これからの製造業は「このギャップ」を知らない営業が会社を潰す
「どうしてこんなに受注しているのに、まるで利益が残らないのだ」
経営会議で社長がため息まじりにこぼす。そんな場面が、今や珍しくなくなってきた。
営業パーソンが安易な値引きや無理な納期を約束し、そのしわ寄せが調達や製造に及ぶ。気づけば追加コストがかさみ、赤字に転落しているのだ。
実はこの状況を防ぐためには、「標準原価」と「実際原価」を比較して生まれるギャップ――「原価差異」を理解することが必要だ。
今回は、このギャップを知らずに営業を進めると、いかに会社を傾かせるかを解説したい。対象は中小製造業の経営者や営業パーソン、そして調達や生産管理の責任者だ。なぜ営業パーソンにも「原価管理」の知識が必要なのか、その理由が得られるはず。ぜひ最後まで読んでいただきたい。
■原価差異とは何か?
たとえば野球を観戦していると、「相手チームの投手なら、これくらいの失点に抑えられるだろう」と試合前に予想することがある。
ところが思わぬエラーや連打が続くと予想を大きく上回る点差がついてしまう。だから試合後には「こんなはずではなかった……」と落胆するのだ。
原価差異とは、この「予想と実際のギャップ」である。とくに製造業では、「標準原価」と「実際原価」を比べて、そのギャップを把握することは重要だ。
では、この標準原価と実際原価とは、どういうものなのだろうか?
標準原価は「通常この条件なら、これくらいのコストで生産できるはずだ」という目安。材料費や人件費などを見積もって決める。
いっぽう実際原価は、現場でかかったすべてのコストを合計したもの。もし両者の差が大きくなると、予想していた利益が目減りし、最悪の場合は赤字に転落してしまう。
■原価差異にはどんな種類があるのか?
原価差異という言葉を聞くと、多くの人が単なる「コストのズレ」というイメージを持つかもしれない。実は私もそのように誤解していた。しかし実際の製造現場では、どこでコストがズレたのかをさらに細かく分類して考えなければならない。
たとえば野球でいうと、投手が打ち込まれたのか、守備陣がエラーを重ねたのか、それとも作戦ミスなのか——。
原因が異なれば対策も変わる。ここでは、原価差異の主な種類として「材料費差異」「直接労務費差異」「製造間接費差異」の3つを見ていこう。
(1)材料費差異
「材料費差異」とは、調達する材料の価格や仕入れのタイミングが想定より変動して生じる差のことだ。
たとえば世界的な資源高や為替リスクによって原材料が高騰し、標準原価を上回ったとしよう。その結果、実際原価がかさんでしまうようなケース。これが典型例だ。
野球でいうと、早い回で代打を使いすぎて、後半に活躍してほしい選手が残っていないイメージだ。調達のタイミングを誤ると、その差額がそのままコストアップになり、利益を圧迫する。
(2)直接労務費差異
製品を直接つくる作業者の人件費にかかわる差が「直接労務費差異」だ。
受注が重なって残業が多くなったり、新人を増員して教育コストがかさんだりすれば、標準原価で見積もっていた労務費とズレる。
これは先発投手が早い回で打ち込まれ、ブルペン投手を大量投入せざるを得ない状態に近いと言えよう。営業が「絶対に間に合わせる」と自信満々に受注してきても、実際には人手不足や時間外労働が多発し、コストがかさんでしまう。
(3)製造間接費差異
製造にかかわる間接的なコストのズレが「製造間接費差異」だ。設備保守費や工場全体の光熱費、検査費用などだ。
たとえば、突然の設備故障で修理代が大幅に増えたり、外注先に追加発注した分の費用がかさんだりすれば、実際原価が膨らむ。この製造間接費は、日ごろあまり意識されないだけに、想定外の出費が出やすい部分でもある。
(※野球でたとえたかったが、思いつかないので割愛する)
以上のように、原価差異とひと口にいっても、その内訳は材料費・直接労務費・製造間接費という3つの種類に大別できる。
それぞれの原因も対策も異なる。そのため、野球でいえば「投手力なのか、打線なのか、守備力なのか」を見極めること、どこで差が出ているのかを把握することが重要だ。
■営業にとっての原価差異分析
営業パーソン自身が計算できなくてもいい。しかし原価差異の概念も知らずに価格設定や納期を提案すると、会社全体が苦しむことになる。
どれだけ売上が伸びても、材料費や人件費の急騰、不意の追加対応などでコストが膨張すれば、結局は赤字に転落しかねないからだ。
そこで営業パーソンは、調達や生産管理とこまめに連絡をとり、「どんなコスト変動が起きうるか」をあらかじめ把握しておきたい。値下げや短納期のリスクを説明し、顧客とも無理のない条件を交渉する。こうしたダンドリを踏まえることで、会社としての利益を守りつつ、顧客満足にも繋げられるのだ。
<参考となる動画>
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