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時代遅れの企業は「組織」と「戦略」どっちを優先する?

横山信弘経営コラムニスト
(写真:イメージマート)

新しい事業を起ち上げたい。これまでとは違うビジネスモデルで挑戦したい。

しかし……。

企業が新しい事業やビジネスモデルを描こうとするとき、まず考えるのは「今いる人材を活かすべきか、それとも思い切って入れ替えるべきか」という課題だ。

もし現行メンバーが新たな事業、戦略についていけないなら、スパッと入れ替えることも選択肢としてあるだろう。しかし、日本企業でそんな割り切りができるだろうか?

近年、オムロンやホンダといった日本を代表する企業が、業績が悪化してもいないのに大型リストラに踏み切った。単なる社内の配置転換では、本格的な事業転換など不可能と考えたからだ。

今回は事業転換を考えるとき、「戦略は組織に従う」「組織は戦略に従う」のどちらのアプローチをすべきか、分かりやすく整理していく。経営者や組織マネジャーにとって戦略と組織のあり方を再考するきっかけになるはずだ。ぜひ最後まで読んでいただきたい。

■「戦略は組織に従う」が基本路線か

それではまず、用語説明から入りたい。最初は「戦略は組織に従う」である。

「戦略は組織に従う」というのは、現行の組織が持つスキル・思考(のクセ)・経験などに合わせて戦略を策定する考え方だ。

とくに、40代・50代のベテラン社員が多く、会社の文化や慣習を長年支えてきたような成熟企業にとっては、このアプローチが有効かもしれない。なぜなら長く会社を支えてくれたメンバーが急な変革に対応できず、組織から離脱してしまうリスクを最小限に抑えることができるからだ。

とはいえ「社員ができること」に合わせると、ビジネスモデルや商品、営業手法の抜本的な刷新は難しくなる。それでも、これまで築いてきた顧客との関係や、社員一人ひとりが持つ職人気質のノウハウは捨てがたい。

そこで重要なのが「現状認識」と「継続的な育成」だ。

たとえば御用聞き型の営業スタイルしか経験していないメンバーが多い場合、いきなり課題解決型の提案営業を求めてもハードルが高い。

であれば組織に合わせて売りやすい商品や仕組みを用意し、少しずつステップアップしてもらう。そうすることで既存の人材を活かしながら業績を伸ばすことができる。企業のライフサイクルが成熟期に差し掛かり、極端な成長よりも安定と社員の定着を重視する段階では、「戦略は組織に従う」ほうが大きな混乱を招きにくい。

もちろん、この戦略を取るからといって新しい取り組みを一切しないわけではない。

環境変化に合わせるための育成や改善は必要だ。そこでカギとなるのが、社員たちに合わせたペース配分である。「我々の組織に合った形で、少しずつ成長していく」という姿勢が、長期的な成果と安定をもたらすのだ。

製造業でよく使われる「改善無限」の精神を心がけよう。

■「組織は戦略に従う」は覚悟が必要

次に「組織は戦略に従う」である。

「組織は戦略に従う」は、その名の通り、戦略が先にある。そして次に戦略を実行するための最適な組織を創り上げる。こういった考え方だ。したがって日本の成熟企業においては、なかなか取りづらいアプローチだと思う。

サッカー日本代表の監督交代にたとえてみよう。攻撃的スタイルを貫いてきた監督が、守備的にシフトしたい監督に代わった場合、守備力を重視した選手を選抜するのは当然だ。戦略に合わない(守備をやりたがらない)フォワードを外すようになるのも仕方がないことだ。

したがって、まずビジネスの方向性や扱う商品を明確にする。そして、それらに適合しない人材は入れ替える。極端に書くと、そういうことだ。成熟期ではなく、創業期、成長期の企業ならこのアプローチは有効だろう。反対に、成熟企業で実践しようとすると難しいのではないか。

「組織は戦略に従う」のアプローチが有効なのは、大きな変化やイノベーションを必要とする段階の企業だ。

従来の商品の市場が縮小していて、まったく新しい分野に挑戦しなければならないときには、長年会社を支えてくれた人材でも、その変化に対応できない場合は退いてもらうしかない。経営者の視点からは、組織に大がかりなテコ入れを行いやすいので、ダイナミックな変革をスピーディに進められるメリットがある。

とりわけ採用戦略が重要になるのも、この「組織は戦略に従う」の特徴だ。

自社が新たに打ち出したいビジネスモデルを実現するために、どういったスキルセットや思考、価値観を持つ人材が必要なのかを明確化し、そこに合わせて採用を進める。必要であれば外部の優秀な人材をリーダー層に招き、既存のメンバーに取って代わることも考えるべきだ。

その結果、短期的には社内の空気が一変し、抵抗感が生じることもあるが、環境変化への対応力は高まるだろう。

■最悪なのは「どっちつかず」

「戦略は組織に従う」「組織は戦略に従う」のどちらかが絶対に正しいというわけではない。

企業のライフサイクル、社員の年齢層や思考、これまで築き上げてきた企業文化、そして今後求める成長スピードによってどちらを選択したほうがいいかは違ってくる。

ただ、私の考えを書かせてもらうと、最悪なのは「どっちつかず」だ。

「社員を大切にしたいが、会社の戦略に従ってもらう」

「まったく新しい商品を扱うが、みんな頑張って売ってくれ」

こういう発想をするのは、やめよう。

・新事業、新商品の採用 → 「組織は戦略に従う」のアプローチ

でなければならない。

社内の人材を異動させて、新しい組織を作るのはやめよう。外部から最適な人材を採用して組織を作るのだ(その際、その事業や商品のプロが採用の合否を決めなければならない)。どうしても社内から異動させたいなら、外部からの採用と同じプロセスを取り、試験をパスした人だけにする。

そうしないと社長や事業責任者が思い描いたような結果を手にすることは難しいだろう。とくに営業はそうだ。バナナを売っていた人がオレンジを売るのとは違う。

以前、工作機械を売っていた企業が、工作機械を管理するシステムの販売もはじめた。しかし新しく営業を雇わず、工作機械の営業にそのまま売らせたため、まるで期待外れの結果になってしまった。

営業は、

「このような管理システムの需要は少ない」

と商品のせいにしたが、実はそうではなかった。マーケットはあるのだが、売る相手も売り方も値付けも、工作機械そのものとはまるで違うことが真因だったのだ。

社内で新しい事業を起ち上げたら「組織は戦略に従う」のアプローチで進めるべきだ。これが基本である。

■まとめ

戦略と組織の関係性は、企業のステージや組織文化によって千差万別だ。

ただ大切なのは、いずれの方向に進むにしても、現状を正しく認識することだ。現状認識が甘いと、

「他社がうまくいっているのなら、わが社もいける」

と安直に考えてしまう。組織の新陳代謝を進められないのなら、「改善無限」の精神で粘り強く実行することだ。どんなに素晴らしい戦略があっても、そこに合った組織がなければ実を結ばないのだから。

<参考記事>

なぜ戦略が戦術より先なのか? 営業生産性をアップする2つのステップ

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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