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文大統領はトランプ大統領の対北軍事攻撃を止められるか!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
米国での米韓首脳会談の際のツーショット

 訪日を終えたトランプ大統領は次の訪問地、韓国に飛び立った。今日の昼には烏山基地に到着する。

 注目の文在寅大統領との首脳会談は午後に行われる。単独会談も含めて、二度行われる予定である。

 最大の注目点は、北朝鮮が太平洋に向けて大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射し、核ミサイルを完成させた場合の対応だ。特に、外交的解決手段としての制裁と圧力が功を奏しないと判断した場合の対応、即ち米国が検討している軍事オプションに関する協議にある。

 文大統領は8月15日の解放記念日での祝辞で「朝鮮半島での軍事行動は韓国だけが決定できるし、誰も韓国の同意なく、軍事行動を決定することはできない」と発言していた。

 国民の多くは文大統領の言葉を信じているようだが、では、米国は韓国の同意がなければ、北朝鮮に対して軍事行動を起こせないのだろうか?換言すれば、文大統領は軍事オプションに傾斜するトランプ大統領を説得することができるのだろうか?

 文大統領は韓国軍を統率する最高司令官である。米韓相互防衛条約2条には北朝鮮からの武力攻撃を阻止する手段について「協議と合意によって取る」と定められている。また、韓国の領土、領空、領海、即ち韓国作戦地域内での軍事行動は「韓国政府の同意が必要」とされている。

 但し、韓国の作戦地区ではなく、朝鮮半島外の国際空域では韓国政府の同意を必要としない。簡単な話が、朝鮮半島の外、即ち韓国の領土、領海外からの攻撃、具体的にはグアムや在日米軍に基地のある戦略爆撃機や空母からの攻撃の場合は、韓国政府の同意を必要としない。

 しかしこの場合、北朝鮮が在韓米軍基地に反撃を加えるのは必至だ。武力衝突が局地戦、全面戦争に発展すれば韓国の被害は甚大だ。そのため米国は韓国の了承なく、独自に行動することはできないとの見方もあるが、在韓米軍司令官は国際法的には国連司令官である。

 韓国の宋永武国防長官は先月、国会国防委員会の国政監査の場で「米国は韓国の同意なく単独で戦争ができるのか」との無所属議員の質問に対して「米国は韓国を排除して単独では戦争をしないだろう」と答えていた。

 また、米国のマクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も11月2日、トランプ大統領の訪韓を前にこのほど韓国のYTNテレビと行ったインタビューで「米韓両国は完全な合同軍事指揮体系を持っており、情報を毎日共有している」として、「(朝鮮半島での)米国の単独軍事行動は想像できない」と述べていた。

 朝鮮半島有事の際の作戦統帥権は国連軍司令官が握っている。朝鮮半島有事が現実となれば、在韓米軍同様に韓国軍も国連軍司令官の指揮下に入る。韓国軍を抜きにした朝鮮半島での戦争はあり得ない。米朝軍事衝突に韓国軍は自動的に参戦することになっている。トランプ大統領と文大統領との間では軍事オプションに関して温度差はあっても、米韓両軍の関係は強固で、緊密な関係にある。

 ロシアのラブロフ外務長官は10月31日、ロシアと事業する欧州企業人との会合で「米国は韓国との事前協議なく北朝鮮攻撃を決断するだろう」と発言していた。

 その理由についてラブロフ外相は「ダンフォード米統合参謀議長は『大統領から攻撃の命令が下されれば、議会の承認を得ずに命令を実行する可能性を排除しない』と発言していることからして非常に危険だ」としたうえで「韓国の大統領は我々に韓国との協議なく米国が武力を使用することはないと言っているが、私はそれとは違った発言を聞いている」と語っている。

(参考資料:トランプ大統領は米議会の同意なく北朝鮮を攻撃できるか

 クリントン政権下の1994年の第一次核危機の時、クリントン大統領は当時、金泳三大統領の同意なく、対北攻撃を決断し、実行に移そうとしていた。そのことは、当時金泳三政権下で大統領秘書室長の職にあった朴寛用氏の証言からも明らかだ。

 朴氏は3年後の1997年に当時の切迫した状況を次のように語っていた。

 「当時、鄭鍾旭青瓦台(大統領府)外交安保首席補佐官がどこからか『駐韓米大使館が数日以内に米軍家族らに退去命令を出す準備をしている』との情報を聞き出してきた。確か1994年6月のことと記憶している」

 「駐韓米大使を呼び、事実関係を確認した後、金泳三大統領はクリントン大統領に電話をして『戦争は絶対にダメだ』と強く抗議した。クリントン大統領が国家安全保障会議を招集し、戦争に備えた兵力増強を論議していることを我々は全く知らされてなかった」

 「軍事行動直前にはおそらく米国は通報してくるだろうと思っていた。韓国軍と米軍が一緒に行動しなければならないわけだから。当時米国は韓国への通告や武力展開、駐在員の避難などの事前措置は北朝鮮に先制攻撃の口実を与えかねないと判断し、現状のままで直ちに攻撃する考えだった。私はもう驚きを飛び越え、我が国の運命がこのように決定していたのかと、虚脱感みたいなものを感じた」

 「戦争はやってはならないと駆けまわる以外に我々に手だてがなかった。実際、金泳三大統領がそうだった。朝鮮半島の軍事情報は全部米国が握っていた。米軍が我々に言わないのは我々に対する圧迫手段となる。『北朝鮮の核開発状況がここまで来ているのにそれでもお前らはいいのか』と迫られれば、我々に選択の余地はない」

 歴史は繰り返されるか、それとも、今度は止めることができるのか、文大統領の手腕が問われる。

(参考資料:「ソウルを重大な脅威に陥れない」米国の軍事オプションとは何か?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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