉を多く耳にしました。集団免疫のために、多くの犬が狂犬病ワクチンを打つことは大切です。

産経新聞によりますと、大阪府立大大学院の安木真世准教授(獣医学)の話では、犬全体の70%に接種できれば集団免疫の獲得が見込まれるということです。厚生労働省よりますと、平成元年の予防注射の接種率は99.2%に上ってましたが、平成21年度の犬の接種率は74.4%、令和元年は71.3%と約30年で大きく減少しています。

(犬の飼育頭数は、約1,252万頭(ペットフード工業会調べ)であり、日本獣医師会による推定では、実際の接種率は約40%ではないかと推定もあります。)

厚生労働省の統計上では、この水準をかろうじて維持しているものの、すでに危惧すべき状況が起きている可能性が高いといわれています。

犬の飼い主へ

写真:アフロ

コロナ禍で今年も集合注射会場が少なかったので、狂犬病ワクチンを打っていない人がいるかもしれません。動物病院に問い合わせるとすぐに狂犬病ワクチンを接種できるはずなので、打ってあげてください。

犬の飼い主は、狂犬病ワクチンを確実に犬に接種することが必要です。ワクチンの必要性は、新型コロナワクチンでより理解が深まったと思います。

犬の飼い主一人一人が狂犬病に関して正しい知識を持つことが大切です。そうすることによって公衆衛生の向上と公共の福祉の増進に寄与しているということを飼い主の方にはしっかりと自覚していただくことが望まれます。

時代は大きく変わりますが、科学的な知識を持ち愛犬とそして自分の健康を守りましょう。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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