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売れば売るほど赤字になる! 中小製造業は今どのように営業組織を改革すべき?

横山信弘経営コラムニスト
どのように情報連携するかがカギ(写真:イメージマート)

売れば売るほど、赤字になる。

昔は利益が出ていたのに、いまはまったく稼げない。値上げしてどうにか赤字を免れたが、ひと段落するとまた利益が出ない体質に戻ってしまう。

こういった悩みを抱える中小製造業が近年増えている。最大の理由は「調達の不確実性」が高まっているからだ。

世界的な原材料価格の乱高下や、地政学リスク、為替の急変動などにより、必要な材料を安定的に手に入れられない。にもかかわらず営業パーソンたちは昔のやり方に固執し、製造部門や調達部門と積極的に連携しようとしない。

今回はこうした中小製造業の現場を見つめ直し、なぜ売れば売るほど苦しくなるのかを解説したい。解決策の糸口として、情報共有と組織改革、人材育成の大切さについて触れていく。法人相手の製造業の経営者、マネジャーはぜひ最後まで読んでいただきたい。

■製造業が抱える調達4つの課題

法人相手の製造業では昨今、次の4つの課題が顕在化している。これらが複雑に絡み合うことで、「売っても利益が出ない」という深刻な事態を招いているのだ。

(1)原材料価格の高騰と変動リスク

(2)サプライチェーンの脆弱性

(3)取引構造の硬直性

(4)営業部門のデータ連携不足

それでは、一つ一つ解説していこう。

第一に、原材料価格や為替の激しい変動によって起きる課題だ。営業が昔ながらの価格設定で見積書を出してしまい、後から調達コストが高騰しても転嫁できない。その結果、利益を圧迫する。

第二に、サプライチェーンにおける課題だ。特定サプライヤーや海外の一地域に依存している企業は要注意。物流が滞れば生産が止まる恐れもある。しかし、営業がお客様と納期を取り決めた後に、そのリスクを知っても遅い。

第三に、取引構造が課題となるケースだ。系列会社との取引や慣行によって、新しいサプライヤーを開拓しにくい企業は多い。こういった企業は、コスト変動や在庫リスクを回避できないまま抱え込むことになる。

第四に、情報共有の課題だ。一般消費財とは違う。お客様のニーズを真っ先につかむのは営業だ。しかし日ごろからスムーズに情報共有していないと、在庫がないのに受注してしまったり、調達コストに見合わない見積りを出すといったミスをおかしてしまう。

■泥沼化する「売りたい」営業と「作りたくない」製造

売り先がある以上、「もっと売りたい」と思うのは営業の性(さが)である(そうでなければならない)。

それに「顧客視点」が重要視される時代だ。お客様の課題を解決するために、営業パーソンたちは、さまざまな提案を行う。私ども営業コンサルタントも、そのように指導している。しかし製造部門がそれに応えられるかどうかは別問題だ。

調達が不確実なので、必要材料が集まらない。リードタイムが短すぎて現場が回らない。営業に「顧客視点」はあっても「製造、調達視点」は乏しい。当然、そんな営業パーソンたちを見ていると、製造、調達側は「そんなのムリだ」と突っぱねたくなるだろう。

その結果、営業側は、

「せっかく売れそうなのに生産してくれない」

「顧客が必要としている製品を出せない」

と常に不満をためていくし、調達側はというと、

「材料が手に入らないのに、勝手に受注を増やしてくれるな」

と感じる。これでは部門間の仲が悪くなるのもムリはない。

最も頭を抱えているのが経営陣だ。現場における情報共有がうまくできていないせいで、赤字のリスクを常に背負い込んでいる。値上げで一度は赤字を回避しても、世界情勢やコストの変動で、再び薄利か赤字に転落するというサイクルが続くのだ。

■情報共有を促進する3つの柱

こうした状況を打開するには、どうしたらいいのか。「仕組み」「組織」「人材」の三つの柱で考えてみよう。

(1)仕組みづくり

(2)組織改革

(3)人材育成

どれか一つだけ整えても効果は薄いので、ぜひ3つともチェックしてほしい。

(1)部門を超えた情報共有の仕組みづくり

法人相手の製造業の場合、大量のデータを処理する必要はほとんどない。高価な情報システムを導入するのではなく、最低限「営業がつかんだ顧客ニーズと、調達コスト・在庫状況を常に共有する」仕組みさえあればいい。エクセルのような表計算ソフトでも十分だ。

まずは以下のような項目を見える化してみてほしい。

・お客様ごとの契約条件・希望納期

・主要原材料の調達コスト・在庫残量

・今後数ヶ月の需要予測と生産スケジュール

これらを営業、製造、調達、経営陣が(できる限りリアルタイムで)確認できる状態にしておく。手間をかけず、柔軟に変更できて、全員がアクセスできる仕組みが望ましいだろう。

重要なのは、コストに関する最新情報を営業が把握できること。営業が得た顧客ニーズを調達部門が早めにキャッチして対策を打てることだ。

(2)部門の壁を取り払う改革

現在の中小製造業には、「営業は売上」「製造は原価」「調達は購買」など、それぞれが自分たちのKPIだけを見て動く文化が根強く残っている。時代が変わり、ここまで不確実性が高まると、「部分最適」の考えでは利益が出づらい体質になっていく。

経営者が主導して、クロスファンクショナルチームを作るか、経営トップによる「全体最適」の旗振りをすべきだろう。そうしないと、それぞれの部門が現状維持バイアスにかかったまま進んでしまう。

(3)視点の共有と意識改革

売りたい営業と、作りたくない(作れない)製造。両者の対立を和らげるには、お互いの仕事を理解し合うことが第一歩となる。意外と心情的なことが原因のこともある。

営業部門が観ている世界と、製造や調達部門が意識している世界を重ね合わせる努力が必要だ。

営業パーソンが調達・製造の現場をまわり、在庫管理の難しさや、原材料の調達リードタイムを体感するのもいいだろう。逆に製造側も、顧客への提案活動や値上げ交渉がどれほど神経を使うものかも学んでもらいたい。

製造や調達に比べ、営業活動がいかに不確実な取り組みか。ほとんど経験がない人は、大きな気付きを得られるはずだ。

■まとめ

売れば売るほど赤字になる状況から抜け出すためには、これからの時代、部門間の情報共有とコミュニケーションを強化することだ。とくに「調達コスト」「在庫状況」「顧客ニーズ」という三大要素を、営業・製造・調達が迅速に共有し合う仕組みをつくる必要がある。

そのうえで、全体を俯瞰しながら、どのように値決めをするか、どの製品を優先して生産するか意思決定する人や組織を創設することだ。こういった取り組みを地道に進めることで、中小製造業は利益を最大化させることができる。変化の激しい時代も乗り切ることができるだろう。

<参考となる動画>

<参考記事>

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経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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