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プラごみ問題のモヤモヤを少し晴らす5回シリーズ(4)

保坂直紀サイエンスライター/東京大学特任研究員
小さく砕けたプラスチックを浜辺の生き物は食べてしまう(筆者撮影)

 拾っても拾っても、また海岸に流れ着くプラスチックごみ。市民ボランティアなどによる清掃活動が、いま海岸をぎりぎり守っている。前回の「プラごみ問題のモヤモヤを少し晴らす5回シリーズ(3)」では、そういう話をした。

 こうした活動は、具体的になにを「守って」いるのだろうか。海岸の美しさを観光資源にしているところでは、もちろん、それは私たちの暮らしを守ることに直結する。だが、それだけではない。海岸には、無数の小さな生き物たちがすんでいる。やはりというべきか、プラスチックごみで汚れた海岸では、かれらはプラスチックを食べてしまっている。

 海の生き物がプラスチックごみを食べているという報告は、これまでにも多くある。では、ごみの多い海岸と、清掃されたきれいな海岸とで、かれらの体内に取り込まれるプラスチックの量はどう違うのだろうか。その違いは、はっきり現れるのだろうか。

 ここで、美しい沖縄県・座間味島のオカヤドカリを調べた研究を、2019年11月に東京大学海洋アライアンスのホームページに載せた記事を再掲して紹介しよう。海岸の小さな生き物たちを現実に守っている清掃活動の意味に気づくだろう。

 一緒にこの社会をつくる一人ひとりを自分とおなじように尊重する。それが民主主義の考え方だ。海岸のプラスチックごみを拾い、人間以外の小さな生き物、そして生態系を大切にする活動は、もうひとつの「民主主義」なのかもしれない。

プラごみ海岸のヤドカリはマイクロプラを食べてしまう

 沖縄本島の那覇市から海を越えて西に約40キロメートル。ダイビングなどで海の美しさを満喫できる沖縄県・座間味島にすむオカヤドカリの体内から最近、マイクロプラスチックが見つかっている。しかも、その個数は、ごみ清掃をまめにする浜としない浜とでまったく違う。調査した沖縄県立芸術大学の藤田喜久准教授は、「ごみ清掃は浜の美観だけの問題ではない。生き物への影響という点でも、海岸のごみ清掃は繰り返し行うことに意味がある」という。

沖縄本島のオカヤドカリ。(沖縄県本部町の海岸で、筆者撮影)
沖縄本島のオカヤドカリ。(沖縄県本部町の海岸で、筆者撮影)

プラごみの量で体内のマイクロプラの数に差

 藤田さんは、2018年から2019年にかけて、座間味島の北側にある海岸と南側の海岸でオカヤドカリを調べた。とくに冬季に北からの風が吹く座間味島では、島の北側海岸に漂着ごみが多い。しかも、今回の調査で選んだ海岸は、あまり人が立ち入らないため清掃も頻繁には行われず、漂着ごみが多いという。一方の南側の海岸は、ごみの少ないきれいなビーチだ。

沖縄本島の北に開いた砂浜の海岸。あまり人は入らず、木の枝やプラスチック製品などが満潮時の水際まで打ち上げられていた。(沖縄県本部町で、筆者撮影)
沖縄本島の北に開いた砂浜の海岸。あまり人は入らず、木の枝やプラスチック製品などが満潮時の水際まで打ち上げられていた。(沖縄県本部町で、筆者撮影)

 オカヤドカリは海岸などに生息する陸のヤドカリ。藤田さんは、大きさが5ミリメートル以下の「マイクロプラスチック」をオカヤドカリが食べてしまっているかどうかを、北側海岸と南側海岸のオカヤドカリ20匹ずつで調べた。その結果、北側海岸のすべてのオカヤドカリの消化管から、砂粒や植物片、昆虫の破片などにまじって3~41個(平均17個)のマイクロプラスチックがみつかった。それに対し、南側海岸でマイクロプラスチックがみつかったオカヤドカリは1匹のみ。しかもマイクロプラスチックの数は1個だった。

 ここは小さな島なので、北側海岸でも南側海岸でも、オカヤドカリはおなじ環境でおなじ育ち方をしているはずだ。違いは、生息している海岸にプラスチックごみが多いか少ないかという点だ。

繰り返しごみ掃除をすることで浜の生き物を守る

 漂着ごみのあまりない海岸には、マイクロプラスチックを食べてしまうオカヤドカリが少ない。ということは、北側の海岸で多くのオカヤドカリの口に入ったマイクロプラスチックは、おそらく浜に放置されたプラスチックごみがその浜でマイクロプラスチックになり、それがオカヤドカリの口に入った。沖縄の海岸は太陽から届く紫外線や熱が強く、プラスチックが劣化し、砕けてマイクロプラスチックになりやすい状況にある。ごみの少ない南側海岸では、マイクロプラスチックに砕けるプラスチックごみがそもそも少なく、体内への取り込みを免れている可能性がある。

 海岸には、ペットボトルをはじめとするたくさんのプラスチックごみが流れ着く。掃除してきれいにしても、またやってくる。だが、もし、その海岸の生き物をマイクロプラスチックから守ろうとするなら、繰り返し掃除し、海岸をできるだけきれいに保っておく必要がある。藤田さんは「拾い続けなければ、浜の生態系を維持することが難しくなるかもしれない」という。尽きることのない漂流ごみに負けずに海岸の清掃を繰り返す活動は、浜の生き物をマイクロプラスチックから守る防波堤になっていることを、藤田さんのこのデータは強くうかがわせている。

サイエンスライター/東京大学特任研究員

 新聞社の科学部で長いこと記者をしていました。取材・執筆活動を続けたいため新聞社を早期退職し、大学や国立研究機関を渡り歩いています。学生時代は海洋物理学者になろうとして大学院の博士課程で研究していましたが、ふとしたはずみで中退してマスメディアの世界に入りました。そんな関係もあり、海洋学や気象学を中心とする科学、科学と社会の関係などについて書いています。博士(学術)。気象予報士。趣味はヴァイオリン演奏。

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