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プラごみ問題のモヤモヤを少し晴らす5回シリーズ(3)

保坂直紀サイエンスライター/東京大学特任研究員
海岸の清掃は、むなしい努力なのか?(写真:アフロ)

 海岸には、たくさんのごみが流れ着く。市民ボランティアがせっかくきれいに掃除しても、いちど大風が吹いて海が荒れると、また元通りのごみで汚れた海岸だ。掃除しては汚れ、掃除してはまた汚れの繰り返し。これって、意味があるんだろうか……。

ごみ清掃した長崎県対馬の海岸(2012年3月撮影、写真はいずれも山口晴幸さん提供)
ごみ清掃した長崎県対馬の海岸(2012年3月撮影、写真はいずれも山口晴幸さん提供)

 たしかに、ごみ拾いだけでは、プラスチックごみの問題は解決しない。だが、放っておけば、海岸の環境は確実に劣化する。海岸の漂着ごみを学術的に調査することなどほとんどなかった昔から、20年以上も海岸のごみを丹念に調べ続けている研究者がいる。シリーズ3回目は、2019年10月に東京大学海洋アライアンスのホームページに載せた記事を再掲し、彼が語る海岸清掃の意義に耳を傾けたい。研究者がこうして得たデータは漂着ごみの実態を如実に物語るし、ここでは触れていないが、1990年ごろから盛んになった市民によるごみ拾いは、世界中の海岸ごみの状況を把握できるビッグデータを提供している。

上の写真から1年後の2013年3月に撮影した同じ海岸。またたくさんのごみが漂着しているが、逆に、ごみ清掃を続ければ、上の写真のようなきれいな海岸を保てるとみることもできる。
上の写真から1年後の2013年3月に撮影した同じ海岸。またたくさんのごみが漂着しているが、逆に、ごみ清掃を続ければ、上の写真のようなきれいな海岸を保てるとみることもできる。

海岸のごみ清掃は、けっしてむなしい努力ではない

 流木や古タイヤ、家電、ポリタンク、魚網。海岸には、さまざまなごみが流れ着く。ボランティアが清掃しても、やがてまた流れ着いてごみだらけに。海岸のごみ拾いは、むなしい努力なのだろうか……。1997年から20年以上にわたり、全国の海岸で独自に漂着ごみの調査を続けてきた山口晴幸・防衛大学校名誉教授は、「ごみ清掃の効果は調査データにも表れている」と説明する。世界でいま取り組みが始まったプラスチックごみ問題の根本的な解決にはならないが、プラごみの増加による海岸環境の悪化を、収拾がつかなくなる一歩手前で食い止めているのが、ごみ清掃なのだという。むなしい努力ではないのだ。

日本海側は外国から、太平洋側は川から

 山口さんは1997年から、全国各地の海岸で漂着ごみの調査を始めた。当時は漂着ごみを研究している大学もほとんどなく、決まった調査方法もなかった。そこで山口さんは、「大きさにかかわらず個数を数える」「流木などの自然物は除き、ごみの種類をプラスチック類、ビン類、漁具類という具合におおまかに分ける」「外国からのごみは、文字やバーコードから中国、台湾、韓国、ロシアなどに分ける」といったルールを自分で決め、全国で5年ほど統一的に繰り返し調査してきた。

 その調査でみえてきたのが、東シナ海や日本海側では海外から流れ着くごみが多く、太平洋側では川から流れ込むごみが多いという傾向だった。それ以降、山口さんは、それぞれの海域を代表する琉球、対馬、佐渡、硫黄島で定点観測を続けている。

海岸は、清掃するとたしかにきれいになる

 山口さんが注目しているのは、1998年から沖縄県の海岸を毎年、調査したデータだ。年によって調査した海岸の数は違うが、15~77の海岸のうち清掃された形跡があるものは、2000年代には4~5割程度だったが、2010年代になると7~8割ほどに増えた。これは、漂着ごみの処理を自治体などに求める漂着物処理推進法が2009年に施行された効果だと山口さんはみている。

