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アトピー性皮膚炎治療薬アブロシチニブ:フレアを予測し適切な維持療法を選択するコツ

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

アトピー性皮膚炎は、痒みを伴う慢性の炎症性皮膚疾患です。中等症から重症の患者さんには、病勢をコントロールしフレア(急性増悪)を最小限に抑えるため、継続的な治療が必要となることがあります。

今回、注目の治療薬であるアブロシチニブについて、導入療法後の維持療法を最適化する方法を探った最新の研究結果をご紹介します。アブロシチニブは、ヤヌスキナーゼ(JAK)1を選択的に阻害する経口薬で、中等症から重症のアトピー性皮膚炎の成人と青年に対して使用が承認されています。

本研究は、JADE REGIMENと呼ばれる第Ⅲ相臨床試験の事後解析です。この試験では、12週間のアブロシチニブ200mg導入療法に良好な反応を示した患者を対象に、その後の維持療法として、アブロシチニブ200mg継続、100mgへの減量、もしくはプラセボ(偽薬)への切り替えを比較しました。

【フレアを起こさない確率を高める予測因子とは】

研究チームは、まず維持療法期間中にフレアを起こさない確率に関連する因子を特定しました。その結果、ベースライン(治療開始時)の皮膚病変の範囲が狭いこと、全身療法の使用歴がないこと、導入療法でより高い改善率を示したことなどが、アブロシチニブ継続でフレアを起こしにくいことと関連していました。

多変量ロジスティック回帰モデルを用いた解析の結果、導入療法期間中のEASI(Eczema Area and Severity Index、湿疹の範囲と重症度指数)の改善率が、アブロシチニブ継続または減量でフレアを起こさない確率に大きく寄与していることが明らかになりました。

【ステップダウン療法に適した患者とは】

次に研究チームは、これらの予測因子を組み合わせて、ステップダウン療法(アブロシチニブを減量しての維持療法)に適した患者像を推定するためのノモグラム(計算図表)を作成しました。

これにより、ベースラインの皮膚病変がより軽度で、導入療法への反応が良好な患者は、維持療法をアブロシチニブ100mgに減量しても、200mg継続とほぼ同等の確率でフレアを起こさないことがわかりました。一方、ベースラインの病勢が重症の患者は、導入療法への反応が良好でも、維持療法は200mgを継続するのが望ましいと考えられます。

【日本の皮膚科診療への示唆】

日本でもアトピー性皮膚炎は比較的よくみられる皮膚疾患で、特に中等症から重症の患者さんのQOL(生活の質)の低下が問題となっています。アブロシチニブは、こうした患者さんの新たな治療選択肢となることが期待されます。

本研究の知見は、アブロシチニブの導入療法後、どのような患者さんならば維持療法の減量が可能か、臨床医の判断の参考になるはずです。ただし、減量で再燃した場合でも、200mgへの増量と外用療法の併用で再寛解が得られることが多いことも報告されています。

なお、アブロシチニブを含むJAK阻害薬の長期使用では、播種性帯状疱疹や血栓塞栓症などのリスクに注意が必要です。65歳以上や心血管系リスク因子のある患者さんでは、維持療法の用量選択にはより慎重を期すべきでしょう。

今後、本研究を皮切りに、アブロシチニブをはじめとする新しい治療薬について、日本人のアトピー性皮膚炎患者さんにおける治療反応性の違いや安全性に関するデータの蓄積が望まれます。

参考文献:

Thyssen JP, Silverberg JI, Ruano J, et al. Optimizing maintenance therapy in responders to abrocitinib induction: a post hoc analysis of JADE REGIMEN. J Eur Acad Dermatol Venereol. Published online May 16, 2024. doi:10.1111/jdv.20095

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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