 一方、海岸線1キロメートルあたりのごみの総量は、1998年から2000年代の半ばまでは10年で7~8倍になるペースで増え続けたが、その後は頭打ちになっている。これは海岸の清掃が盛んになってきた時期と一致している。

 そのなかで、2012年だけは多量のごみが確認された。この年は、清掃の跡が残る海岸が5割ほどしかなく、前後の年に比べて少なかった。例年の海岸の清掃がごみを実際に減らしていることを強くうかがわせるデータだ。この年の前年には東日本大震災が起きており、その影響で海岸清掃に国などの手が回らなかったようだと山口さんはいう。

有効な対策に生かせる調査データが必要

 もうひとつ山口さんが強調するのは、調査データを海のプラごみ削減の施策や行動に結びつけることの大切さだ。

 レジ袋をもらわないようにする、水を水筒で持ち歩きペットボトルは買わないといった個人の心がけは、もちろん大切だ。だが、それはプラごみの総量を減らす方法として、調査データがなくても、だれもがわかることだ。

 大きさが5ミリメートルより小さい「マイクロプラスチック」の数について山口さんが調査したところ、沖縄の海岸では「レジンペレット」が1割で発泡スチロール片が5割、関東ではそれぞれ3割と4割だった。

山口さんが神奈川県横須賀市の海岸で集めたマイクロプラスチック。右上がレジンペレット。そこから時計まわりに、発泡スチロール以外のプラスチックの微細片、発泡スチロールの微細片、合成繊維。
山口さんが神奈川県横須賀市の海岸で集めたマイクロプラスチック。右上がレジンペレット。そこから時計まわりに、発泡スチロール以外のプラスチックの微細片、発泡スチロールの微細片、合成繊維。

 レジンペレットは、プラスチック製品をつくるとき、その原材料として使う小さな粒状のプラスチックだ。それが、流通しているあいだに、管理不十分で環境中に漏れ出す。発泡スチロール片の多くは漁具に関係していると山口さんはみている。つまり、沖縄にしても関東にしても、一般の個人だけではなく、プラスチック業界、漁業者といった「業界」から多くのマイクロプラスチックが出ている。「業界」なら、一般市民を対象とするより排出減に向けた規制はしやすいはずだ。この山口さんの調査データは、海岸を汚すマイクロプラスチックを減らすための「ツボ」を物語っている。

 「海ごみについては、まだデータが足りない。専門家がやるべきことは、さらに調査を進め、調査データをもとにして有効な対策を探る議論をすることだ。『とにかくプラごみを減らしましょう』なら、専門家でなくてもわかる」と山口さんはいう。

 たくさんの漂着ごみにさらされつつも、海岸の清掃は、なすがままに汚れてしまう状態から海岸を救う一定の効果があることは、データに表れている。放置すれば、それが砕けてマイクロプラスチックになる可能性もある。しかし、とくに漂着ごみが多い沖縄や日本海側は、ボランティアの献身に頼る限度を超えていると山口さんはみる。

 この海域では外国から漂着するプラスチックごみが多く、その流出元は、これまでの中国や台湾、韓国に加え、最近はベトナム、マレーシア、インドネシアが目立つという。ボランティアによる海岸の清掃を続けつつ、レジンペレットや発泡スチロールの流出を規制し、そして近隣国からの海へのプラごみ流入を減らすための根本的な対策に国や自治体が早急に着手することが必要だろう。

※海岸清掃がリアルにわかる動画「第15回飛島クリーンアップ作戦(2015年)」(飛島クリーンアップ作戦実行委員会)を、撮影者の許可を得て下に置きます。日本海の山形県・飛島を2015年に清掃したときのものです。海岸清掃は、たいへんです。

 

サイエンスライター/東京大学特任研究員

 新聞社の科学部で長いこと記者をしていました。取材・執筆活動を続けたいため新聞社を早期退職し、大学や国立研究機関を渡り歩いています。学生時代は海洋物理学者になろうとして大学院の博士課程で研究していましたが、ふとしたはずみで中退してマスメディアの世界に入りました。そんな関係もあり、海洋学や気象学を中心とする科学、科学と社会の関係などについて書いています。博士(学術)。気象予報士。趣味はヴァイオリン演奏。

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